番匠幸一郎氏を囲んで (四)

木下:それに関連することですが、今まで迫撃弾が打ち込まれたと聞いていますが、怪我をなさった・・・・・・・宿営地から出て、事件が起こったということもありますでしょうか。そういう状況下で番匠隊長以下皆さんがですね、かっちりとやってこられたということが一番で意義が大きかったのではないかと思っておりますが、それと同時に、県知事さんとかですね、地元の方と非常に友好関係を築くという努力をなさいましたよね。そのことがやはり、プラスになっているのではないかと思われます。・・・・・・

番匠:部隊の隊員たちを無事に連れて帰るというのが、私の大事な任務でしたし、向こうにもちろん、戦闘行動に行っているわけではありませんので、引き金を引かないに越したことはないというのは当然です。私は直接間接、いつも二つのことを考えておりました。一つは直接的に我々自身が、隙を見せないで、狙われないようにするということです。結構ですね、狙われそうな雰囲気というのを感じることはあるんですね。我々にというのではなくて、隙を見せている所というのはやられるんですね。同じ軍隊、或いは自衛隊のような部隊でも、狙われる部隊があるんです。それはきっと隙を見せているだろうと。

 それから○○○中をばんばん、通っているわけですが、襲われるところは警備が薄いところがやられるんです。それは全員がテロリストじゃなくて、強盗の類がいっぱいおりますから、そうしたら、狙いやすい所というのは、狙ってくるわけですね。だから、我々は狙ってきたら撃つぞと。だから私、隊員たちに言っていたのは、いつでも撃てと。(笑い)必要だと思われるときは引き金を躊躇なく引けと言ったのは、やはりそれで躊躇してしまったら、自衛隊は撃たない、自衛隊は武器を使わないと思われたとたんに、やられるわけです。そこはですね、自分達自身、私は隊員には、イラク中で最もハードターゲットになれと言っていました。やられない存在。

 先ほどのSU作戦もですね、左手で○○やっていました。右手は離すなと。右手は引き金に絶対にかけておいて、離すなと。それから、我々は外でペットボトルを飲まないです。ペットボトルを飲むということは、目が離れるんですね。だからキャメルバックという背中に背負う水筒、リュックサックみたいなものを持っていまして、ここにこういう口があってですね、前を向きながら口にピッといれるんです。そうして水を飲む。それくらい引き金を持って、警戒心を捨てないというようなこととか。引き金を我々、ロゥ・レディという下向きの銃の向け方をしています。その時に、見ていると、もう見るだけで安全装置をつけているかつけていないか、弾倉をもちろんいれていないとこれなんか絶対、やられますね。ちゃんと弾倉入れている。それから、手をこうやって引き金に添えている。武器の向きと、目の位置は必ずこうで、こんなことをやっている部隊だと隙がでている。そういう、どこからも隙を見せないハードターゲットたれということが、一つであります。これは宿営地の○○も含めてです。

 もう一つ、間接的に我々がやはり、友好○○に置くということですね。自分達の周りが敵意の海だったら、非常に危険が高まりますけれども、先ほども学校訪問だとか、鯉昇りだとかロブ族との付き合いだとかいいましたが、これはやはり、自分達の周りを味方にしていくということが、非常に安全上大事だということです。

 ですから、直接アプローチと、間接アプローチと言うんでしょうか、そういう両方をやりながらですね、安全というものには、格段の配慮をしていると思います。

西尾:でも、にも関わらず、テロという奴は、だからやるという、つまり、地域と親和関係が高い、それを壊してやるという、逆のものすごい論旨、考えられない論理を持っていますよね。そういうことでの危機感、手に負えないテロ、テロは合理的な根拠で動かないで、最もイラク国民に愛されている日本軍だから、だからやってやろう式の発想ですね。それに恐怖は感じなかったですか。

 番匠:それはおっしゃる通りです。大別してですね、どういう脅威が我々にあるのかなと。大体五つくらいかなといつも思っていました。一つはアルカイダ系のテロリストですね。これはまさに、自爆テロで、恐怖感というのを超越してですね、来るという。もう一つはこれは特に北の方で、バチバチやっていますけれど、旧バース党、フセイン残党と呼ばれる人たち。これと関連しますけれど、イスラム過激派と呼ばれる人達。それからシーア派の中で暴れていたのが、サドル派と呼ばれる人達。あとですね、強盗の類です。
(笑い声)

 犯罪者集団、そうなんです、我々のいる所もですね、もう武器の密売だとか、麻薬密売だとか、もともと犯罪者が治安機関の能力が落ちたものですから、わっと、出てしまったんですね。バグダッドなんかもかなりそうらしいです。この連中が強盗の類から含めて、悪さをするんです。あと、先ほど申し上げた、上の四つからお金をもらって悪さをするということもあり得るわけです。ですから、いろんなことにアンテナを張りながら、如何なる脅威に対しても、隙がないように。そうすると今先生が、おっしゃるように、二番目から五番目までというのはある程度、雰囲気でわかるんですけど、アルカイダ系のテロリストは自分達の体に爆弾を巻きつけて来て、引き金ぼんとやる、自爆するような、或いは、ゲートに爆弾をいっぱい積んだ車を突っ込ましてどんとやるというようなことをやる。

 実際我々が入る直前に、シリアのイタリア軍の基地に自爆テロが来てですね、十何人亡くなりました。そういうこともあるもんですから、これは徹底して、まず情報収集をし、それから宿営地をそういうことに対して脆弱にしないようにして、ということを、色々考えております。でもこれ、100%防止するというのは、大変に難しいとは思います。

(注)○○はテープで聞き取れなかった言葉です。

※ロウ・レディ(安全)ポジション-ハイ・ロウ・スルー等の警戒待機ポジションのうち、最も視線をさえぎることが少ないと言われる(陸上自衛隊では一般的な呼び方ではないとのこと、防大出の方か、むしろサバイバルゲーマーなどが好んで用いる呼び方だそうです-アメリカの影響 らしい)。
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監修・福井
写真・陸上自衛隊第8師団

「番匠幸一郎氏を囲んで (四)」への5件のフィードバック

  1. テープはないので詳細は分かりませんが、分かる部分だけ補足を。

    SU作戦=スーパーうぐいす嬢作戦(地域住民と同じ目線で)
     目的は、地元の人たちに溶け込むため。サマーワ入りした際、現地の人たちが笑顔で手を振ってくれて、それが互いの心が通じ合う感じがしたそうです。それに、これだ! と思いつき、選挙運動の時のうぐいす嬢をまねて、装甲車や車両から現地の人々に笑顔で手を振らせたそうです。同じ目線、日本の自衛隊は一緒にイラクの方々に敬意を払いながら働いていくという姿勢を持たないといけない。手を振ってくれるのだったら、振ってもらってから振り返すのではなくて、最初にこちらから振るぐらいのつもりでやったらどうかと。また、目を三角にしてギラギラしてやるよりも笑顔で接したらどうかということで、それを名付けて「SU作戦」としたとのこと。

    活動地域の概要(サマーワの位置)
     日本とイラクの大きさは大体同じぐらい。サマーワのイラク内での位置関係を日本でたとえると、南のほうに位置します。バグダッドが大分と同じぐらい、サマーワは鹿児島と同じぐらい、そしてイラクの南端の線が奄美大島と同じくらい。
     クウェート、サウジアラビア、ヨルダン、シリア、トルコ、イランと接している国であり、古来からチグリス・ユーフラテス川の流域に栄えた、そしてまた非常に多くの資源を持っている中東の中で非常に重要な国といわれている。サマーワはバグダッドとクウェートの中間付近に位置する。

    (最高気温と最低気温の推移)
     期間-3月の下旬から、第一次第一次イラク復興支援群がサマーワを離れる5月の下旬まで、特に4月下旬以降は日中は摂氏40度を越える。
    ただし、最低気温は3月26日とか4月の頭に4度、5度ぐらいまで下がるということで、ストーブを焚いたり防寒着を着たりということもあった模様。

    (気温等の実測値)
     現地時間5月24日の2時に実測、空気の温度は42.5度。しかし、天幕の外側は61度、内側は二重張りではあるが、47度。エアコンを2台小さなテントに入れてフル稼働させても、吹き出し口で28度ぐらい、天幕の中は40度を超えるような暑さ。
     クルマについては、LAV(軽装甲機動車)-ジープに装甲を付けたようなクルマ-この外板部分はほとんどヤケドをするぐらい70度以上、計測不可能な状況。中のほうのダッシュボードで63.8度、室内の空気の温度は58度(エアコン稼動しても)

    (本文中の鯉のぼりについての逸話)
     5月5日が派遣期間中にあたることから、なんとか日本の子どもの日にちなんだことができないかなということを出発前から検討。
     番匠氏が、もともと駐屯していた北海道の名寄市の市民に、「子どもさんたちが成長されて、タンスの中で眠っている鯉のぼりがあったらご協力願えないでしょうか」と呼びかけたところ、200匹を超える鯉のぼりが集まる。それを向こうに持っていって、5月5日の日にユーフラテス川(川幅が100メーターぐらいある)にワイヤーを渡して、その姿をイラクの方々に紹介。
     日本サマーワ友好協会という協会が現地のイラク人によって作られ、その方々の協力も得ながら鯉のぼりを掲げる。
     サマーワの方々は非常に驚き、喜ばれたとのこと。
     番匠氏は事前に現地の知事にも、こういうことをやりますという説明をし、また現地のプレスにも、メディアにも、日本では宗教とかなんとかということとは一切関係なく、父親母親が子どもたちの成長を祈って子どもの日に鯉のぼりを掲げる。鯉というのは非常に元気のいい魚で下流から上流に向かってどんどん勢いよく上がっていく。これが成長あるいは健康の象徴なのだと。そういう日本の気持ちをイラクの子どもたち、サマーワの子どもたちにお届けしたいという活動なのだと説明、それはわかったということで現地のメディアでも取り上げられた。
     数に余裕があったので、川だけでなくサマーワの市場とか町中にも鯉のぼりを掲げ、北海道の名寄市の市民の意向に基づき、全てを寄贈した。

    自民党国防部会速記禄より一部引用

    一言
     マスメディアのおかげで「市民」と聞いただけで、私などももう「また左派のことか」と脊髄反射の反応を起こしそうになるのですが、本来我が国の良き市民とはこういうものでしょう。
    国を否定するのが市民ではなくて、ネイションの集まりがステイツであり、それらの住民が市民なのだと思います。
    まあ、「国民」という言葉に対する左派特有の単なる子供じみた拒絶反応からの呼び方が「市民」なのかもしれませんが。
    マスメディアも今後は左派的市民の方は「活動家」と表現していただけないものでしょうか。国や自分たち以外の国民を否定するよりも、先ず第一に我と我が身を振り返って自己批判したほうがよっぽど皆のためになると思うのですが。

  2. 誰かはしらねども番匠隊長のテープ起こしご苦労様でした。

    すでにウエブエンジニアさんが書き上げています。半分ぐらいだぶりますが参考になりそうな話がWEBにありました。

    もともと文章にあったSU作戦とはなんぞやと思って調べたものです。

    GNN ⇒ 義理・人情・浪花節
    ABC(+DE) ⇒ 当たり前のことを、ボーつとしないで、ちやんとやる。(+できるだけ、笑顔で)
    SU作戦 ⇒ スーパーうぐいす嬢作戦(現地住民と同じ目線)
    NK作戦 ⇒ 慣れるな、怪我するな(4月の特性)
    YKK作戦 ⇒ 油断するな、感謝の気持ちを持って完壁に(5月の特性)

    だそうです。

    自民党、国防部会・防衛政策検討小委員会 速記録もありました。
    http://www.jimin.jp/jimin/jimin/2004_seisaku/iraku/01.html

    また帯広の第五師団のサイトから
    http://www.nae.jgsdf.go.jp/5d/katudo/kowa/kowa.htm

    このサイトはTOPから入ると色々と面白げな記事が載っています。

    それとキャメルバッグって自転車のりが背中に背負ったまま水が飲めるようにしたバッグですな。自衛隊の正式なものは知りませんが、私が昔使っていたのとよく似たものがWEBにありました。参考に。
    http://www.cycle-yoshida.com/gt/camelbak/camelbag2l_page.htm

    『正論四月号』の八木秀次先生と西尾幹二先生の論立てを詠みました。
    皇室の性質と国民の性質の類似性の話もそうだよなと思って読みました。私自身こういう国民の優しさ優雅さは好きです。ただこれをどこの民族も同じだと考える人間がいるから困るわけです。またはその日本人の性質を悪く利用する日本人がいるから問題なのでしょう。

    そういう意味では番匠隊長がやった片手に銃、片手にスーパーうぐいす嬢作戦が国民が出来るようになったらいいのになと思います。

    番匠隊長の講演録を読んだどっかの莫迦記者が「イラクに友好を伝えるのに片方に銃をもって手を振るのはいかがなものか」とでもいいそうです。
    莫迦は死ななきゃなおらないという言葉がありますが、周りにいる人間が誰もが日本人を好きな訳じゃない。自分の命をかけて自爆テロを行う人間だっているのだから、当然に自衛のために銃に手を掛けて水を飲むのでさえ銃から手を離さないという環境なわけです。これが現実であって莫迦はすぐに自分のご都合主義から相手を見ますから。
    (以下雑談)
    他者認識が崩壊しているのか、それとも呆けているのか知りませんが。きっとこういう莫迦は母親より父親の教育が悪かったのかなと最近思うようになりました。母親は「渡る世間に鬼はない」(人間関係の理想)を教え、父親は「家を出れば七人の敵がいる」(社会の現実)を教えないとこういう人間が育ちそうです。

  3. > 引き金を我々、ローベリ?という下向きの銃の向け方
    おそらく「ローレディ」だと思います。銃をスリング(負い紐)で肩にかけたり片手でぶら下げて持ったりせずに、銃口を下に向けて両手できちんと保持する持ち方です。即座に射撃姿勢に移れるので咄嗟の対処がしやすくなります。
    例としては少し保持位置が高く銃口が左向きすぎですが、こんな感じです。
    http://www.armytimes.com/content/editorial/editart/022405front1.JPG

    軍用のキャメルバッグの例
    http://www.eagleindustries.com/ProdDisp.asp?SubCatID=64

    実際に使ってる例
    http://www.armytimes.com/content/editorial/editart/022405front3.JPG

  4. >densifloraさん
    ご指摘ありがとうございます。

    私はそういうの(軍隊用語?)に全く疎いので、気が付きませんでした。戦車の90式というのも最初「キュウマル」という音声で、なにがなにやら分らなかったのですが、90をそう発音するのだということが分りました。(恥)

  5. 番匠大佐の仰られた、「間接的アプローチ」とは、リデルハートの影響なんかあるんでしょうか。

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