日本人の職、教育に波及する悪影響
これまで世界各国の何処でも同じ軌跡を辿ったが、外国から先進国に労働に来た人々は、入国直後は「仕事にありつけさえすればありがたい」とへりくだっているが、少し長くいると必ず社会での上昇のチャンス、地位と生き甲斐を求め始める。人間だから当然である。
日本に来れば日本人と恋愛もするし、結婚もする。個人の自由だからこれはやめろといえない。既婚者は必ず故国から家族を呼ぶ。これも人道上拒めない。家族が来れば住宅や教育や医療の負担が日本の自治体に襲いかかってくる。しかも言語の違う子弟の教育には特別に手がかかる。そこまで考えないで安易に受け入れに賛成した、と言っても後の祭りである。
民族国家においては少数派の移民は必然的に被害者の位置に自らを置く。移民がどんなに優秀でも、エリートにはなれないからだ。インドネシアの看護師や介護士も将来そう簡単に病院のリーダー、施設の長にはなれないだろう。そのことはやがて彼らの不満と怒りを引き起こす。
フランスのアルジェリア人、ドイツのトルコ人はみなヨーロッパに自分の運を開く新天地を求めてやって来た。フランス人やドイツ人にすればこれは困る。運を開きたいならどうかアルジェリアやトルコでチャンスを作って欲しい。ヨーロッパの大国は自由と寛容を建前とするから初めは忍耐しているが、景気後退の時期にでもなると、たちまち摩擦が始まる。
アメリカのような移民国家は事情が少し違う。フランスやドイツのような非移民国家、日本もその一つだが、そこでは多数派の国民が少数派の移民に対しまず最初は加害者となるが、次にそこから生じる葛藤で多数派もまた被害者になる。
先進国側は労働者提供国に対し富を「与える」立場だと最初思っているが、前者が後者のパワーに依存し、自由を「奪われる」という事態に襲われたことにすぐ気がつくだろう。日本でもレストランなどのサービス産業でも皿洗いや台所仕事に外国人を使っていないところはないといわれるぐらいだが、仮に今入管が厳しい措置をとって彼らを全員強制退去させてしまったら、レストランなどたちまち困ってしまうだろう。
ドイツではかつて、トルコ人に帰国されたら洗濯屋さんがなくなって立ち往生するからやっぱり彼らにいてもらわなければならない、という認識になったことがある。
同じことが今後日本で正規導入するインドネシアやフィリピンの看護師や介護士の例でも起こるだろう。彼らの給与が悪くなく――17万円から20万円くらいだそうである――日本で失業者が巷にあふれ、「外国人よ帰れ」という怨嗟の声がわき上がるときがきたとしても、技術と経験をつんだ看護師や介護士は急にはつくれない。彼らに帰国されたら日本の病院や施設が成り立たなくなる。「ぜひ日本に居続けて欲しい」、そういう話になるに相違ない。日本人看護師や介護士の養成に手を抜いたつけが回るのである。
いいかえれば外国人に日本側が自由を「奪われる」事態を迎えることとなる。何とも情けない話だが、必ずそういうことになる。
しかも移民が一般化してくると、外国人がいないと工場が成り立たない、町が成り立たない、国家が成り立たないという、より広範囲な状況を引き起こすだろう。日本人失業者が増えてなおそうなる。フランスやドイツの例でいうと、大体人口の7~10%まで外国人単純労働者を吸収する収容力が先進国にはある。そのラインを越えると政治的に異質な事件が多発する。*2004年のオランダ、2005年のフランスはイスラム系住民と事実上の内乱に近い情勢となった。
2005年の統計ではドイツ人口約8200万人のうち移民は670万人、フランスは人口約6200万人のうち約430万人、イギリスは約5880万人のうち約460万人。以上は概数だが、移民はイスラム系が多数を占め、宗教的民族的対立を高めている。
キリスト教とイスラム教の積年の宿敵関係がヨーロッパの移民問題の底流あるのに対し、日本にはそれがない代わりに、韓国人、中国人がすでに大挙して移住してきて、新しい移民同士、日本国民とは関わりないところで人種間抗争を繰り広げる可能性はある。それが日本の小中学校に影響してくれば、教育の現場は今まで経験したことのない混乱に見舞われるだろう。
パリにはイスラム系住民だけが住む特定街区がある。ヨーロッパの各大都市にもそれはある。自民党議連が移民1000万人を受け入れる提言案をまとめたが、仮に日本に移民が1000万人入ってきて、そのうちインドネシア人が100万人だとすると、彼らは在日韓国・朝鮮人の民団や総連よりも閉鎖的な「国内国家」をつくるだろう。パキスタン人もバングラデシュ人も、その他中東系諸国の人々も、不法労働者としてではなく正規移民として入ってくれば、それぞれ強力な「国内国家」に立て籠もるだろう。日本の警察権の手が入りにくい複数の民族集団が形成される。
*2004年オランダでイスラム教徒を批判した映画の監督がモロッコ系移民に殺害された事件をきっかけに、モロッコ移民が暴動を受けたりイスラム系施設が襲撃されるなどした。またフランスでは2005年、アフリカ系移民の青年2人が警察に追われ逃げ込んだ変電所で感電死し、アフリカ系移民が公共施設を襲ったり、車を炎上させるなどの暴動を起こした。
つづく
『SAPIO』7月9日号より
「「移民」は救世主か問題児か 反対論(二)」への1件のフィードバック