「私は番外の人間ですので余り発言しないつもりでしたが、それでも会議の途中で思わず少し口出ししてしまい申し訳ありません(笑)。」というような前口上で、私が議長に指名されて、しめくくりの挨拶をした。
新しい歴史教科書をつくる会第8回定期総会が9月25日午後1:00~4:00虎の門パストラルの大会議場で開かれた。全国から集まった約200人の正会員が熱心に討議をくり広げた。成功とはいえない採択のにがい結果にも拘わらず、会の空気は快活で、気力もあり、ひたむきに前向きだった。
ただ私の心の中には、17日の全国活動者会議で北陸のある県の代表から聞いたことばが重苦しくのしかかっていた。北陸は圧倒的な保守地盤である。日教組もほとんど力がない。日の丸・君が代も抵抗なく励行されている。というのに、彼はドアをこじ開けることができなかった。
開けようとすると、立ち塞がるある暗いものの影がある。ぞっとする。「それは何ですか」と質問する人がいた。「分りません。教師の世界の閉ざされたメンタリティー、そう言ってしまえば簡単です。そういうものでもない。それは闇のようなものです。」「教科書業界の利権でしょう?」と別の人が質問した。「そうかもしれません。しかしもっと何か奥深いもの、遠いものと絡んでいる。威圧するものがある。地元をよく知るわれわれがこの年齢になって今年初めてぶつかった説明のできない壁です。」
以上は総会の一週間ほど前に聞いた話である。今回の採択の不首尾を象徴するような話だった。
総会でもさまざまな角度から「壁」が語られ、議論された。しかし総会では「壁」を動かないもの、毀せないものだとは誰も考えていなかった。私は最後の挨拶を求められていた。
「本日はご参集のみなさま、ありがとうございます。熱心なご討議も、また各種議案のご可決にも感謝申し上げます。さて、私は本日の会の終結にあたり三つほど夢を語ってみたいと思います。夢ですから多少無責任ですが、お許し下さい。
教科書法の制定を求める運動が確認されました。教育委員会制度の見直し、権限の明確化ということですが、教師上りはレイマンコントロールの趣旨からいって教育委員にはなれないという法的とりきめがきちんとなされるのが望ましいのです。そういうことは先ほどもどなたかが仰言っていました。私は加えて、教科書販売に関し出版社の営業活動がいっさい禁止されるべきだと思います。道路や橋の談合についてあれほど世間は騒いでいます。しかし、談合の弊害が教科書においてはるかに著しいことは、道路や橋の比ではないのです。公正取引委員会がこれを黙認し、放置しているのはおかしい。
教科書会社の営業が禁止されることになれば、東京書籍の営業マン150人が全員解雇されることになります(笑)。扶桑社にも迷惑をかけないで、対等に採択戦に臨める。まあ、いいことばかりです。
これは夢ですが、あり得ない話ではないですよ。理屈からいって、正夢なんです。」