小泉首相批判について (二)

小泉首相の靖国へのこだわりを私は必ずしも本心と思っていない。総裁選に際し橋本龍太郎氏が握っていた遺族会の票をいっきょに奪い取る彼らしい恫喝的パフォーマンスのやり方の一つだった。

 もし彼が国を思う心の篤い人で、それなりに歴史観もしっかりしているなら、15日参拝を13日に切りかえたあの姑息な手を弄した――それ自体は首相になったばかりの不安で迷いもあったかと同情できるが――その折に公開した文書の内容が村山謝罪談話そっくりであったことをどう理解したらよいのであろう。

 ブッシュ大統領を訪問中に、首相が日本はアメリカによって軍国主義から解放され、おかげさまで民主国家になったなどと小学生レベルの自国史理解、ありふれた東京裁判史観を平気で語ったのをどう理解したらよいだろう。

 この程度の歴史理解で、特攻隊にだけなぜか特殊な感情反応を示すというのはかえって頭脳の単純さ、知性の低さを物語る以外のなにものでもないのではないだろうか。小泉首相が特攻隊への感動を口にするのを聞くたびに最近私はむしろ鳥肌立つ思いがするのである。

 首相の靖国参拝をありがたいと思っている方に抵抗するようで悪いが、私は以上のように判断している。

 さらに、ジェンキンス氏の一件もついでに考えておこう。

 ジェンキンス氏は朝鮮戦争中の利敵行為、反米宣伝、国家反逆の罪を犯して、数知れぬ米国将兵を当時死地に追いやることに協力している。朝鮮戦争の苦しみを忘れていないアメリカ国民は今もなお多い。小泉首相がなぜ安請け合いしたのか私には分らない。

 もしアメリカとの間で司法取引があるとすれば、アメリカ政府がイラク派兵の日米関係を重視してのことである。したがってイラクで日本の自衛隊に死者が出る可能性への先手を打っての日本への貸しである。

 われわれは演技上手の米国元脱走兵のために、イラクの日本人をその分だけ危険にさらしていることになる。演技上手と言ったのは、ジェンキンス氏が元俳優で、ピョンヤン空港で足取りも軽く階段を昇る姿をみせていたのに、ジャカルタから東京に向かうときには杖をつき、よろけるように歩いた急変ぶりが不可解なのに、その変化の説明がなされないのもおかしいと思ったからだ。

 小泉首相はジェンキンス問題をつかまされる前に、10人あるいはそれ以上の拉致被害者の安否問題に立ち向かうべきだったという当時の観測はやはり正しかった。安倍晋三氏は首相に向かって訪朝前に、ジェンキンス氏に会ってはいけない、会えば罠にはまる、と忠告したそうなのだ。

 小泉首相は慎重さもないし、判断力もない。家族会から「子供の使い」といわれたのは当然である。家族会は最近、民主党の岡田代表を頼りにし始めている。小泉氏の人間としての冷酷さに横田夫妻はもはや耐えられないらしい。

 曽我さんは首相の選挙向け宣伝に利用され大いに損をした。家族会全体が傷手を負った。拉致問題はまだ未解決だという認識が国民の間に定着していることだけが唯一の救いである。

 小泉首相は日朝国交正常化をわけもなく急いでいる。これを何としても阻止しなくてはならない。今の金正日体制と国交正常化をする理由も必要もなく、首相の個人的事情にすぎないであろう。 
(8月3日午後加筆修正)

「小泉首相批判について (二)」への1件のフィードバック

  1. この記事へのコメント
    西尾先生の所感が、同感であると、この文章を見て言うのではなく、このところそういう風に思ってきたから、快哉!的確な文章表現が出来ない者は、他に影響力を持ち得ないが、西尾先生の発言は、最近の政治状況の中では、重いものだと。
    Posted by 閑人 at 2004年07月28日 22:30
    初めて書き込みます。西尾先生の昨日の日録を拝見し、気になって過去の「自主の会」発行の機関紙「自主の道」を見てみたら、日本の政治勢力の分析として「日本の政治地図では小泉首相、福田官房長官は中間的な位置にあり」という記述を思い出しました。ちなみに、右翼勢力・好戦勢力は、石破茂、中川昭一、平沢勝栄、西村慎吾、阿部幹事長、中山恭子参与、斉木アジア大洋州局参事官だそうです。

    発行は2002年5月号です。筆者は季刊「自主の道」に毎号書いている大石 新という人物です。自主の会会員だそうです。リンク先のネット上の文章では分かりませんが、書店で確認してきました。
    リンク先PDF文書の10ページ目に書いてあります。

    http://www.cnet-ta.ne.jp/jishu/PDF/ohishi89.pdf

    また、2004年5月号には、小泉首相は靖国参拝をしていると紹介した後、「パフォーマンスとして靖国神社参拝をしている面が強い」「首相自らの考えもありますが、戦争を必要とし戦争をおしすすめる勢力の意向を反映している」(5ページ終わりから6ページ冒頭まで)とのことです。

    http://www.cnet-ta.ne.jp/jishu/PDF/ohishi93.pdf

    部分的に気になる文章だけつまみ出したので良くないのですが、少々気になりました。

    PDF文書は私のPCの場合フリーズすることがあります。リンク先を閲覧される方はご注意下さい。
    Posted by 北 at 2004年07月29日 03:48
    一言だけ、コメントさせてください。小泉首相は北朝鮮との国交正常化を積極的に進めようと考えている、とするのはマスコミによるミスリードです。首相の演説のコメントを最初から最後まで色眼鏡を使わずに読めば、国交正常化はほぼありえないのではないか?と思うはずです。拉致問題、核問題の完全解決がなければ国交正常化はしない、と発言しています。そして、これらの問題の解決がなければ、自分の在任中はもちろん何年たってもこのままだと宣言しています。核に関しては北朝鮮はアメリカの要求を蹴りました、現時点で核廃棄を北朝鮮がするであろうという考えは、北朝鮮政府のほうが日本政府とアメリカ政府よりも信頼できる、と言っているのと同じです。北朝鮮政府は信用できないでしょう?ともかくも、ぜひ一度原文に目を通してみてはいかがでしょうか。
    Posted by タロウ at 2004年07月31日 12:38
    タロウさんの意見に同意です。
    ”小泉総理は運が強すぎるまとめページ”をよく見たほうがよいと思います。
    http://yasz.hp.infoseek.co.jp/index.html
    この中の”小泉総理が信用できない人に対応するためのFAQ”にも目を通した方がよいと思います。
    保守強硬派に方々に関して
    現実的に実現不可能または無意味な強硬論を唱えて、小泉バッシングを行い挙句に民主党を指示しようとはなんとおろかな人たちでしょうか?と思います。そもそも民主党の結党理念には”永住外国人に地方参政権を付与する”というものがあります。小沢一郎氏もこれに賛成しています。これについてどう考えているんでしょうか?
    今回、比例で当選した”白真勲”にいたっては早速、民潭と総連に挨拶に行っていますね。まさに国を売ろうとしている人たちの集まりですよね。
    保守強硬派の方たちは北朝鮮に利する行為を行っていることにきずかないのでしょうか?もともと工作員なんでしょうかね?
    民主党の西村真吾議員にいたっては明らかに北朝鮮工作の一員になってますよね。本人はきずいていないかもしれませんが。
    実現不可能または無意味な強硬論を唱え、国民のガス抜きと民主党への保守票の取り込みを行っていますよね。でも彼は党の政策には何も口出しできないんですよ。彼が先制攻撃論や核武装論をテレビでしゃべっても民主党の支持母体の左巻きの方々は非難しないでしょう!彼は今後の身の振り方を間違えると間違いなく失脚するでしょうというか簡単に失脚させれます。仮に民主党が割れた場合、左巻きの方々には目障りな存在になります。方や自民党から見た場合、彼らよりさらに右よりに出る存在は目障りになります。目障りであるという存在に関しては左巻きの方々、自民党ともに利害が一致します。だから簡単に失脚させれますよね。彼が今後生き残るためには、自民党に入る、または石原慎太郎の庇護の下に入るの2つしかないでしょう。いずれにしても小泉総理が失脚してもっとも喜ぶのは”中朝韓”であることはわかりきってますよね。
    あと保守の中には2種類あるような気がしてます。
    ひとつは現実的な路線の中で少しずつ国家を変えて行くグループと、戦争することで急激に日本の国家を変えていこうと考えているグループです。
    前者は小泉総理、後者は保守強硬派のように感じています。あくまでもとうりすがりの独り言です。日本の将来を考えるという点においては協力しなきゃいかんでしょう!!

    Posted by とうりすがり at 2004年07月31日 17:03
    連続投稿失礼いたします。
    自分が北朝鮮の立場に立った戦略を考えた場合、どのようにして小泉内閣を退陣させるか考えてみます。
    現在の北朝鮮(中朝韓)にとって小泉内閣は不都合である。しかし、日本のメディアを総動員して小泉バッシングを行ってもいまだに40%ほどの支持率がある。この支持層は強固な支持者たちである、その支持者構成は消極的支持者(保守強硬派)と積極的支持者(現実路線的支持者)により成り立っている。これまでのメディア戦略(小泉バッシング)では更なる支持率低下は望めない。積極的支持者(現実路線的支持者)は何があっても今後も小泉内閣を支持しつつけるだろうと考えた場合、残りの消極的支持者(保守強硬派)の支持を減らすことで更なる支持率低下を起こし退陣に追い込む。
    具体的にはどうするのか?  
    拉致問題を利用して消極的支持者(保守強硬派)の支持を減らす。
    どうやって?
    拉致解決のハードルを勝手に上げていく。
    これまでの小泉内閣の手法は現実路線だと思います。甘い言葉で北朝鮮を交渉のテーブルにつかせていますよね、生存が判明しているすべての拉致被害者を取り戻しましたよね。強行に行ったら奪還できたんですか?これだけ取り戻しているという点からもこの手法は正しいと考えられます。さて、拉致解決のハードルを勝手に上げていくに関してですが、最近テレビの報道を見ていてきずく事があります。かつてはテレ朝、TBSなどは北朝鮮に米を支援しろと言っていましたよね。
    ところが2回目の訪朝から日テレなどは逆に米を支援しようとしてる、妥協しようとしてる、としきりに言うようになってきましたよね。またよくフジテレビに出て来る”辺 真一”氏もしきりに拉致問題だけは妥協してはダメだとか行ってますよね、彼は元”朝鮮新報(北朝鮮の機関紙みたいなもの)”の記者してたのは有名な話ですよね。
    小泉内閣は今後もこの手法、褒美を目の前にぶら下げて交渉していく手法を用いるでしょう、そのたびに”妥協していってはダメです”といいつずけるでしょう。少しでも交渉が進むたびに、そして最終的には”西尾氏、中西氏、西村慎吾氏”などをテレビに引っ張り出し、小泉内閣を激しく批判させるでしょう。この際にこの3氏はTBSだろうとテレビ朝日だろうとお構いなしに喜んで出て行き力の限り批判するでしょう。そして自ら拉致問題交渉のハードルまで勝手に上げていくでしょう。この工作が進むことで消極的支持者(保守強硬派)は小泉内閣から離れ結果として支持率低下、小泉内閣退陣、退陣ができなくとも自民党もダメージを受けるという状態が完成します。
    その際に民主党なら妥協しないと西村氏に言わせます、仮にそのとき岡田氏が党首であっても同様の事を言うでしょう。そうして内閣解散、総選挙、民主党圧勝、でどうなりますか?民主党は旧社会党の人たちがいっぱいいますよね、拉致など存在しないといっていた人たち、シンガンスの釈放署名していた人たちですよね。ここで本当の妥協、幕引きが完了します。この時点できずいてもあとの祭りでしょうね。
    自分ならこんな感じで小泉内閣をつぶします。どうでしょうか?拉致被害者のご家族の苦しみはあたりまえのことと考えます。でも周りの支える方々にも戦略的な思考が必要とも考えます。
    Posted by とうりすがり at 2004年07月31日 19:39
    上記 2つのコメントを書着込ませていただきました。
    本来、”応援掲示板”に書き込まなければならない内容を当掲示に書き込んでしまいました。運営に関するルールをよく理解せずに書き込んだ当方の誤りでございます。管理者様においては大変お手数ですが上記投稿の削除をお願いいたします。
    Posted by とおりすがり at 2004年07月31日 22:12
    「とおりすがり」さん
    書き込み内容が、特に削除に値するような運営上のルール違反であるとは思いません。よってこのまま掲示しておきます。

    ただし、今後このコメント欄にお書きになる場合も、あちらの応援板にお書きになる場合も、使い捨てではないHNを使用していただけると助かります。

     その点をよろしくお願いします。

    Posted by 年上の長谷川 at 2004年07月31日 22:32
     小泉首相批判について(三)をかいて、大体お答えしておきました。
    Posted by 西尾幹二 at 2004年08月01日 01:14

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