帰国してみると梅雨(二)

 澤氏によると焚書図書は従来の目録の間違いもあって確かなところは総数約7100冊である。うち6100冊はページ数などを確認ズミ、さらにそのうち約5000冊を所蔵しているという。6100から5000を引いた1100冊は国立国会図書館で確認し得たものである。

 国立国会図書館は焚書図書の約7ー8割を保存していると彼は推定している。焚書を免れたのか、長い戦後史の期間に補充買いしたのか、詳細は分らない。澤さんが所蔵し図書館にないものもあるし、その逆もあるようだ。

 25日午後、鎌倉は雨だった。鶴岡八幡宮から海の方へ歩いて、お宅はすぐに見つかった。日本人の視界から姿を消した昭和20年までの大量の本がご自宅の生活の場につながる空間に、アイウエオ順で整然と収められていた。作りつけられた書棚は天井まで幾つも並び、人間がやっとひとり通れる隙間が何本か通路をなしている。

 じつは私も気がついていて、今度の論文で言及しているのだが、焚書はされなかったもののほゞ同質同内容の、周辺関連文献がある。澤さんはそれらも蒐めてこれは約10000点に達していると聞いて、見れば小さな色紙の付箋で区別して保管されている。10000点という数に驚いた。

 例えばある10冊の全集や叢書のうち1冊が焚書され、9冊がそうでないようなケースが見られた。しかし不思議なのは、なぜその1冊が選ばれたか基準が分らない。他の9冊のほうがGHQからみてずっと危険だと思われる場合もあるのだが、占領軍の没収の方針もずいぶんいい加減だったんですね、と二人で話し合った。

 澤氏は『総目録GHQに没収された本』を昨年上梓されたが、『GHQの没収を免れた本』という新しい目録を近く世に出したいとかで、作業中の大冊のノートをみせていたゞいた。

つづく

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