西尾幹二、最後のメッセージ(一)

令和6年3月17日産経新聞オピニオン欄より


「日本と西欧の500年史」に秘められた怒り

 西尾幹二氏は怒っている。それは今の日本に対する怒りだ。

 最近は歩くこともできなくなった西尾氏は今、高齢者住宅で暮らす。体は日々衰えていき、普通なら気力も国家や社会への関心も衰えてもおかしくない。しかし、西尾氏はそうはならない。新著『日本と西欧の500年史』のあとがきでも時事問題に触れ、「現代日本に対する苛立ちや怒り」を書いている。

《人口が日本の八割ほどのドイツにGDPで追い抜かれ、日本は世界四位に転落しました。全ての災いは人口減少にあるやに思います。しかし「少子化」問題は男と女の間柄の問題であるはずなのに、カネを積めば解決する問題であるかのように扱われていませんか。日本人はパワーを失っただけでなく人間的知恵まで失ってしまったのでしょうか》

 日本の国力が急速に落ちた一因は人口減少にあり、豊かさと個人主義に安住する日本人の心の変化が社会活力の低下をもたらしているのだということを一顧だにしない日本の政治やジャーナリズムに怒っているのだろう。昨夏「西尾先生の体調がよくない」という噂を聞き、電話をかけたときも、電話口の声は少しか細くはなっていたものの、強い意志が感じられた。
「私は今度、新しい本を出すんです」
「先生、大きなご病気をやられて、入院中にも『西尾幹二全集』の校正をなさっていたのに、さらに新しい本ですか」
「いやあ、不思議なもんだねえ。いつの間にか書いていたのを、ある編集者が見つけてくれたんですよ」

 もちろん、「いつの間にか・・・・」というのは、氏の冗談である。今回の新著は西尾氏が月刊正論に平成25年5月号から、途中何度も休みながらも18回にわたって連載した文章を集め、加筆したものだ。といっても、過去の文章をホチキスでまとめたような本ではない。氏が不自由な体で筆を握り、新たな文章といってもいいほどに書き直した末に完成させた本だ。

 夏の電話のしばらく後、西尾氏の自室を訪ねたとき、氏は文字通り、机の上にかじりつくようにして、この本の推敲に没頭していた。「体が思うようにならなくて、時間がかかるんですよ」と口惜しそうに、原稿のゲラ刷りの上にペンを走らせていた。

「西尾幹二、最後のメッセージ(一)」への2件のフィードバック

  1. 西尾幹二大兄❗️
    出来ましたね❗️おめでとうございます❗️
    これからじっくり読ませていただき、大兄の思考の跡をたどらせていただきましょう。思えば日本も西欧も、大兄が最初にこの本に取り掛かられた頃より、遥かに遥かに劣化していますね?ご健勝を心からお祈り申し上げます。     河内隆彌

  2.  ご本人の許可を得て、柏原保久氏という私の友人の先日来たばかりの手紙の一部を紹介します。
    ==================
     西尾先生の御著書『日本と西欧の五〇〇年史』、先生にしか書けない本ですね。先生がこの本に注いだ熱量がはっきり伝わります。善良な日本人には西洋人の悪意がなかなか見えないのです。実はこれが非常に危険なことなのです。西洋も東洋も、そして世界をも俯瞰したこのご本を東アジアの端の現代の日本人が著したことに、日本人としての誇りと大きな喜びを感じています。誠に有難いことです。

     もう十年近くも前になるでしょうか、東京の確かつくる会の集いで先生が講演をなさった事が有りました。あの時は少し病を得ていらして、お話の後でロビーにいた私に「今日の話はどうだった」とお聞きになられました。私は思った通りに、「お話が佳境に入ると大波小波押し寄せる様で、いつも通りのリズム感のあるお話でした」と申し上げると、先生はとてもお喜びなされて「こういうことを誰も言ってくれないんだよな」と仰有ったことを思い出します。

     私はいつも思っていたのですが、先生のお話はたとえ政治経済の話題であっても語彙が多彩で、言葉使いが巧みですから美しく心に響くのです。これは他に無きもので内容もさることながら、私はいつも西尾先生のお話に聞き惚れていました。

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