現在西尾幹二先生自身の筆による「西尾幹二のインターネット日録」は休載中ですが、許可を得て、管理人(長谷川)が西尾先生関連のエントリーを挙げています。
今回は、「坦々塾」という西尾先生の勉強会の通知に添えてあった近況報告です。
西尾先生が以前に参加していた「九段下会議」は、2005年の小泉選挙と2006年の安倍政権の成立までの間に、保守主義にかんする考え方の相違が大きくなり、いったん解散しました。
このメンバーのうち最後まで会議に残り、なにが真実であったかを見つめていたひとの大部分、といっても13人ですが、西尾先生のもとで勉強会をつづけたいという希望があり、「坦々塾」という会を立ち上げました。
私、長谷川もそのメンバーに入れていただいています。
「坦々塾」はその後、西尾先生の愛読者や賛同者がさらにあつまり、若いひとから老人まで、外国に暮らしている人もふくめて、46人の会員に膨れ上がっています。
いつも1-2時間ほど西尾先生の講義があり、参加者の自由討議があり、外から著名な先生をお呼びして特別講義をしていただく段取りになっています。
特別講義はこれまで、宮崎正弘先生、高山正之先生、関岡英之先生、黄文雄先生、そしてこの8月には東中野修道先生にお出ましいただくことになっております。
特別講義が終わってからの「懇親会」、お酒の席が皆さんの楽しみのようです。私も出来るだけ上京して参加していますが、それでも二度に一度はあきらめています。この夏も出席できません。
昨日、「坦々塾」の事務局から、案内通知をうけました。そこで久しぶりに会員の皆様へあてた西尾先生のざっくばらんなメールを同時に受け取りました。
先生の近況報告なので、「日録」の旧読者のみなさまにも、メールをお知らせしたいと勝手に個人的に考え、事務局と先生の両方からの承諾をいただきましたので、ここに掲載させていただきます。
坦々塾の皆様へ
ご無沙汰しています。
7月後半にはスイスと北イタリアへ行ってきました。高速を走りつづける旅でしたから危ないといえば危ないのですが、なんとか無事に帰国しました。今の若い日本人は国際社会に立ち混じってじつにタフですね。私たち老夫婦を案内してくれた幼児二人づれの若いご夫妻も現地人になりきっていました。
わたしの昔の教え子で、彼はスイスを代表する農薬会社の日本代表です。
ヴェローナで野外オペラ、ミラノで例の「最後の晩餐」の修復された画像、ヴィセンチア、ベルガモなどの未知の町を見ました。死ぬ前にもういちどと思っていたシルス・マリーアの再訪を果たし、バーゼルでは「悲劇の誕生」執筆時代のニーチェの住まい(前に外から見ていた)の内部に偶然にはいることができました。彼が使っていたと思われる前世紀のKachel(円塔型の室内暖炉)もみました。いまなお冬には使われているそうです。
アルプス山系の風景はどこへいってもすごいですね。スイスでなくても、カナダ西部でも、ノルウェーでも、地球の限界のような風景に私はいまはしきりに惹かれます。自分では登山のできない人間なのですが、鋭い山稜がいきなり眼前に天を突く光景にでくわすとわけもなく感動します。今回は南チロル、別名ではドロミーテン地方ともいい、Bolzano(ドイツ名 Bozen)という町から車で一時間で見晴らしのきく山頂に出て、アルプス山脈の東側半分を一望しました。
夏らしい、楽しい旅でした。帰ってみると、東京は蒸し暑く、選挙でした。
私の旅行中に『国家と謝罪』と『日本人はアメリカを許していない』という二つの拙著が刊行されました。
選挙の結果は私が前著で予言したとうりになりましたね、と皆様から今しきりにいわれています。
二年か三年ほど前から、安倍晋三氏は二人といない、かけがえのない真性保守だという観念が主として保守言論雑誌を中心に存在し、固定化し、それ以外の意見をゆるさないタブーになっていました。
私も2006年夏まで、小泉選挙まで、そう思わされていた一人です。教科書のことで安倍さんはよくやってくれましたから。しかし、後継首班で小泉氏に反旗をひるがえさず、タナボタを彼が期待した瞬間に、わたしは政治家としての安倍氏を見放しました。『国家と謝罪』 の part 3 の冒頭に書いたとうりです。
安倍政権の成立は日本の保守運動にとってマイナスで、日本の国家主権回復を10年おくらせたと私はいま考えています。彼が「保守まがい」だからそうなるのです。困ったことです。こうなった以上、政界再編を惹起するために、自民党の崩壊、多党状況の大混乱、真性保守党の登場、本物の政治家の出現を待つしかありません。
坦々塾の皆様は必ずしもそうはお考えになっていない方も少なくないでしょう。そこで、8月19日には皆さんで大討論会を開きましょう。14時から15時ごろまで私が主として「教育と自由」に関する私論をのべ、保守のあるべき理想を語ります。15時ごろから16時半ごろまで、これをきっかけに、安倍批判、安倍擁護などいろいろとり混じった、きわめてオープンな、互いに遠慮のないディスカッションをいたしたいと思います。
東中野修道先生は16時半には会場にご到着のはずです。こんどまた、南京をめぐる大著を新刊なされました。まことに、先生はいま世界史的なお仕事をなさっておられます。
では当日の皆様との再会を期待しております。
西尾幹二