ポスト小泉について(一)

 私は文藝春秋6月号のアンケート「ポスト小泉」に答えて、安倍晋三氏を挙げ、400字ほどの理由を書いた。「日録」でもここに掲げておいた。

 私がこれを書いたのは4月である。氏を第一に挙げた私の理由説明は勿論今もまったく変わっていないが、あれから国内の政治環境は激変した。

 10月31日に内閣改造があり、安倍氏は官房長官になった。いつもならお目出度うと慶賀したい処だが、首相が首相であるだけに、茨の道であろうと不安のほうが大きい。麻生外相、中川農水相に対してもひとまず良かったと思うと共に、大丈夫かなァと首相との同道に対し同様に一抹の危惧を抱く。

 皇室典範改正問題がまっ先にくる。人権擁護法の国会上程も近づく。どちらも新官房長官の力量で廃案に持って行ってもらわなくてはならないほど危い内容の法案である。けれども安倍さんは官房長官であるだけに首相と一体といわれて、自分の考えを唱えることができまい。

 皇室典範改正を議する有識者会議はなぜか結論を急いでいる。国民の意見はこれ以上聴聞しないと言っている。女帝論に目立つ反論はないときめつけてもいる。いかなる政治家の口出しも許さないと言っている。さらに皇族の方にもご相談申し上げるつもりはないと宣言している。

 この閉鎖性と独断性は郵政民営化法案のすゝめ方とそっくり同じである。有識者会議のウラで首相の意志が働いているものと予想される。

 女帝論(女系天皇容認論)に異を唱える保守派の主張内容を安倍氏は十分に理解しているはずである。しかし小泉首相の意に逆らって自分の考えを通すことは出来るだろうか。恐らく出来まい。そうなると自分の意見を押し殺す苦しみだけで終らず、言動の矛盾が外に現れてしまうであろう。人権擁護法案を首相が通すと言ったときには、この矛盾はさらに大きくなるだろう。

 北朝鮮への経済制裁は安倍氏の年来の主張であった。一方、首相は頑として経済制裁をしない方針を貫いてきた。スポークスマンにすぎぬ官房長官はここでも矛盾をさらけ出し、拉致被害者の家族たちを失望させるだろう。と同時に、安倍氏への国民的信頼も傾くだろう。

 こんな種類の困難はこれからも相次いで起るような気がする。首相はそうなる情勢を見越しているのではないか。ポスト小泉の第一走者安倍氏に恩を着せる暖かい後見人のような振りをして、そのじつ安倍氏の言動の矛盾を天下に知らしめようとする悪意を隠しているのではないだろうか。

「ポスト小泉について(一)」への7件のフィードバック

  1. ピンバック: なめ猫♪
  2. ピンバック: 徒然なるままに
  3. ピンバック: 徒然なるままに
  4. [まあ、私も、西尾先生も、産経抄子も・・・^^]

    ▼2005年11月01日 23:25
     西尾幹二 『インターネット<日録>』より
    ≪ポスト小泉について(一)[時事問題]
     (前略)・・・10月31日に内閣改造があり、安倍氏は官房長官になった。いつもならお目出度うと慶賀したい処だが、首相が首相であるだけに、茨の道であろうと不安のほうが大きい。麻生外相、中川農水相に対してもひとまず良かったと思うと共に、大丈夫かなァと首相との同道に対し同様に一抹の危惧を抱く。
     皇室典範改正問題がまっ先にくる。人権擁護法の国会上程も近づく。どちらも新官房長官の力量で廃案に持って行ってもらわなくてはならないほど危い内容の法案である。けれども安倍さんは官房長官であるだけに首相と一体といわれて、自分の考えを唱えることができまい。
     (中略)・・・女帝論(女系天皇容認論)に異を唱える保守派の主張内容を安倍氏は十分に理解しているはずである。しかし小泉首相の意に逆らって自分の考えを通すことは出来るだろうか。恐らく出来まい。そうなると自分の意見を押し殺す苦しみだけで終らず、言動の矛盾が外に現れてしまうであろう。人権擁護法案を首相が通すと言ったときには、この矛盾はさらに大きくなるだろう。
     北朝鮮への経済制裁は安倍氏の年来の主張であった。一方、首相は頑として経済制裁をしない方針を貫いてきた。スポークスマンにすぎぬ官房長官はここでも矛盾をさらけ出し、拉致被害者の家族たちを失望させるだろう。と同時に、安倍氏への国民的信頼も傾くだろう。
     こんな種類の困難はこれからも相次いで起るような気がする。首相はそうなる情勢を見越しているのではないか。ポスト小泉の第一走者安倍氏に恩を着せる暖かい後見人のような振りをして、そのじつ安倍氏の言動の矛盾を天下に知らしめようとする悪意を隠しているのではないだろうか。≫

    ▼2005年11月02日18:56
     私のサイトの掲示板より
    ≪西尾幹二「日録」感想 ミッドナイト・蘭@携帯
     向こうは、携帯受け付けないので、こっちに寸評。
     私も、西尾先生と同じく、今回の小泉内閣改造を逆説的に見ることはした。
     西尾先生は、安倍氏の立場を心配したようだが、私は麻生氏に思った。
     これからの一年、麻生氏は致命的失敗を被るように仕向けられるのじゃないか?
     だけども、いくらなんでも、その妄想は杞憂と断じ、意識から捨てた。
     安倍氏も、これからの一年を試練と期すべきだ。 ≫

    ▼2005年11月03日 朝刊
     産経新聞『産経抄』より(全文引用しちゃう)
    ≪毒をもって毒を制すということばがある。ナポレオンが「ブリュメール十八日」のクーデターで権力を握り、変幻自在のフーシェをパリ警視総監に留任させたことがそれだ。曲者(くせもの)にしかできない仕事を彼にあてがい、失敗すれば「それで自滅するもよし」と考える深慮遠謀である。
     ▽不謹慎ながら、小泉純一郎首相がいう「サプライズなし」組閣で、この話を連想してしまった。外相、官房長官がそろって靖国神社参拝の積極論者で、「タカ派」を自任する外相起用の際の首相発言が巧妙だった。「福田内閣の時、日中関係がうまくいった。タカ派の方が外交はうまくいく」。
     ▽毒ならぬタカをもってタカを制すということらしい。そのココロは、日中平和友好条約を結ぶことができたのは、親台湾タカ派の福田赳夫首相だったからだ。確かに、米中国交回復に道を開いた共和党のニクソン米大統領も、元来が反共主義の下院議員だったから、なるほどと膝(ひざ)を打った。
     ▽ただし、麻生太郎外相や安倍晋三官房長官がまみえる中韓は「超」のつく対日タカ派ばかり。麻生外相が「話し合いを」といえど、中国の報道官は「対話の問題ではない」と問答無用だ。
     ▽日本の国連常任理事国入りを阻止するために、アフリカ諸国には手紙攻勢をかけたらしい。「中国と敵対する国を支持する場合は、中国の立場は変わる」との露骨な圧力だ。「敵対する国」とは日本以外にはありえない。
     ▽逆に台湾からは、麻生外相こそ「強い外相になるだろう」とエールが送られてきた。李登輝前総統が記者会見で「国益中心の組閣になった」と小泉組閣を持ち上げていた。外交とは祖国のための愛国的な芸であり、八方が丸く収まる特効薬はなし-と心得たい。≫

    ▼つまり、だ。
    「天才」たるもの、此度の小泉改造内閣を想うとき、即座に、この観点を得る程度の頭の回転が必要と言うことやね。
    いや、今さら、同じこと言っても遅いよ^^;
                 (2005/11/03)

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