船橋西図書館・焚書事件 最高裁で逆転勝訴の可能性が見えてきた(二)

 この事件については、私が『正論』平成16年新年号に、「船橋西図書館焚書事件一審判決と『はぐらかし』の病理」を書いている。同論文は昨年出版した拙著
日本がアメリカから見捨てられる日(徳間書店)に「あなたは公立図書館の焚書事件を知っていますか」と改題して、全文を掲載している。

 事件の説明はもとより、第一審の判決文からのかなりの量の引用と分析、裁判所へ提出した私の意見書の全文がこの論文に収録されている。

 私の判決文批判は痛烈である。例えば、「被告船橋市の法的責任が生じないことも前述のとおりである」という判決文に即応して、私は「あっ、いけない。いけない。とんでもない詭弁である。こういうことを言い立てるものを『法匪(ほうひ)』という。法律を操る盗賊のことである。」

 同論文をのせた『正論』新年号は証拠として提出されている。弁護士によると、最高裁の裁判長は必ず読んでいるそうである。

 これは楽しみである。口頭弁論の日が待遠しい。

 ところで当「日録」はこの案件を重視し、平成15年9月18日から全判決文と関連資料(事後報告)を掲示してきた。そしていま過去録の中にこれを収めている。

 詳細はここを見て欲しいが、あらためて簡単に経過をもう一度説明しておきたい。
 
 当件は、千葉県船橋市立西図書館の女性司書が廃棄基準を無視して著書など107冊を処分したため、精神的苦痛を受けたなどして、「新しい歴史教科書をつくる会」と、作家の井沢元彦さんら8人が司書と船橋市に計2700万円の損害賠償を求めた事件である。

 第一審の判決が平成15年9月9日、東京地裁であった。須藤典明裁判長は「蔵書の取り扱いは市の自由裁量。廃棄基準に該当しない書籍を処分しても、著者は法的責任を追及できない」と、請求を棄却した。

 廃棄された書籍は以下の通り。               
     
     氏 名     蔵書数  除籍数
     西部 邁     45   44
     渡部昇一    79   37
     西尾幹二    24   12
     福田和也    38   13
     高橋史朗     3    1
     福田恆存    24    1
     小室直樹    26   11
     長谷川慶太郎 56   14
     岡崎久彦    19    5
     坂本多加雄    8    2
     日下公人   34   11
     谷沢永一  102   17
     つくる会    3    1
     藤岡信勝    4    3
     井沢元彦   54    4   
       
合計蔵書519冊、除籍数176冊
 
 ただし、西部邁氏、渡部昇一氏、福田和也氏は訴訟に参加せず、谷沢永一氏は第一審まで参加し、そのあと降りた。各人の不参加の理由は分らない。船橋市在住者でもある井沢元彦氏が原告団の代表となって訴訟がなされ、今日に至る。

 東京高裁での第一審判決に対する各紙の見出しは以下の通りであった。

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 9月 9日 共同  「つくる会」が全面敗訴市民図書館の著書廃棄訴訟
 9月 9日 時事  「つくる会」の請求棄却=船橋市立図書館の蔵書
            廃棄訴訟―東京地裁
 9月10日 千葉日報 つくる会、全面敗訴、船橋市立図書館の廃棄訴訟
 9月10日 東京   船橋の市立図書館107冊廃棄、賠償請求認めず
           「つくる会」が敗訴
 9月10日 読売   図書館の蔵書廃棄「市の自由裁量」東京地裁判決
 9月10日 日刊スポ「新しい歴史教科書をつくる会」らが敗訴
 9月10日 毎日   蔵書廃棄、市の裁量権内 東京地裁
           「つくる会」側の請求棄却
 9月10日 朝日   藤岡氏らの請求棄却
 9月10日 産経千葉 船橋図書館の大量廃棄訴訟「実質的に勝訴」
 

つくる会千葉田久保支部長 一定の評価示す
「むなしい判決だが、実質的に勝訴だ」
「ここまで踏み込んだ内容ながら、作家らに対する権利侵害がないという理由で棄却される のはむなしい」
「公務員としての不適格を指摘された人物が子供たちに語りなどをしている。処分は形式だけだと言わざるをえない。」

 
9月10日 産経全国 「公務員精神が欠如」船橋西図書館の“焚書”
 

            東京地裁 請求は棄却
 須藤裁判長は、井沢さんらの著書を廃棄した司書の行為について「『つくる会』らを嫌悪し、単独で周到な準備をして計画的に行った。公務員として当然の中立公正や不偏不党の精神が欠如していた」と批判した。
 また、廃棄処分発覚後の一連の船橋市の対応を「廃棄の経緯を明らかにせず、責任の所在があいまいなままで幕を引こうとした」と指摘した。
 船橋市教委・石井英一生涯学習部長の話「正式な判決文を見ていませんが、市側の主張が認められた判決だと思う」
「司書の行為 文化的犯罪」原告側
 原告側弁護団は9日、つくる会などに否定的な女性司書の独断廃棄や、船橋市の対応のまずさを認定した判決に、一定の評価を与えた。
 しかし、船橋市民の井沢さんは「司書の行為は職権乱用で文化的犯罪。このようなことが行われて野放しになるのはおかしい。民主主義のルールをふみにじったまま、押し切られたのは残念」と語った。弁護団長の内田智弁護士は「社会的・文化的な問題を矮小化し、十分な審理を行わなかった裁判所の態度は批判を免れず、表現の自由に対する消極的態度は許されない」と指摘した。

 
9月11日 東京  図書館の本廃棄賠償請求認めず「つくる会」が敗訴

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 その後東京高裁は東京地裁の第一審を支持し、本件を棄却したので、最高裁に上告されていた。この度、上告の一部が受理され、今まで歴史上提訴されたことのない新しい権利侵害に道が開かれようとしている。すなわち公立図書館の政治的意図をもつ本の廃棄処分が著作者の人権を侵害し、憲法違反になるという認定がなされるか否かという問題に外ならない。

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