WiLL8月号「平和主義ではない脱原発」(六)

原発という人質 

 前にも書いたが、政治、経済、軍事、外交の四輪がバランスよく揃ってはじめて車は前へ進む。今までの日本のように、経済の車輪が一つだけ異常に大き過ぎると、車は前へつんのめって倒れてしまいそうになる。そこで、アメリカが後からジャッキで持ち上げて押してくれるので何とか前へ進む。アメリカは代償に、堂々と大きな車輪から取り分を取って、いつまでも半永久的に、おとなしくて便利で可愛い三輪車のままにしておこうとしている。
 
 原発は、日本を抑えこむとても便利な手段のひとつであった。何にしろ、罪がなくても罪があるように言い立てることでおとなしくさせることができる。IAEAの代表者が日本人であることは、黒人のなかから黒人の働く農場の監督が選ばれるのと同じようなことである。
 
 日本は七十発くらいのレベルの高い核弾頭を原潜に乗せて太平洋を遊弋させる程度のことで、戦争をしかけてくる国をなくすことができる。五千発分のプルトニウムは要らない。そんなもののために国内が汚されるのは迷惑である。アメリカの「核の傘」の信頼性を信じている日本人は、今ではおそらくひとりもいないだろう。
 
 まだアメリカは太平洋の制覇を捨てる気はないが、2015─16年頃を境に、軍事予算を急激に減らさざるを得ない財政状態にあることはよく知られている。アメリカに善意があっても、頼れないという現実は近付いている。
 
 自民党の故中川昭一氏が北朝鮮の核実験に際して、わが国も核武装について議論を開始しようと言ったら、ライス国務長官(当時)がすぐ飛んで来て、日本はアメリカの「核の傘」に守られているから安心しなさい、とわざわざ言いに来た。ブッシュ元大統領は、「中国が心配する」と同盟国の名を間違えるようなことを言った。そして、国内でも議論沸騰し、新聞もテレビも日本の核武装を──主として否定的に──論じ合った。そのなかで、自民党の石破茂氏が核武装などとんでもないとテレビで反論したが、そのときこう言った。

 「もし日本が核武装したいと言ったら、ウランを売ってくれなくなり、プルトニウムの濃縮もしてくれなくなり、原子力発電はたちまち止まって、わが国の産業は壊滅してしまうだろう」
 
 私はこのことは今でも忘れない。なるほど、原発という人質を取られているのだな、と、そのときひとり合点したのを覚えている。
 
 いまでも石破氏と同じような言葉で脱原発なんてあり得ない。太陽光や風力などをいくらやっても日本の産業力を支えるなんてことはとても無理だ、と言い立てる人は必ずいる。それに、中国やインドや新興国が原発に向かっているので、原発を持たない日本が中国の後塵を拝することになるのは耐えられない、と叫ぶ人も現にいた。保守派はたいていこういう調子のもの言いをするが、中国の風力発電が急成長を遂げているのを知ってのことだろうか。
 
 中国の原子力はまだ二パーセント程度だが、風力発電の伸びは目を見はるばかりで、原発二十~三十基分の電力を作り出し、世界一に躍り出ている。2020年には原発百基分を風力で賄う計画だというが、話半分に聞いてもありそうなことで、この国が世界の動向をしっかり見ている証拠だ。
 
 アメリカもイギリスもドイツも風力に力を入れはじめ、日本の企業がいち早く手を伸ばしているのは洋上風力発電である。三菱電機、伊藤忠商事、住友商事が次々と世界最大級の風力発電に参画しはじめている。日本がやらないから、日本の企業は世界の他の国に手を伸ばす。日本人の知恵と技術が外国の安全と富のために役立つのはいいとして、その分だけ日本が立ち遅れてしまうのは変な話ではないか。
 
 それに、原発推進派に申し上げておきたいが、原発は漸次縮小するほかない明確な理由が日本の国内事情のうちにある。原子力の研究者や技術者がどんどんいなくなっている。東大工学部原子力工学科はすでに存在しない。私が先に日本型「和」の病理の温床と見た学科は、鉱山学科と統合されてなくなってしまったらしい。それはいいとして、今度の事故より以前に、原子力専攻学生が急減し、文部科学省は危機感を募らせている。原発作業員の不足はすでに警告されているが、秀れた研究者や技術者の減少は、これから残った原発を安全に維持管理するうえでも不安要因となっている。
 
 それに、原料のウランが世界で底をつきはじめている。天然ガスや石油のほうが、はるかに長持ちする埋蔵量を誇っている。脱原発は世界のあらゆる国が正視している現実である。日本は増殖炉だのプルサーマルなどと危険な空想を弄んでいるひまはもうないはずなのだ。

「WiLL8月号「平和主義ではない脱原発」(六)」への2件のフィードバック

  1. 文春新書の古川和夫著「原発安全革命」を読み、トリウム溶融塩炉原発が実現すれば問題が解決するのではないかという期待を抱いております。西尾先生がご存知の技術系の方からこの形式の原発についての説明を聞いて戴けたら有難いと存じます。

  2. 今度の大災害を、日本封じ込めすり抜け、国家永続の道に向かう転機に、できれば、多くの不幸の中、唯一の良い事が生じる事になりますが、巨大な壁が存在しています。自民議員への個人献金総額の7割が、原発支援の税金と高い料金認可で資金膨大な電力会社役員からと、東北の新聞、幾つかだけに記載あるそうです、民主はこれから。広告費も独占の電事連加盟企業が一位、各方面買収しての翼賛体制の中核が、経済原則からも当然、全資産保全管理下に又は送配電網、賠償の為に国有化された状態てあるべき、犯罪会社の東京電力です。

    尖閣戦争を読みましたが大事な備えの資金を横取りし国土核汚染し、国民洗脳に国家国民の資金費やし、日本衰退に両面から貢献の地域独占九電力体制も昔は合理性もあったでしょうが、原発やる事で保護されやりたい放題、特に東電は、コストに利益上乗せ事業を手抜き、事故隠しデータ捏造してきて、今度の事故で、発表と違い1号、3号機、500ガルの地震の揺れで壊れてい。処置遅れる原因の周辺の津波は、建設用地の高台25メートル削り造成した為、且つ津波防いだ高台削りながら、300年間は近郊を巨大津波が襲った記録はないと想定、未必の故意と言うより、頻繁に起きる規模の地震で壊れる原発放置だから、単車の通る道に紐張ったのと同様に事故起す準備と看做すべきで、故意です

    原発翼賛体制維持できれば、多額の原子力関連支出続ける為、技術低下構わず原発、ズルズル延ばし続けるはず、今の有さまから見て。 東京電力管内だけでも送配電分離できれば新規参入と共に、資金面から、金食い虫の実態データ改竄しての推進派の力弱まり脱原発加速すると考えられます

    日本が大切の意で靖国の感情あれば、天災に被曝の圧迫上乗せ、卑劣行為続ける主犯と擁護の原発利得者へ憤りの念わくはず。福島以後まだ同調するのは、保守でも、亡国体制の原発紐付き保守、これまでもアメ隷従体制を保守が大勢で、日本の情景と基盤の保守と混同してました。売国でなくても自然な感情でなく、立場持つ方は大抵、理屈か打算ですね

    国民は、犯罪性事故起し、核汚染押し付けている東電に重要な電力を掌握させ続けるのを認めてません。国は放射能まみれ静かに耐え、国民の損害額の査定は一応ある、国家の蒙った将来にわたる大損害何も語られず、先頭に立ち賠償取立て、懲すべき国家は情報隠し、捏造に専念、 国民被害の賠償まで放置、東電手先官僚の支配継続性保たれてます。これが今の政治文化では

    既に一兆円+五十年以上、毎年、最低五百億円負担確定、加えて、豊田商事、オウム教より卑劣なのが、国民を害し、国家を危うくしながら、国家の保護受け、政官経マスの中心に、少し立場弱めて、のさばり国民から賠償費用通過させ経費としてゴミども莫大な利益せしめ続けさせるもようですが
     
    標的を普通の国民がはっきり知ってる犯罪事故の張本人、東電に定め、責任追及を集中すべきです。大事な部署を占拠立て篭もり会社で存在価値無く更生、できません。資産マイナスで経済原則からは債権者に、高い優先順位から弁済して整理が当たり前の反社会企業、しかし、地震国、伊の決定でも明白な大多数の反原発国民から原発利権守るのに最も危うい帰趨決する要衝なので、マスコミ総動員で焦点ぼかしやり成功してます。 東電賠償問題(賠償しない、国民から収奪、税金と高い料金取り、それを遅く値切りつつ大威張りで出す)に焦点絞り追及して経済原則に基づき整理され、中共と国際無法社会に対し最小限の手段確保の第一歩となれば日本再生できます   

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