皇太子殿下の誕生日記者会見(一)

 私が最近『WiLL』(3月号)と『週刊新潮』(2月23日号)に皇室に関連する文章を出したので、皇太子殿下ご誕生日記者会見に関する私の意見を聞きたいとある人から問われた。そこで私の考えをついでに少しここに書いておきたい。

 皇太子殿下は大変に損な役割を演じさせられているように思える。お気の毒である。と同時に、こんなことがつづくと国民の信頼が失われる一方だという心配をあらためて強く抱いた。

 皇室評論家で文化学園大学客員教授の渡辺みどり氏の「東宮ご一家にはもどかしさを覚えるばかりだ」という次の発言をまず聞いておこう。

「いまの皇太子さまは、雅子さまの問題を抱えておられるとはいえ、あまりに“内向き”になられているように見受けられます。ご家庭のことばかりでなく、広く国民のためにご活動なさるよう、ご自覚をもってご公務にあたる姿勢が望まれます。現に大震災の時も、秋篠宮家に比べて東宮ご一家のご活動は少ないと感じました。昨年8月に雅子さまと愛子さまは、ご静養のため那須の御用邸に20日間もお籠もりになっていた。栃木まで行かれたのならば、例えば東北の避難所まで足を延ばし、被災地に千羽鶴をお供えになるといったこともできたのでは・・・・・。そう思うと、残念でなりません」(『週刊新潮』3月1日号)

 しごく当然な感想である。

 次に皇太子殿下の記者会見のお言葉を取り上げてみよう。雅子さまの最近のご様子は?という記者からの質問に対して――

「東日本大震災の被害に大変心を痛め、体調に波があるなかで、被災地の方々に心を寄せ、力を尽くしてきていると思います。また、愛子の学校での問題に関しては、母親としてできる限りの努力を払ってきた1年でもありました。とても大変だったと思いますが、本当に頑張ってよく愛子を支えたと思います」(『産経』2月23日)

 殿下のいつもの通りのお言葉だが、官僚の文章を読み上げている大臣の答弁のように聞こえてしまわないだろうか。どちらに心を配られているかも、これでは丸見えである。殿下はなぜもっと正直に、率直に語れないのだろうか。

 例えば、「じつは私も悩んでいるんです」とひとこと語って、じっと押し黙っていた、なんてシーンが会見中にあれば、国民はみんな胸が痛んで、たちまち殿下は人間的信頼をかち得ることができるだろうに、などと考える。しかしそれがどうしても難しいのだとすると、殿下がいつもウソをついているようにしか感じられなくなってくるのではないだろうか。

 誕生日会見については、事前にこんなことがあったらしい。
 

 「質問は5問。会見は約20分で、記者会の質問に対し、殿下はペーパーを見ながら、入念に選ばれたお言葉を読み上げられます。今回、事前に用意していた質問項目に、微に入り細に入り宮内庁側が注文を付けてきたのです」

 毎年、一カ月前には幹事社が質問項目を提出しておくのが通例。それについては、総務課報道室と事前にやりとりをするという。

 「今回は『ここを変えて欲しい』とか、“てにをは”に至るまで些事にこだわってきて、修正を要請されたのです。特に、もっとも国民が聞きたいであろう、ある質問について、報道室職員が『それはちょっと』と返してきた。もちろん職員が勝手に判断するわけはなく、殿下にご相談しているはずです」(東宮関係者)

 それは、雅子さまの行動が“波紋”を呼んだという部分だった。

 「問題視されたのは、『雅子さまの行動が、週刊誌で報じられ、波紋を呼んでいます』といった部分だったそうです。宮内庁は『波紋を呼んだ』という表現をやめてほしい、と突き返した。

 記者会側は、ずばり愛子さまの校外学習に雅子さまが付き添われたことについて、殿下はどうお考えになっているか、殿下はなぜそれをお許しになったのかをお聞きしたかったのです」(皇室担当記者)(『週刊文春』3月1日号)

 宮内庁と記者クラブの間でこんなやり取りがあったとは知らなかった。これでは皇太子の記者会見は作られたシナリオに従ったお芝居を見させられているようなものである。

 今上陛下の記者会見にはこんなことはない。陛下はゆっくりご自分のお言葉で語る。自然で、慎ましやかで、ウラオモテなどまったくない。つねに平静で穏やかである。

 皇太子殿下のお言葉が型通りで、いささかシラジラしい印象を与えるのは、殿下の置かれた立場、言葉を禁じられた立場がそうさせるのであろう。それは誰がそうさせるのかも天下周知である。

 私はこういう不自然なお言葉が今後もくりかえし展開される将来の可能性に不安を覚える。殿下が「じつは私も悩んでいるんです」と正直に胸のうちを語る日が来ないと、国民の心はますます離れていく。それで、そのまま即位され、お言葉の不自然な従属性に国民が耐えられなくなり、皇室に背を向けるのを私は最も恐れている。

 テレビは何でも映し出す。国民は黙ってすべてを見ているのである。

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