産経新聞3月30日(平成20年)正論欄より
貴乃花が大相撲の改革に乗り出して相撲協会理事に立候補し、当選するという話題をさらう出来事があった。私は貴乃花の提案する改革の内容に注目した。誰が見ても今の相撲界の危機はモンゴル人を筆頭に外国人力士が上位を圧倒的に占有していることである。若い有能な日本人はこれでは他のスポーツに逃げてしまう。
≪≪≪「人種差別」の批判を恐れ≫≫≫
しかし貴乃花は理事に当選する前も、した後も外国人制限に関する新しい何らの提言もしていない。否、スポーツ評論の世界で現実的で具体的なこの点での揚言をなす者は寡聞にして聞かない。西欧の音楽の世界では、オーケストラでもオペラでも東洋人の数を1人ないし2人に制限している。
自分たちの文化を大切に思うなら、異邦人に対する厳格な総数制限は当然であり、遠慮は要らない。しかし貴乃花にしても誰にしても決して声を上げない。それはなぜであるか。「人種差別主義者」といわれるのを恐れているからである。外国人地方参政権問題でも、困るのはタブーが支配し、唇寒くなることである。
高校授業料無償化法案をめぐって、金正日総書記の個人崇拝教育が公然と行われている朝鮮学校は対象外とするのが当然なのに、方針があいまいなままになっている。ここでも「差別はいけない」の美しい建前が、侮辱的な反日教育に日本の税金を投じるなという常識をついに圧倒してしまった。
外国人地方参政権法案が通ると、こうした筋の通らぬおかしなことが全国いたる所に広がり、朝鮮総連や韓国民団の理不尽な権利要求は「差別はいけない」の声が追い風となって、何でも通る敵なしの強さを誇り、中国人永住権獲得者がそれに加わって、日本の市役所や教育委員などはただ頭をぺこぺこ下げて、ご無理ごもっともと何ごとにつけ押し切られてしまうだろう。
政府が「国連」とか「世界市民」とか「人権擁護」といった美しい理念に金しばりに遭い、それに歩調を合わせてメディアが「人権差別」という現代のタブーに触れるのを恐れて沈黙し、言論人やジャーナリストが自由にものが言えなくなってしまうのが、外国人受け入れ問題の、受け入れ国側に及ぼす目に見えない深刻な影響である。
≪≪≪欧州では「内乱」状態に≫≫≫
人口比8~9%もの移民を受け入れた西欧各国の例をみると、反対言論を封じられた怒りが反転して爆発し、フランスやオランダを一時、「内乱」状態に陥れた。ドイツは国家意志が「沈黙」を強いられた悲劇に陥っている。
ドイツの首都ベルリンのノイケルンというトルコ、旧ユーゴ、レバノンからの移民が9割を占める地区の小学校の調査リポート、約9分の国営放送制作の貴重なフィルムを、今われわれはインターネットの動画(YouTube)で見ることができる。「ドイツの学校教育とイジメ・移民政策の破綻(はたん)」の文字を入力して、日本の未来を思わせる次の恐ろしい悲劇をぜひ見ていただきたい。
ドイツの小学校の校内は暴力が支配し、カメラの前で2人のドイツ人少年は蹴(け)られ、唾(つば)をかけられ、安心して歩けない。ここは校内撮影を許されたが、別の小学校である児童は「お前はドイツ人か、トルコ人か」と問い詰められ、「そうさ、ドイツ人さ。神さまなんか信じない」と言ったら、いきなり殴られ、学校中の不良グループが集まってきてこづかれ、「僕は何もできなかった」と唇を噛(か)む。ある少女は宗教をきかれ、「そうよ、キリスト教徒よ」と答えると、みんなから笑われ、「あんたなんか嫌いーッ」と罵(ののし)られた。この小学校の調査訪問を申し出ると、撮影は「外国人差別を助長するから」の理由で公式に拒否された。
≪≪≪逃げ出すのが唯一の解決≫≫≫
リポーターはベルリン市の行政の門を叩(たた)く。移民同化政策の担当者はフィルムを見ても「子供の気持ちは分かるが、そもそもドイツの学校はドイツ人のものだという古い考え方は倒錯した考えだ」と紋切り型の言葉を述べる。リポーターは家庭訪問もするが、母親は「街を出るのがいいのは分かっているけど、私はこの街で生まれたのよ」と言う。経済的に余裕のある人はこの地区に住んでいないとリポートは伝える。街を逃げ出すのが唯一の解決なら「共生」という名の移民政策の破綻ではないかと訴える。
問題を公にする者は差別者のレッテルを張られ、排除される。このスキを狙い、貧困家庭をターゲットにしたカルト教団が動き出している。問題を公に口外できないタブーの支配が政治の最大の問題である、と。
ドイツは今、税収不足を外国人移民の増加に依存し、それで救われているのが教会であり、国防軍も外国人の若者に頼るという、首根を押さえられた事態に陥っている。外国人に奪われた土俵を見て見ぬふりの貴乃花の沈黙は、やがて日本の社会全体を蔽(おお)う不幸の発端であり、象徴例であるといっていいだろう。(にしお かんじ=評論家)
はてなダイアリー ドイツでも移民問題(オランダの悲劇)