9月の仕事

 現在西尾幹二先生自身の筆による「西尾幹二のインターネット日録」は休載中ですが、許可を得て、管理人(長谷川)が西尾先生関連のエントリーを挙げています。
 
 今回は、9月の仕事の紹介です。

 

 9月の政変を西尾先生は「『日米軍事同盟』と『米中経済同盟』の矛盾と衝突」という観点で、ただの政局論ではない大きなテーマとしてとらえている。

 詳しくは『諸君!』11月号の西尾論文を見てほしい、とのこと。論文のタイトルはつごうでやや政局論ふうに変更されている。

 ほかに、コラム「正論」(『産経新聞』10月2日付)とチャンネル桜(10月16日放送)でも同趣旨を論じている。

 以下にコラム「正論」を掲示する。

米国の仕組む米中経済同盟
(シリーズ・新内閣へ)

両大国の露骨な利己主義に日本は・・・・

《《《王手をかけられかねぬ危機》》》

 今回の政変を私は「日米軍事同盟」と「米中経済同盟」の矛盾と衝突の図とみている。安倍前首相は憲法改正を掲げたが、9条見直しがなぜ国民の生死の問題にかかわるかをテレビの前などで切々と訴えたことがあっただろうか。米国の核の傘はすでにして今はもうないに等しいのだ、と果たして言ったか。日本海に中国の軍港ができたらどうするつもりか、諸君、考えたことはないのか、と声をあげたか。この2つの危機はすでに今の現実である。

 テロ支援国家との2国間協議は絶対にしないと言っていたブッシュ米政権が、北朝鮮と話し合いを開始した。そして国連の制裁決議をさえも無視した。これが同盟国日本に対する裏切りであることは間違いない。中国の北朝鮮制裁も口だけで、金正日に金を払って鉱山開発権を手に入れ、ロジン、ソンボンという日本海の出口の港湾改修工事を中国の手でやり始めた。ここに中国の軍港ができて、核ミサイルを積んだ潜水艦が出入りするようになったら、わが国は王手がかかってしまったも同然である。

 日本海が米中対決の場になることを避けるためにも、米国は北朝鮮を取り込む必要がある。ブッシュ氏に安倍氏はシドニーの日米会談でずばりそう言われたかもしれない。「お前のやっている対北制裁一本槍(やり)では中国にしてやられるぞ」と。無論私の単なる推測である。ただそういう風にでも考えないと、米国の政策転換はあまりに理性を欠いた、利己主義でありすぎる。

《《《南北会談は中国の差し金》》》

 北朝鮮のほうが米国にすり寄りたい現実もある。北が一番嫌いで恐れているのは中国である。「韓国以上に親密な米国のパートナーになる」とブッシュ氏に伝えた金正日の謀略めいた(しかし半ばは本心の)メッセージがある(『産経新聞』8月10日付)。とはいえ中国も米国がイラクで泥沼にはまっている間に着々と台湾にも、朝鮮半島にも手を打っている。半島の南北首脳会談の開催はどうみても、中国の差し金である。

 韓国大統領選は現時点では民主主義の側に立つ野党ハンナラ党の候補が優位にある。それをくつがえすための南北会談である。盧武鉉韓国大統領は北朝鮮に全面譲歩し、南が北にのみこまれる統一を目指している。それでもハンナラ党の優位が崩れないなら、同党候補が北の手で暗殺される可能性があるという。韓国の法律では投票日の15日前を過ぎて候補者が死亡した場合には、新しい候補者は立てられないことになっているそうである。

 すさまじく激烈な半島情勢である。日米にとっても、中国にとっても、半島を相手側に渡せない瀬戸際である。ひょっとしたら日本は米国の本格的な援(たす)けなしで、独力でこの瀬戸際を乗り越えなければならないのかもしれない。

 安倍前首相がまるでヒステリーの子供が「もういや」と手荷物を投げ出すように政権をほうり出したのは、自分ではもうここを乗り越えることはできないという意思表示だったのかもしれない。

《《《徹底的な中国庇護策》》》

 他方、経済問題における米国の日本と中国に対する対応の仕方は、歴史を振り返ると、正反対といえるほどに異なっている。戦後日本が外貨を稼ぐ国になると、米国は一貫して円高政策を推進して、わが国輸出産業を潰(つぶ)しにかかった。1985年のプラザ合意は露骨なまでの日本叩(たた)きだったが、日本の企業が負けなかったのはなお記憶に新しい。

 ところが米国は中国に対しては完全に逆の対応をしている。1994年から2006年までの12年もの長期にわたり元は1ドル約8元という元安のまま変動させない。2001年から中国の外貨準備高は上昇し始め、昨年日本を追い越した。徹底的な中国庇護政策である。

 それもそのはずである。中国で工場生産して外国に輸出している企業は中国の企業ではなく、米国の企業だからである。米国への輸出企業のトップ10社のうち7社は米国の企業である。

 経済は国境を越えグローバルになったという浮いた話ではなく、完璧(かんぺき)な米国のナショナルエゴイズムである。このことは他方、米国の30分の1で生産できる中国の労働力に米国経済が構造的に支配され、自由を失っていることを意味する。

 軍事的超大国の米国はそれでも中国が怖くはないが、以上の米中の関係は日本にとっては危険で、恐ろしい。福田政権が国益を見失い、軍事的にも経済的にも米中の利己主義に翻弄(ほんろう)されつづける可能性を暗示している。

(にしお かんじ)2007.10.2

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