北朝鮮核問題(一)

 「秋の嵐」という新しい連載を始めたばかりですが、時局が急を告げているので中断し、「北朝鮮核問題」(一)(二)を掲げます。(一)は足立誠之氏のゲストエッセイ(緊急投稿)です。

足立誠之(あだちせいじ)
トロント在住、元東京銀行北京事務所長 元カナダ東京三菱銀行頭取

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 秒読み迫る北朝鮮情勢

 北朝鮮の核実験と、今起きている事柄を並べてみたい。

 今年に入り、国連安保理で、5月のスーダン決議、北朝鮮のミサイル実験に係わる決議案、イランウラン濃縮に関する決議案に中国は賛成した。従来これらの問題で中国は常に、拒否権をちらつかせ、障害となってきた。

 中国銀行は北朝鮮不正取引に係わる資金移動阻止で米国に協力を約した。

 日本では、何故「アジア外交の再建」が執拗に叫ばれるのか。又、何故、昭和天皇のご発言に係わる、富田メモが絶妙のタイミングで公表されたのか。

 米国議会は何故、唐突に民主党議員が「日本の次期首相靖国訪問しない」旨の発言を要求し、従軍慰安婦非難決議を下院委員会が行った。それが、安倍首相の訪中訪韓が決定すると、下院は、従軍慰安婦非難決議を取り下げた。何故なのか。

 米国が、米国の意図に背く、「太陽政策」を採ってきた反米韓国の、外交通商相の国連事務総長就任を何故認めたのか。裏になにもなかったのか。

 安倍政権発足と、急遽の訪中訪韓の決定。何故、中国は態度を急変させ首脳会談を受け入れたのか。これらの事柄は命脈のない出来事ではない。

<中国・北朝鮮関係>

 1949年、中国人民解放軍は中国本土から国民政府軍を駆逐し、10月1日、中華人民共和国の成立が宣言された。さらに台湾解放を準備しつつあった。1950年6月、北朝鮮軍は38度線を突破南下、韓国のほぼ全土を掌握する。米軍を中心とする国連軍が反撃し、鴨緑江、中朝国境に迫った。中国は義勇軍を派遣し、戦争は一進一退し最終的に38度線付近が停戦ラインとなる。

 中国の介入の理由は、周辺への影響力の維持である。

 しかし、朝鮮戦争により、台湾解放は未だになっていない。中国の北朝鮮への恨みは強い。(中国外交部スタッフ複数から聴取。朝鮮戦争は北朝鮮が起こした不必要迷惑な戦争であったというのが彼等の認識である)両国が口にする「地の団結」など表向きのことで、本来存在しない。

 共産主義国家北朝鮮は国境を接する中国には必要であったが、金日成は迷惑な存在であった。金正日はそれに輪をかけた迷惑な存在であろう。中国の援助、忍耐に甘えながら、米国との二国間関係を模索し、中国の意向に沿わない勝手な行動をとる。

 日本の制裁で中国の負担は益々高まりつつある。中国の寛容にも限度がある。

<米中関係> 

 中国は大量破壊兵器・運搬手段を懸念国へ輸出、米国はそれに制裁を加えてきた。しかしその政策の効果が上がらない。05年6月ブッシュ大統領はExecutive Order 13382 を施行し、違反企業、それを金融などで支援した企業に対する在米資産凍結権限を財務長官に付与した。それまで中国は、中国領土内の空港、港湾、鉄道などの施設を自由に使わせており、北朝鮮から、ミサイルなどの輸出も放任されていた。それは不可能になった。

 中国企業の米国内での資本市場で、IPOなどでの資金調達がほとんどできなくなった。中国国内資本市場は殆ど機能していない。中国の金融機関の不良債権は、極めて危険な段階にある。

 中国の国内では、国有企業のリストラ、農村の崩壊で、健康保険、年金などのセーフティーネットが崩壊した。これをカバーする”草の根”NGOが中国全土で動き出し、その資金は海外(主に米国と思われる)から出ている。中国自体の存続すら危うい状態である。一方、中央の権力闘争も、上海市総書記の汚職がらみの解任などで、激しさを増している。胡錦濤政権は、危うい中で生き残りを図っている。ともあれ、米国の対中包囲網の威嚇は強まるであろう。

<米国の北朝鮮問題政策> 

 クリントン政権の”米朝枠組み合意”は失敗した。USCCは北朝鮮の核問題への対応政策を中国に行わせることとした。

 経済など北朝鮮の生殺与奪は中国が握っていることから、中国に圧力をかけて、問題を解決させることを基本政策として定めた。その圧力は如何にしてかけるのか、それが、鍵であろう。

 昨年9月の中国国籍Banco Central Asiaの北朝鮮資金凍結は、先ず、Banco Central Asiaの持つ米国内資産凍結から始まる。Banco Central Asiaは自ら保有する北朝鮮のマネーローンダリング口座を凍結しない限り、同銀行の在米思案が凍結されることになった。中国銀行が北朝鮮の不正取引に係わる資金取引阻止に協力しない限り、中国銀行の在米資産凍結の危険が常に存在することになる。中国銀行は、北朝鮮の不正資金の凍結協力せざるを得なくなった。協力しなければ、中国銀行の在米資産は凍結され、中国経済は万事休すとなる懸念すら孕む。

 米国の大義名分は北朝鮮の核武装、人権、日本人拉致と固まりつつある。

 米国のExecutive Order 13382 で、北朝鮮の中国経由のミサイル輸出は困難になり、愛国者法による北朝鮮の不正取引にかかわる金融制裁、日本の北朝鮮に対する経済制裁は、確実に北朝鮮を追い詰めつつある。

<秒読みに入る米国の対北朝鮮処理>

 北朝鮮の核実験は、米、中、韓いずれにとっても、金正日の追放の大義名分は整った。

 何よりもこれは、イラクで苦戦するブッシュ政権にとって起死回生となる。

 米国は、中国、日本、韓国を巻き込み、北朝鮮処理の最終段階に入りつつある。

 中国は、北朝鮮への自国の影響力が及ぶ、緩衝地帯が北朝鮮に存在すれば、金正日政権でなくともよい。満州吉林省には、朝鮮族自治区もある。傀儡政権も考えられる。韓国政権はレームダックとなった。日本に金正日政権の崩壊に反対する勢力は皆無である。米国が日本に靖国、従軍慰安婦の唐突な要求は、「急いで中韓とうまくやれ」のシグナルである。それがどうやら成功しつつある。

 米国が望むのは、最早6カ国会議の再開ではない。北朝鮮による、核実験の実施である。朝鮮半島問題、東アジア問題は大きく転換しつつある。

「北朝鮮核問題(一)」への3件のフィードバック

  1. 1.唐突とも思える「中共、韓国」への訪問、また、これに合わせるような「村山談話」、「河野談話」の継承表明は、米国の要請(指導・命令)だったのでは、と愚考していました。
    足立様の、この投稿で、合点がいきました。
    2.それにしても、我が国の利害を本当に考えるのなら、この
    金正日の核爆発実験を、機として、「核武装を視野に」との「安倍談話」を発表すべきだったと思います。
    将来とも大切な、パートナーとすべきインドの叡智を学ぶべきでしょう。彼等は、中共に対抗している、唯一のアジアの仲間なのです。

  2. 私も、安倍総理の「村山談話」などこれまでの政治信条をかなぐり捨てた理由を考えた結果、やはりアメリカの要請に従ったのではないか、と思っていました。昨日(10月13日)の産経新聞朝刊の「検証-日中首脳会談」というタイトルで、中国の仕掛ける朝貢外交、それに従う外務省の予定調和外交の圧力を敢然と撥ね付けた安倍総理、という特集を組んでました。

    その中で一番気になった記述は、『「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び・・・」首相は訪中前、周囲にこうつぶやいた』でした。全体的には安倍首相の外交姿勢を褒め称える内容でしたが、この部分に非常に違和感があった。記者は何を伝えたかったのか・・・。

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