坦々塾生出版のお知らせ(3)

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林 千勝さんご自身による紹介文

自著に寄せて

『日米開戦 陸軍の勝算―「秋丸機関」の最終報告書』(祥伝社新書)

                      林 千勝

「敵を知り、己を知れば百戦殆(あやう)からず」(孫子)
私もそう考えます。
こういう考えの私が、七十年前のあの戦争の「開戦」の決断に関する真実を追求してきました。その結果、驚くべき真実に出会ったのです。
決断は、人間の精神活動の中で、あるいは組織行為の中で、最も高次のものです。ましてや、七十年前のあの戦争の「開戦」の決断です。言うまでもなく、あの戦争は「総力戦」です。「総力戦」とは、すべての国力を挙げて、より本質的に言えば、国民経済を挙げて戦う戦争のことです。決断には、すべての国民の生命と生活がかかっていました。

本書では、「総力戦」の経済的側面を重視しなければならないとの観点から、戦争戦略の策定における客観的な数字データを読者の皆様にそのままお見せします。供するものは一次資料です。この一次資料には、当時、陸軍省内で実際に行われました戦争シミュレーションが含まれます。「開戦」の決断を後押しした戦争戦略の策定プロセスにおいて、枢要な位置を占めていたイギリス、アメリカの立場での経済的な側面を重視した戦争シミュレーションです。本書では、このシミュレーションを当時と同じ形で体験していただきます。このことにより、本書において、対米英戦開戦という空前の意思決定を行った東條首相や杉山参謀総長と、そこに至るまでの思考過程を共有することになります。同じ目線を持っていただきます。要するに、「開戦」の決断過程の追体験です。    ―― まえがきより抜粋

わずか70年前の歴史の真実、強く志向された「生」、主体的な「行動」、そして研ぎ澄まされた高い「認識力」。―― 戦前日本(昭和)では、政府や軍当局も、言論界も、すべてを認識していた。政治・経済・軍事を地球規模で俯瞰し、敵を知り己を知っていた。70年前の戦争の開戦の決断は、完全経済封鎖により追い込まれに追い込まれた末のもの。対米屈従の道を選ばなかったこの決断は、国が、民族が、家族が生き残るためであり、それゆえ、極めて合理的な判断の下に行われた。そうでなければ、国民は納得せず、国家は運営できず、陛下もご裁可なさらなかった。実際、「持久戦に成算無きものに対し戦争を始めるのは如何か」が昭和16年当時の陛下のお考えであられた。そして、この判断の主役は陸軍であった。

陸軍は「生きるか死ぬか」のぎりぎりの決断を下すために、敵と己の経済抗戦力の測定とそれに基づく戦略の策定に知見を最大限に発揮した。同時に、ドイツの苦戦も視野に入っていた。そして、科学的な研究に基づく合理的な“西進”主体の戦争戦略「対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」を、昭和16年11月15日大本営政府連絡会議にて決定し、続いて果敢に行動したのであった。―― 結局、日本は一部海軍勢力の作為によりこの戦争戦略から逸脱し敗北したが・・・・。戦後これまで、この戦争戦略の存在が歴史の中に埋もれていた。況や、この戦争戦略がどんなプロセスと裏付けをもって作成されたかは完全に歴史から消されていた。
70年前の戦争で植民地を次々と解放した日本の戦いぶりを見て、世界の支配者たる白人たちはその底力を恐れた。だからアメリカは、日本占領とともに戦争の真実、日本の「生」と「行動」と「認識力」の軌跡を消した。日本人の魂を圧殺し、歴史をつくり変えた。邪魔な書物を没収し、言論を統制し、ラジオ、新聞、映画そして教科書などで日本人を洗脳した。邪魔な当局文書もほぼすべて没収した。更に、アメリカ監修で二次資料をつくり浸透を図った。戦後あてがわれた日本の歴史、特に戦争をめぐる歴史は、大事な部分がフィクションだ。歴史の闇は深い。

われわれは、アメリカとGHQによって消された記録と記憶のすべてを「発掘」しなければならない。知性の責務だ。「発掘」される“昭和のダイナミズム”は、現在の日本人に対して求心力を及ぼす。日本人の「本源性」を呼び覚ます。これは、日本人の精神の軸に関わる問題であり、思想戦上の展開でもある。われわれには思想戦上の反転攻勢が必要だ。―― だから、私も本書でささやかな一石を投じたい。

「坦々塾生出版のお知らせ(3)」への6件のフィードバック

  1. 安倍さんの談話にも、このくらいの気力が必要でしたのでは。今年は70周年目ということですので、このダイナミズムへの大事な年ですわね。

  2. もうこの際、安倍談話に代わる林談話でも出して世間に冷水・・イヤ熱湯かなwwwを浴びせるぐらいが痛快だと思いますけどねWWW

  3. 早速『日米開戦・陸軍の勝算』を購読しました。 それで、米国ウィリアムズ大教授で歴史家のJames B.Woodの著作『太平洋戦争は無謀な戦争だったのか』(2009年茂木弘道訳)を思い出しました。 
    そこでも、山本五十六の過剰拡大路線の外郭要地攻略作戦と潜水艦用法は間違った戦略であり、日本の当初からの戦略(東南アジア資源確保と日本近海での迎撃)を厳守していたならば、米国は勝利できなかったとしています。 

     しかし、本当にそれだけで講和に持ち込めるとは思えずにいたので(ハルノート暴露などによる米国の戦意粗相宣伝戦を行ったとしても)、『日米開戦・陸軍の勝算』で記されていた、西進により英国の屈服で早期一旦講和に持ち込む戦略の存在を知り、一応納得できました。 
    ただ、西進戦略はドイツの勝利を前提にしていた点が気になります。

     それにしても、やはり山本五十六の戦争指導は本当に残念です。
    著者の林氏の山本五十六スパイ疑惑は理解できますが、たぶん山本五十六のギャンブル好き性格と、陸海軍の相克という低次元の問題が、正しい戦略をぶち壊した真相だという情けない単純なことではないかと想像します。
     そして、有沢広巳や秋丸次郎の歴史隠蔽・自己保身行動は、日本人の弱点・暗黒面そして類型を想起させ、悲しく思いました。

     本当に英霊は浮かばれません。これら教訓をよく分析して、今後に反映すべきだと思うのですが・・・・・

  4. またしても”歴史は現代により創造される”という命題に突き当たりました。古今東西、史実はやはり歪曲される運命にあるのでしょうか(泣)?
    筆者の努力により長く埋もれていた資料が発掘され真実の立証となりました。民族の尊厳を取り戻すには、こうした考古学的手法が必要なんですね。

  5. またしても”歴史は現代により創造される”という命題に突き当たりました。
    古今東西、史実は捏造される運命にあるのでしょうか?筆者の地道な努力
    により長く埋蔵されていた資料が発掘され真実が立証されました。
    民族の尊厳を勝ち取るには、こうした考古学的レシピーが必要とされる
    のですね。そう実感しました。

  6. この本は、将来とてつもなく貴重な本になると思います。静かなベストセラーになってくれるとよいのに。それから文章が素晴らしい。

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