ポスト小泉について(二)

 第三次小泉内閣はサプライズもなく、政界の常識に戻った落着いた布陣であるとひとまず安心して受け取られているようである。しかし安心させることがひょっとしてサプライズではないのだろうか。首相の戦術ではあるまいか。

 ここで再び「刺客」さわぎのようなハチャメチャな人事、例えばホリエモンを入閣させるようなことをやれば、首相はいよいよ本当に気が狂ったかと思われ、自分が危いと直観的になにかを感じていたに相違ない。その逆の手を打ってくることはわれわれの想定内にあった。

 けれどもそれなら今度の布陣はバランスのよくとれた堅実な内閣だろうか。どの新聞も「論功行賞色濃く」と書き立てたように、郵政民営化法案の成立のために汗を流した人、決定的な役割を果した人ばかりがズラッと並んでいる。「私たちは首相の御為に誠心誠意励みました」と叫んでいる人々のオンパレードである。

 人事がある程度の論功行賞になるのはやむを得ない。しかしここまで露骨な例は稀である。改造直後の記者会見で、首相は「改革続行内閣」だと謳い、相変わらず改革を公的使命感に結びつけているが、はたしてこの人選が国家のために考え抜かれた「公」の表現だろうか。誰もそうは思うまい。首相の「私」の表現、私心、邪心、下心の表現であろう。

 「偉大なイエスマン」と恥も外聞もなく自己呼称する武部幹事長、30人の総務会で賛成7票、反対5票(棄権18票)をもって多数決と決し、しかも党議拘束までかけた久間総務会長の留任がおべんちゃらの代表であるなら、内閣に目をやると、竹中平蔵総務大臣を筆頭に、小池百合子環境大臣、与謝野馨金融財政担当大臣、二階俊博経済産業大臣、川崎二郎厚生労働大臣、松田岩夫科学技術食品安全担当大臣らもまた一連のごますりメンバーの名前である。

 それにこの他にも、今回は困った人がたくさん選ばれている。社民党から出た方がふさわしい思想の持主が少くない。ヒューマニストぶって死刑廃止の失言をしたあの杉浦正健法務大臣がそうだし、男女共同参画担当とまで銘打った大臣に持ち上げられ、子供みたいにはしゃいでいる「小泉チルドレン」の代表・猪口邦子氏がそうである。男女共同参画社会基本法は今や党内の一部でも再検討の段階に入っているのに、ここでも首相はそういう動きを知らず、自らが「左翼」であると馬脚を露している。

 新三役の一人に選ばれた中川秀直政調会長は、杉浦法務大臣、二階経済産業大臣とともに人権擁護法の推進派であり、公明党の北側一雄国土交通大臣も同類であろう。それに、東シナ海のガス田でひとりがんばった中川昭一氏が農水大臣に横辷りし、これから重大局面を迎えるガス田担当の経済産業大臣に何と二階氏が回った。これはどういう謎を秘めているのであろう。

 二階俊博氏は人も知る通り、なんとまあ、江沢民の銅像を選挙区の和歌山に建てようとして地元の反発で挫折した、愚劣の極を行く媚中派の人物である。中国と激しく渡り合うことになる役になぜ彼を当てたのだろう。なにか秘密がありはしないか。

 噂は勿論ある。10月17日の首相の靖国参拝で中国が反日暴動をもう起させない、という代償に、日本はガス田の開発を放棄し、中国側に事実上開発権を与えた、というのである。そのウラ取引きに走ったのが先日訪中したトヨタの奥田会長だ、というのだが、この交渉に硬派の中川昭一氏は邪魔だから外された、という噂がある。噂は結局、ただの噂で終ってウソだったということになって欲しい。それにしても経済産業省のポストに二階氏が就いたことは不気味である。ガス田の問題はいよいよこれからなのである。軍事衝突の危機を孕んでいることは人も知る通りである。

 第三次小泉内閣は安倍晋三氏と麻生太郎氏という右寄りの政治家を目立つ位置に据えたので、いかにも中国サイドに厳しい内閣、国内左派にも暴走を許さないしっかりタガをはめた政権のような印象を与えているが、内実はどうだろう。

 安倍、麻生、中川(昭)の三氏を除けば、私にいわせればほとんどが怪しげな思想の持主である。谷垣禎一財務大臣も、「加藤の乱」で涙を流したあの加藤紘一氏の弟子筋で、思想はセンチメンタル左翼、私の記憶ではオウム真理教の破防法適用に反対した人である。今度の内閣になぜこんな人ばかりが選ばれたのだろう、と悩ましい思いがする。むしろ内閣全体が党の中心機軸からぐんと左傾したメンバーで成り立っている。安倍官房長官の舵取りは至難の技だろうと言ったのはその意味である。

 自民党はもはやたしかに保守政党ではない。平沼赳夫氏らを今度の選挙で追放してしまった結果、さらに人材払底の悲惨をみせつけている。

「ポスト小泉について(二)」への4件のフィードバック

  1.  今回初めての投稿となります。宜しく御願いします。
     私は一介の大学生ですが、今回の内閣改造については、貴兄と同じく疑問を持っておりました。確かに、麻生氏の外相就任、並びに安倍氏の官房長官就任に関しましては、福田氏の返り咲きが無かった点では好ましいとは思いますが、それでも他の面、特に中国様万歳思想の持ち主と思われる二階氏の経産相就任。
     そして、危険なフェミ思想をまき散らして児童に害悪を与え続けている男女共同参画基本法による猪口氏の就任には激しく疑問を覚えておりました。今回の貴兄のお考えを見るまでも無く、何らかの理由により首相はガス田を中国に献上するつもりなのか。と。いや全く、日本の未来はどうなってしまうのでしょうか。

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