天下大乱が近づいている(六)

 戦前から戦後にかけてアメリカとイギリスがユーラシア大陸を包囲して支配するという世界戦略がつづいていた。しかしアメリカのイラク戦争の失敗と金融不安の醸成によって、一極集中の大陸包囲政策は次第に難しくなりつつある。ユーラシア大陸は大ざっぱにいって、EUとロシアと中国という地元の大国が中心になって安定維持や紛争解決を図るという、多極化された覇権体制に移っていくだろう。その結果、長い間大陸包囲網の東の要衝にあった日本もその役割を解かれるというきわめて厄介な事態になりつつあるのである。

 「カオスが近づいている」と私が言ったのはこの意味である。大統領選の結果にもよるが、アメリカの対外不干渉主義、いいかえれば寛容主義の方向が大きな流れであることは変わらないだろう。北朝鮮問題へのアメリカの無責任はこの最初の現われである。日米同盟は新たな危機に直面しているとみていい。

 分かり易くいえば、世界は第二次大戦前の情勢に戻りつつあるのである。戦後わが国がアメリカを頼りにして中国やロシアを仮想敵にしていた政策はとても安定していて、気が楽だった。しかしこれからは中国だけでなく、アメリカも油断がならないのである。私が言いたいのはそのことである。60年間忘れていた、すべての国がどこも平等に自分の対決相手、格闘相手だという認識の復活が今ほど求められているときはない。

(「修親」2008.5月号より)

おわり

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です