坦々塾(第十六回)報告

 12月12日に坦々塾が開かれ、最初に会員の柏原竜一さんの「日本のインテリジェンスの長所と弱点」と題する講演があった。以下に同会員の浅野正美さんによる要約文を掲げるが、その前にひとこと申し上げたい。

 浅野さんの聴き取り理解能力の高さに私は舌を巻いている。彼は録音機も用いず、メモはすると思うが、講演を耳で聴いてたちどころに理解し、記憶し、これだけの再現、復元を果たす能力は何処から来るのだろう、と私はかって私の講演のときにも感じた驚きを書き添えておきたい。私なんかは人の話を集中して聴く力がなく、注意力散漫でどうにもならないのが実態だから尚更感心するのである。 

第16回坦々塾

 12月12日(土)に第16回坦々塾が行われました。

 第一部は「インテリジェンスの長所と弱点」という演題で、柏原竜一さんにお話いただき、後半の第二部は西尾先生と平田文昭さんの対談集「保守の怒り」を読んでの討論会を会員全員で行いました。

 参加人数は46人です。

 今回は、第一部の報告文を浅野正美さんが書いてい下さいましたのでご紹介いたします。

       坦々塾事務局 大石 朋子

ゲストエッセイ 
浅野 正美 
坦々塾会員

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  坦々塾勉強会報告

第一部

「インテリジェンスの長所と弱点」 

    発表者 坦々塾会員 柏原 竜一

 「世紀の大スパイ 陰謀好きな男たち 洋泉社刊」は、デザイン、装丁が良くできており大変気に入っている本である。

 出版にあたり、「明日への選択」に掲載した原稿に変更を加えた。コミンテルンに関する記述を、あっさりしたものから大幅に増強した。

 ゾルゲ、GRU、赤軍情報部、といった防諜機関が活躍した1920年~30年代ロシアでは赤軍情報部が大本にあった。トロツキーが作った赤軍の、革命前後における活動を描いた。

 当時ニューヨークに滞在していたトロツキーは、祖国への帰国をアメリカ側に知られ、一時身柄を拘束される。そのときウィルソンの腹心であるカーネル・ハウスは、イギリス情報部員ワイズマンの工作により、トロツキーをロシアに帰す。帰国したトロツキーは、ロシアで革命を起こす。

 トロツキーはなぜニューヨークにいたのか。彼は当地でユダヤ人社会のネットワークを利用して資金集めを行っていた。

 当時イギリスのファビアン協会は「共産主義こそ明日の世界」という認識を持ち、イギリス国民の間にも、トップから大衆にいたるまで、そういった考えがかなり広く浸透していた。イギリスにおいてGRU研究が少ないのは、当時のそうした状況が露呈することを避けるためではないかと思われる。

 東京でゾルゲが拘束されることになった原因の一つに、無線の傍受があげられる。おかしな無線通信をキャッチした日本側は、その無線を追いかけることでゾルゲの居場所を捉えることに成功した。オランダも同様の手口でナチスを摘発していたが、イギリスにはそういう体制がなかった。イギリスはドイツに内部侵食されており、ドイツにとって不都合な書類の改竄が行われていた。

 「インテリジェンス入門 PHP刊行」は、時間的な制約もあり、各章立てがうまく繋がっていない。また、結論があいまいで、最後の数ページで展開しただけという不満があったが、その後、Willに掲載された加藤洋子氏の論文を読んで、自著にはある日本人のかつての理想がなく、私の本が良い本だということを、改めて感じた。

 フランスは、ドイツ(プロイセン)がビスマルクの時代に、普仏、仏墺という二つの戦争を戦い敗れた。フランスはこの反省に立って、プロイセンに対抗するためのフランスインテリジェンスを創設、本格的なスパイ養成が始まる。

 フランスの弱みは、歴史的に政治がしっかりしていないことにある。第三共和制以降、首相が頻繁に交代し、議会も不安定であった。その弱点を陸軍が支えたが、情報が陸軍に集中することで、ねじが外れて(軍の暴走)しまう。政治がしっかりしていれば防げたことである。フランスの暗号解読技術には一日の長がある。また、世界で始めて郵便制度を発明したフランスは、郵便局に世論調査、政敵のチェックの機能も持たせた。19世紀後半には通信傍受が盛んになる。

 イギリスは、情報大国というイメージがあるが、それは日本人の思い込みであり、19世紀後半から第一次世界大戦までは大したことはなかった。戦時のインテリジェンス能力は、フランス>日本>イギリスという状況であった。ただし、イギリスは政治がしっかりしていた。植民地であるインドの反乱がないことが前提条件であったが、情報の使い方は上手だった。イギリスは植民地に対する求心力が優れており、情報をいかに賢明に使うかということに関して非常に長けていた。

 わが国は第一次世界大戦を陸運中心に戦い、日清、日露までは立派な情報収集体制があった。その日本のことも本には書きたかった。インテリジェンスの問題は国際比較でやらないと意味がないのである。フランス、イギリス、日本はそれぞれに、インテリジェンスに対する取り組みが違う。特にわが国の特徴として、国龍会、玄洋社といった民間団体が活躍した例は珍しく、同様の組織はイギリスにもあったが、その規模、質において他国をはるかに凌駕するものであり、誇るべき内容である。

 そこに見られるのは、高邁な理想、天下の義に突き動かされる志である。地位も名誉も求めず、海を越えて大陸浪人となり、本気で中国を良くしようと行動した。自分の理想を中国革命で達成しようとした。これが当時の右翼であった。

 良しと考えたことを発言し、行動することが必要である。日本のために行動することが必要である。

 加藤陽子、半藤一利に共通して見られることは、国内事情だけをミクロに観察し、こいつが悪い、あいつが悪いと犯人探しをしていることである。驚くべきことに、彼らは三国干渉の内容を知らない。思考がドイツ外交のたちのわるさにまで敷衍しない。ドイツの政治哲学はマキャベリズムである。日本の近代史を、外国の事情を無視して語るという愚を冒している。

 日英同盟の崩壊は、中国を巡る問題だけが原因ではなかった。中村屋のボーズはインドで総督暗殺未遂事件を起こした反政府活動家であった。こともあろうにそうした男を同盟国である日本人はかくまった。当然イギリスは何事だと考える。このときすでに日英の対決は始まっていたといえる。当時の日本人は植民地を持つ西洋か、アジアかと悩んだ末にアジア(ボーズ)を取った。歴史に向かうときには、こうした観点から見つめることが必要である。また、人種偏見に対する視点がない。ルーズベルトはロシア嫌い、新中国とフランクリンは日本が嫌いであった。さらに蒋介石はキリスト教原理主義者であった。

 こうしたキリスト教原理主義+人種偏見というものが、世界史の流れにあり、1920年~30年のアメリカのおかしな行動も、こうした背景によって公式の意見となったと考えると理解しやすい。

 テロ対策で遅れをとっているイギリスの専門誌に、「インテリジェンスとはグローバリズムの犠牲だ」という記事が載った。過去の大きなテロ事件は、アメリカ、イギリス、スペインで発生しているが、インテリジェンスが確立したフランスでは起きていない。個人管理の徹底さは、この国にプライバシーというものがないといっていいほどである。人は簡単に逮捕される。

 今後の方向性として、21世紀はどの分野を重視すべきか。

① 経済インテリジェンス

② IT、暗号

③ 対テロリズム

 これらの命題をわが国は具体的に、どのように取り組んでいったらよいであろうか。

 経済インテリジェンスにおける日本の在り方。今後わが国は人口が減少し、経済は停滞することが予想される。ただし潤沢な資金がある。

 過去、19世紀末から1930年にかけてのフランスは、次第に台頭するドイツという問題を抱えながら、露仏同盟を結んでロシアに投資をした。当時のフランスは投資大国であった。

 同じように日本も投資立国を目指してはどうか。投資情報を収集、分析することは政治力、外交力を必要とする。

 世界の重要課題である環境問題では、植生の減少が挙げられる。現在わが国は国内に市場はない。第三世界の開発は、乱伐を引き起こしている。そこで、わが国は植林を行い底から利益を得る。満州の歴史とは、インフラを整備し、近代化を進め、教育を普及した。

 同じことを他国に対してもやってよいのである。他人を豊かにして、自分も豊かになるのである。アングロサクソンの海賊的強奪とは手法を変えるのである。

 日本に必要なものは、帝国主義的経営ではなかろうか。

 海外旅行をすると気がつくように、国によって発展の度合いはまちまちである。マレーシアはイスラム文化の国ではあるが、高速道路をはじめとしたインフラは日本とそっくりである。香港の近代化、東京以上の発展は大陸からの膨大な投資によって成った。

 ジャパン・インデックスは、日本に近い国に順位を付けて、その順番に従って投資をすれば良い。日本的なものを世界に広めないと世界は真っ黒になる。今こそ世界を日本にするときである。

 今までの日本は、おとなしくアメリカについていった。わが国の犠牲の上にアメリカの繁栄があり、日本国民は損をする方向にしか動かない。また、それに対して「No」といえない。あえて暴論を言えば、民主党はもっとアメリカに抵抗して、普天間も、もっともめたらいい。民主党が二、三年引っ掻き回してわが国が国際的に孤立したら、そのときこそ日本人が一人で立ち上がるチャンスである。今までがアメリカに頼りすぎていた。そういう意味では、今はいい状況ではないか。逆説的ではあるが、民主党に期待したい。

        文責:浅野 正美

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