皇室問題の論じ方(二)

 私自身は一昨年まで皇位継承問題に関心もなく、小堀氏のように研究会を開いて予備勉強を重ねておくというような勤皇の士でもなかった。ただ継承問題が世に提起され、いろいろな人がこれを論じるにつれ、論じ方が次第に気になり出した。そこに例によって現代知識人の迂闊さが現れているからである。保守派には今言ったように保守派に特有の迂闊さがある。

 強大な敵が見えないこと、歴史の枝葉末節にこだわって歴史を大づかみにできないこと、それから皇室を今や畏れおおいとも思っていない一般国民の白けた空気を意識していない宙に浮いた語法や説明の仕方、伝統を大切とも思っていない大衆に伝統を声高に語る観念性、など目に余るものがある。よく勉強している人も「皇室学」をひけらかす閉鎖的独善性から免れていない。

 その中で例外的に立派だったのは朝日新聞編集委員の岩井克己氏である。ことに紀宮さまと黒田康樹氏とのご結婚を機に「黒田家」を一例に説明された『週刊朝日』(2005年11月11日号)の記事は説得力があった。ご婚礼より前に女系天皇を認める改正がなされたと彼は仮定して、民間人黒田氏が皇族になり、その子が皇位継承権をもち、やがて黒田家が天皇家の中心の座を占める可能性について語った。「黒田家」という具体名を出した遠慮のない説明の仕方に私はハッと気づくものがあった。

 畏れおおいと思っていては筆が進まない。このようなあからさまな書き方でなければダメだと私も考えた。しかしさしもの岩井氏も新聞に書くときにはここまで大胆ではない。なにしろ朝日の社説は女系容認である。岩井氏は新聞で社論に同調しない、レベルの高い解説を書いているが、やはりこれ以上無遠慮になれない縛りがあるらしい。

 そう言っているうちに私に朝日新聞(12月3日)に3枚と5行(1300字)でこの問題を論じるチャンスが与えられた。字数が余りに少ない。しかし何とかして岩井氏より一歩でも大胆に踏み出す効果的な文章を書けないものかと私は思案した。そうして書き直しを二度求められてやっと仕上がった文章は日録のここに収録されている。

 私は自分で言うのも妙だが、成功したと思っている。三人の異なるオピニオン、女系論者と天皇制廃止論者と私の三つの意見が並べて掲載された。次に幾つかの葉書きなどに書かれてきた知友の批評を紹介する。

 

土曜日の朝日の「女系天皇論」読ませていただきました。出色の出来です。
今、女性天皇論には、言うべきことを言わない雰囲気がありますので、先生の文章は朝日の読者には、目からウロコの思いがあると思います。広く読まれて反響が広がればと期待しています。

 これを書いているのはある革新系の出版社の編集者Oさんである。ひごろ天皇が大嫌いと言っている人で、酒を飲むと昭和天皇のことを「あいつのおかげで・・・・・」というような言い方を平然とする人だったが、気っぷのいい快男児なので、永年私とはウマが合う仲の良い友人である。「彼も年をとって少し変わったかなァ」と私はニヤニヤしながらこの文章を読んだ。

 次は私の大学時代の友人で、ある中央官庁の幹部となり、今はリタイヤしているF氏である。

 

貴兄の評論活動はできるだけフォローさせていただいておりますが、12・3・A紙の三者オピニオンにて、貴兄がパンチのきいたキーワードを提起されていたのは感銘いたしました。「○○家」や「△△家」でなく、天皇家を崇敬していくことが日本人の心情であります。この辺にも、戦後の日本の歴史教育が浅かったことを思い知らされます。ご健勝を祈ります。

 3枚と5行(1300字)にこめた私の文章上の戦略意図は奏功したのではないかと秘かに考えている。今年の年賀状にも、必ずしも保守的でない知友に類似の反応があった。

「皇室問題の論じ方(二)」への9件のフィードバック

  1. 西尾先生の天皇に対する文は長文ではないですが、読んでいて、一番の要所を書いていることに驚きます。多くの人に読んでもらえたら良いんだけれど。

  2. 安倍氏の謎。党議拘束云々とは、党議拘束をかければ自民党内が紛糾して法案の提出も危うくなることを期した深謀遠慮か、はてまた小泉首相の意のままに今のところ立ち回ろうとしたのか。皆様はどう考えられますか?

  3. >歌舞伎十八番さん
    お久し振りですね。

    安倍官房長官の発言はあちこちで、いろいろ言われていますね。もうちょっと時間が経ってみないとわかりませんが、こっそり法案提出より、物議をかもすようにするほうがいいかもしれません。

  4. ピンバック: 冬時間の風景
  5. 姪っ子に受験生がおりまして、たまたま実家で勉強の話しになり、あれこれと姪っ子の悩み事を聞きましたところ、どうやら社会科は大の苦手だという。歴史・地理・公民と範囲が広いため、絞り込めなくて手に付かないと言うのだ。
    「実は伯父さんも社会科が大嫌いだったんだよ」と言うと、「でしょーっ、そうだよねーっ」とにんまりしていた。私はこのままで終わると火に油を注いだままとなるのを恐れ、姪に次のようにアドバイスした。
    「信じられないかもしれないけど、世界のどこを探しても日本ほど長い歴史を有する国はないことをご存知かな?中国にしてもギリシャにしても、とにかく今現在ある国で歴史が途絶えていないのは日本だけなんだよ。」そこで私は更にこう付けたした。
    「例えば皇室は神武以来一度も途絶えなかった。しかもね、男系のまま2600年続いている。他国はどうかというと、女系が入り込んだり他国から養子を受け入れたり他国のキングが支配したりと、とにかく断絶の繰り返しなんだ。こうした歴史を我々の時代に安易に止めるべきことかをまず考えなきゃいけない。ちょっと前までは皇室を崇める感覚を等しく保ち、戦前は教育の場にもそれがあったんだよ。」そういって私はたまたま隣にいた母に頼んで、歴代天皇の名前を読み上げてくれないかと頼んだ。
    71歳になる母は得意げに私の注文に応えてくれた。
    すると姪は目を丸くして「婆ちゃん凄い・・・どうしてそんなことできちゃうの」と尋ねた。母は「毎朝覚えさせられたんだよ。クラスで一人だけ完璧に出来た人がいたよ。ばあちゃんは無理だけど、でもまだこれくらいは言えるよ・・・」こうして姪は受験に対する今まで接する事のなかった別の何かを感じ取ったようであった。
    「歴史は国が違えば見方が変わるし、時代が変わるとつい違った考えかたをしてしまうものなんだよ。でも、絶対変えてはいけないものもある。だから歴史は理解から始めないと次に進めないんだよ。否定ばかりすると歴史は違う道を勝手に歩き出す。今はとにかく、継続している日本の歴史の中に、自分たちは暮らしていることを感じてほしい。」最初に比べるとかなり説教じみた話しになったのですが、姪は最後まで話しに付き合ってくれた。
    そして嬉しいことに学校のプリントを取り出し、私にやってみてほしいと言い出した。ここまで気持ちを傾けてくれただけでも話した甲斐があったと見るべきだと思う。そのきっかけは間違いなく母の記憶力のお陰であると思う。
    おふくろに感謝!$P4

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