歴史は復讐する

 皇位継承問題について、朝日新聞から寄稿を求められた。13字×100行=1300字というわずかな分量だが、担当者との打ち合わせも密にして、コンパクトにまとめることができた。

 少ない語数の中に多くを盛りこむのはむつかしい。できるだけ論理的に書いて、情緒的な形容詞などを省いた。「呪わしい悪夢」の「呪わしい」を削り、「澎湃として沸き起こる」の「澎湃として」を捨てた。それでかえってよかったと思っている。こんなに言葉を切り詰めて、400字詰め原稿用紙で3枚と5行で、ぎりぎり言うべきことを言ったのは初めてである。

 新聞社サイドは天皇制否定の共和制論者、女性天皇の積極論者、それに私の3人を並べて「視点」欄をつくる模様である。他の二人は誰であるのか、私はまだ聞いていない。

 有識者会議の無知の広げた世論に対し、小さな拙文が大きな破壊力を持つことを祈っている。

(以下、12月3日朝日新聞朝刊より転載)

 

 天皇の制度をなくした方がいいと考える人は別として、天皇の存在は日本人に末永く必要だと考え、そのうえで女系天皇でいいと主張するのは間違いだといいたい。

 有識者会議の答申は「将来にわたって安定的な皇位継承を可能にするため」女系天皇をも良しとするが、これは考えが足りない。

 旧宮家の皇籍復帰よって男系を守らない限り、皇位はむしろ不安定でトラブル続きになる。もし女系天皇を頂けば、30~50年後に今の天皇家はその正統性を問われ、政治的に左右両翼から挟み撃ちに遭うだろう。

 左派の最も意識的な天皇制度の否定者は共産党とその関連の知識人である。私のみるところ彼らは、女系天皇の容認は制度のなし崩し的否定に通じると見て歓迎してさえいる。この道を進めば、恋愛や離婚の自由、退位や皇籍離脱の自由、つまり皇族の人権化を通じて天皇制度そのものを破壊できる。「万世一系の天皇」という歴史的正統性からみて疑わしく贋(にせ)ものの天皇だ、と訴えることもできる。

 他方、右派からみても、女系の容認は皇室の系図をめちゃくちゃにするのでとうてい許せない。有識者会議の答申は女性天皇、女性皇族の配偶者も皇族とするといっている。衆議院議員○○家の長男、会社社長△△家の次男といった民間人がいきなり皇族に列する可能性がある。

 これは○○家、△△家の系図が天皇家の系図になるという歴史上例のない事態の出現であり、わが家系を天皇家にしようという権勢権門が競争して殺到するであろう。

 もし愛子内親王とその子孫が皇位を継承するなら、血筋を女系でたどる原則になるため、天皇家の系図の中心を占めるのは小和田家になる。これは困るといって男系でたどる原則を適用すれば、一般民間人の○○家、△△家が天皇家本家の位置を占めることになる。

 どちらにしても男系で作られてきた皇統の系譜図は行き詰って、天皇の制度はここで終止符を打たれる。

 今から30~50年後にこうなったとき、「万世一系の天皇」を希求する声は今より一段と激しく高まり、保守伝統派の中から、旧宮家の末裔(まつえい)の一人を擁立して「男系の正統の天皇」を新たに別個に打ちたてようという声が湧(わ)き起こってくるだろう。他方、左派は混乱に乗じて天皇の制度の廃止を一気に推し進める。

 今の天皇家は左右から挟撃される。南北朝動乱ほどではないにせよ、歴史は必ず復讐(ふくしゅう)するものだ。有識者会議に必要なのは政治歴史的想像力であり、この悪夢を防ぐ布石を打つ知恵だったはずだ。

 小泉首相は国民の意見も皇族の忠告も他の政治家の口出しも認めず、報告書通りに皇室典範改定を強行すると聞くが、独善的、閉鎖的なやり方は、郵政民営化のときとまったく同じ独裁主義の暴走だ。

 解決策は、旧宮家の皇籍復帰、養子縁組、新宮家の創設のほかには考えられない。有識者会議はこの方法について、戦後60年たつので国民の理解が得られないというが、これはおかしい。旧宮家は、明治天皇が皇女を嫁がせるなどした特別な存在であり、○○家や△△家の一般民間人が皇族になるよりは、はるかに違和感が少ないであろう。

「歴史は復讐する」への23件のフィードバック

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