8年前の拙論

 以下の産經コラム「正論」の拙論「敵基地調査が必要ではないか」は、平成21年(2009年)5月26日である。私の原題は、「これ以上の覚悟なき経済制裁は危険」であった。表題は、このときには私に無断で替えられた。

 あれから8年間、我が国政府首脳はつねにただ「経済制裁の強化」を口にするだけだった。私は日本人である前に、人間であり、そして人間である前に、生物である。

 政府も、メディアも、私同様に内心に恐怖を蔵していないはずはない。それなのに、今日も静かに、平和な一日が過ぎて行く。

 皆さん!黙っていていいのだろうか。国内が全土を挙げてヒステリーになる時が近づいている。もう一度言う。私がこれを書いてから8年も経っているのだ。もうここに書いたようなレベルでは間に合わなくなっていることを勿論私は知っている。これからもすべてがどんどん間に合わなくなる。

産經新聞平成21年5月26日付 コラム【正論】欄より

評論家・西尾幹二 敵基地調査が必要ではないか

 ≪≪≪戦争と背中合わせの制裁≫≫≫

 東京裁判でアメリカ人のウィリアム・ローガン弁護人は、日本に対する経済的圧力が先の戦争の原因で、戦争を引き起こしたのは日本ではなく連合国であるとの論証を行うに際し、パリ不戦条約の起案者の一人であるケロッグ米国務長官が経済制裁、経済封鎖を戦争行為として認識していた事実を紹介した。日米開戦をめぐる重要な論点の一つであるが、今日私は大戦を回顧したいのではない。

 経済制裁、経済封鎖が戦争行為であるとしたら、日本は北朝鮮に対してすでに「宣戦布告」をしているに等しいのではないか。北朝鮮がいきなりノドンを撃ち込んできても、かつての日本のように、自分たちは「自衛戦争」をしているのだと言い得る根拠をすでに与えてしまっているのではないか。

 勿論(もちろん)、拉致などの犯罪を向こうが先にやっているから経済制裁は当然だ、という言い分がわが国にはある。しかし、経済制裁に手を出した以上、わが国は戦争行為に踏み切っているのであって、経済制裁は平和的手段だなどと言っても通らないのではないか。
 
≪≪≪北の標的なのに他人事?≫≫≫

 相手がノドンで報復してきても、何も文句を言えない立場ではないか。たしかに先に拉致をしたのが悪いに決まっている。が、悪いに決まっていると思うのは日本人の論理であって、ロシアや中国など他の国の人々がそう思うかどうか分からない。武器さえ使わなければ戦争行為ではない、ときめてかかっているのは、自分たちは戦争から遠い処にいるとつねひごろ安心している今の日本人の迂闊(うかつ)さ、ぼんやりのせいである。北朝鮮が猛々(たけだけ)しい声でアメリカだけでなく国連安保理まで罵(ののし)っているのをアメリカや他の国は笑ってすませられるが、日本はそうはいかないのではないだろうか。

 アメリカは日米両国のやっている経済制裁を戦争行為の一つと思っているに相違ない。北朝鮮も当然そう思っている。そう思わないのは日本だけである。この誤算がばかげた悲劇につながる可能性がある。「ばかげた」と言ったのは世界のどの国もが同情しない惨事だからである。核の再被爆国になっても、何で早く手を打たなかったのかと、他の国の人々は日本の怠惰を哀れむだけだからである。

 拉致被害者は経済制裁の手段では取り戻せない、と分かったとき、経済制裁から武力制裁に切り替えるのが他のあらゆる国が普通に考えることである。武力制裁に切り替えないで、経済制裁をただ漫然とつづけることは、途轍(とてつ)もなく危ういことなのである。

 『Voice』6月号で科学作家の竹内薫氏が迎撃ミサイルでの防衛不可能を説き、「打ち上げ『前』の核ミサイルを破壊する以外に、技術的に確実な方法は存在しない」と語っている。「独裁国家が強力な破壊力をもつ軍事技術を有した場合、それを使わなかった歴史的な事例を見つけることはできない」と。

 よく人は、北朝鮮の核開発は対米交渉を有利にするための瀬戸際外交だと言うが、それはアメリカや他の国が言うならいいとしても、標的にされている国が他人事(ひとごと)のように呑気(のんき)に空とぼけていいのか。北の幹部の誤作動や気紛れやヒステリーで100万単位で核爆死するかもしれない日本人が、そういうことを言って本当の問題から逃げることは許されない。
 
≪≪≪2回目の核実験を強行≫≫≫

 最近は核に対しては核をと口走る人が多い。しかし日本の核武装は別問題で、北を相手に核で対抗を考える前にもっとなすべき緊急で、的を射た方法があるはずである。イスラエルがやってきたことである。前述の「打ち上げ『前』の核ミサイルを破壊する」用意周到な方法への準備、その意志確立、軍事技術の再確認である。私が専門筋から知り得た限りでは、わが自衛隊には空対地ミサイルの用意はないが、戦闘爆撃機による敵基地攻撃能力は十分そなわっている。トマホークなどの艦対地ミサイルはアメリカから供給されれば、勿論使用可能だが、約半年の準備を要するのに対し、即戦力の戦闘爆撃機で十分に対応できるそうである。

 問題は、北朝鮮の基地情報、重要ポイントの位置、強度、埋蔵物件等の調査を要する点である。ここでアメリカの協力は不可欠だが、アメリカに任せるのではなく、敵基地調査は必要だと日本が言い出し、動き出すことが肝腎(かんじん)である。調査をやり出すだけで国内のマスコミが大さわぎするかもしれないばからしさを克服し、民族の生命を守る正念場に対面する時である。小型核のノドン搭載は時間の問題である。例のPAC3を100台配置しても間に合わない時が必ず来る。しかも案外、早く来る。25日には2回目の核実験が行われた。

 アメリカや他の国は日本の出方を見守っているのであって、日本の本気だけがアメリカや中国を動かし、外交を変える。六カ国協議は日本を守らない。何の覚悟もなく経済制裁をだらだらつづける危険はこのうえなく大きい。(にしお かんじ)
平成21年 (2009) 5月26日[火] 先勝

“8年前の拙論” への 5 件のフィードバック

  1. この重要論文を読んで以来、北のミサイルや核の報道があるたびに、ケロッグやローガンの名とともに、思い出していました。昨年出版された「日本この決然たる孤独」にも収録され読み返しました。安倍政権の漫然たる経済制裁強化への報復で、ある日東京に北の核が落ち1000万人が死滅しても、世界は米国の核の傘とNPTの虚しさ、日本の無策・怠惰への憐れみを語り、1年後には東アジアも世界も平静を取り戻すという悪夢のシナリオがあり得、「日本民族の生死に関わる切迫した課題」であるにも拘わらず、与野党ともに誰も真剣に課題として取り上げず、懸念する声さえ聞こえません。「アメリカや他の国は日本の出方を見守っているのであって、日本の本気だけがアメリカや中国を動かし、外交を変える」がこの論文の結論ですが、日本の為政者は本気で最優先緊急の政治の仕事をする覚悟がなく、替わって、学者である西尾先生が国家安全保障の警鐘を鳴らし続けること自体が異常な国家の姿ではないでしょうか。去勢され自己保存の本能を喪った民族は、この危機を前にしても安閑とし、座して死を待つばかりです。よく「米本土に届くICBMを持ったときがレッドライン」と言われますが、日本本土はとっくに射程内に入っていますので、米国は日本のレッドラインには無頓着であることの証左であり、アメリカの庇護は無いと認識すべき事態になっています。自民党も政権も残念ながら、西尾先生を失望させた2003年の「座して死せず」での石破氏の認識から一歩も踏み出していないのではないでしょうか。事の性質上、実行までは公表してはならず、内々で機密裡に関係者が動き始めていることを願うのみです。

  2. ;

    こんにちは!!!

    北朝鮮に核爆弾を撃ち込まれる前に、

    攻め込めばいいだけだろ!?

    イスラエル空軍にピンポイント爆撃のコツを教わるとか、

    とても簡単な話。

    世界諸国、北の核圏外の国は 多分こんな問題に興味が無いよ。

    テーブルに乗せてする話題では無い。

    「日本人はどうすんの?頑張って!」

    ・・そんな感じだと思う。

    ( 中華・露・北 ) 、中国は100日の猶予を米帝に求めたそうですね、

    ただ単に、カリアゲの威嚇がブラフならば トランプが実情を暴けば良い。

    国内の共謀罪の前に、

    国外向けの情報機関が、公に存在しないのが日本の弱みかもですね!

    *

    17.06.12

    14:49

    子路

  3. ;

    以前、記しましたが。

    核弾頭・薬物兵器・混入物。

    これらが脅威で在るだけで。

    この暗殺手段は各国で応用できるし、模倣・偽装出来得る。

    けれど一対一ならば、その辺を歩いてる兄ちゃん達の方が工作員より強いよ!!

    *

    .

  4. ;

    幹二先生、こんばんは!

    今、ブラタモリで熱田神宮の特集してるけど、

    俺は、信長は今川戦の時に 只寝ていた説を推しますよ。

    地元の仲間達と野党を征伐するが如く、経路と時間を察し突撃した!

    *

    子路

    17.06.17

    19:47

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