『天皇と原爆』書評/動画

 文芸評論家の冨岡幸一郎さんが二年も前に拙著『天皇と原爆』に対する書評をYou Yubeで流していることに気がついた。ずっと知らないでいた。遅ればせながら、ここに再現する。時間の短い寸感書評であるが、肝心なとことは捉えて下さっている。冨岡さんありがとう。

「『天皇と原爆』書評/動画」への5件のフィードバック

  1. 本書への拙評は昨年2月12日の本日録に掲載されたが、一点補足したい。本書は冒頭で「マルクス主義史観」を批判する。その現代版は帝国主義論だから、それを退けた場合、スミスの重商主義批判が自ずと浮上する。つまり、スミスのそれはリカード=ミル路線によって過去化され、その空隙に帝国主義論が取って代わったのだから、それを払拭すれば、重商主義の制度的・人間的歪み視点が再興するはずだ。本書はその制度的歪み視点を省き、宗教等の人間的側面に焦点を絞ったが、それらの人間的歪みが制度的歪みによって大いに左右されたことは重視されない。当時の米・日とも、植民地縄張り争いの世界状況の中に翻弄され、巻き込まれ、それに伴う歪んだプライドに囚われてしまったのではないか? そのことは、その縄張り争いから脱却した戦後体制における両国の平穏なあり方からも傍証されうるように思われる。

  2. 今、大海の無人孤島の領有権をめぐって関係諸国民のボルテージが高まっているが、かつては広大な大陸諸国や海洋諸国の一国単位の領有権や帰属をめぐって、列強諸国間で縄張り争いの様なことが1世紀内外にわたって行われてきた。そのことが当時の政治家や諸国民に及ぼした心理的影響は計り知れない。かつての金発掘の夢に溺れた人たちの陶酔的行動はよく知られているが、上記の縄張り争いもそれに準じていたのではないか? そのためには、宗教、文化、教育等々、利用できるものなら何でも利用する総力体勢が築かれた。スミスは植民地経営が相手国のみならず、本国にとっても割に合わないことを理論的に論証していたが、それは煙たがられ、過去の遺物扱いされ、植民地という宝物に目がくらんだ諸国はその投機に溺れてしまった。重商主義の歪みが人間のプライドを歪ませたと言うのはそういう意味である。

  3. 前回の日録で「歴史家」が問題にされている。とくに日本の当該学会がマルクス主義史観で支配されていることが問われている。東京裁判を再検討するとき、差し当たり二つの立場がありうる。それは被告の立場と裁判官の立場である。その再審を主張するのは前者であり、後者はそれを受けて判定する立場である。学問はソクラテスやカントに代表されるように、本来、主張する立場でなく、判定する立場である。再審を主張するのは、政治運動や教科書改訂運動である。そのような相違があるとすれば、首相が「歴史家」に委ねると言ったことは、学問上の判定を待つという意味で正論であろう。しかし西尾氏は日本の「歴史家」に公正な判定を期待できないという不信を表明し、これも根拠ある。とはいえ、再審請求を弁護する立場の歴史家に委ねるのは判定の客観性に欠ける。首相が求めているのは弁護役でなく、判定役だろう。そうすると、立場上、最も公平な判定を期待できるのは、先の大戦に関わりの無い第三国の「歴史家」に限られる。「急がば回れ」が正解か?

  4. 戦前の日本にとっては植民地の縄張り争いというよりも生きるか死ぬかという死活問題だったようですよ。明治の始めから50、60年経過して1930年代の日本の人口は2倍になっていました。暴発していく人口を海外にどう送り込んでいくかということは深刻な問題だったと思います。女性の地位が向上したら人口の急激な上昇は止まるから女性の地位向上が必要な社会施策のひとつだったなんてのは当時まったく想像できなかったでしょう。英国も米国も人口増加は急激だったようですから人口問題も当時のパラダイムのキーのひとつであったと思います。
    私は、日本は多くのものを敵とし過ぎたと思います。経済問題、人種差別などありましたが、欧米と提携してまず共産主義を第一の敵とする発想が一貫して指導者にあればよかったと思いますが、それはそのあと共産主義の本質が明らかとなった現代になり認識できることで、いまさら言っても戯言かもしれませんが。
    日本は局地的な部分戦争としたかったが、米国は全面戦争をやった。その背景には宗教戦争といってもよい素地が米国にあったという西尾先生のご指摘は本質をついていると思います。マッカーサーは皇室をまずキリスト教に改宗させようとしましたしね。イラク戦争開始前の米国内の宗教的高揚を見ているので、なんとなく実感できます。また米国に限った話ではなく、いつの時代もどこの国でも、宗教にかぶれた政治的人間は非常に有害です。

  5. 7月21日以来、西尾氏や皆様に大変ご迷惑をおかけしてしまいましたが、私見の概要はほぼ出し尽くした感もあり、私用も切迫してきましたので、しばらく本業に戻らせていただきます。なお、西尾氏には大変失礼なことも投稿してきたにもかかわらず、懐深く受け入れて下さったことに心から敬意を表します。

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