11月に日本武道館で毎年行われる「自衛隊音楽まつり」に平成18年と19年の二度にわたって招待され、参加させてもらった。よく訓練された所作と音の一致、整然たる行進、朗々たる独唱、鳴り渡る管楽器の合奏――勿論どれも大変良かった。ことに演目の中心に位置する太鼓の大合同演奏はすごい。主催者はこれを恐らく目玉とみているであろう。あの広い会場に全国各地の駐屯地から集まった数百個の大太鼓、小太鼓、陣太鼓のくりひろげる総合ページェントは、まさに壮観の名に値する内容である。これが見たくて来る人が多いだろう。
私も十分に満喫したので、ご招待ありがとうございました、ということばで尽きて、それ以上のことばは本当は何もないのだが、平成18年にもオヤと思い、平成19年にはさらにオヤ、オヤと思ってちょっぴり淋しかったことがあるので、一言申し上げてみたい。
自衛隊音楽まつりに私などが一番期待するのは勇壮なマーチであり、次いで大東亜戦争の当時はやった軍歌のメロディである。
平成19年の催しでマーチは軍艦マーチが短く挿入されただけで、フィナーレに「威風堂々」がやはり短く入ったが、私の聞き間違えでなければ、自衛隊の演奏の中にはマーチは他になく、平成18年の場合には、「星条旗よ永遠なれ」「分列行進曲」があったが、概して少なかった。期待していた旧軍歌は二年にわたってまったく演奏されなかった。何かに遠慮しているのだろうか。
曲目の選定に当たる人にぜひ考えてもらいたいのだが、平成19年の場合のように、冒頭のオープニングの女性の朗誦が外国の曲というのはいかがなものか。
途中「ラ・メール」「サンタ・ルチア」「カチューシャ」など、名曲とはいえ、旅行会社の宣伝のようなありふれた画像とともに聞かされたのは興ざめだった。ベートーヴェン「交響曲第七番」「悲愴」の二曲が流れたが、自衛隊音楽まつりでどうしてベートーヴェンを聴かなければならないのだろう。日本の歌というとどうして民謡ばかりになるのか。なぜ「ラプソディ・イン・ブルー」や「ファンシードリル」なのか。「我は海の子」でやっと拍手がわき起こったのを覚えていよう。みんな自分の知っている一昔前の日本の歌を聴きたいのである。
カラオケでは「空の神兵」「加藤隼戦闘隊」「月月火水木金金」「愛国の花」「ラバウル小唄」「あ~紅の血は燃ゆる」「勝利の日まで」「父よあなたは強かった」等々が今でも毎夜、熱唱されている。若い世代に歌い継がれているのが新しい特徴である。
どうか自衛隊音楽まつりらしく、旧軍の歴史を踏まえた選曲をぜひおねがいしたい。
陸上自衛隊幹部親睦誌『修親』平成20年(2008年)4月号より