月刊誌『自由』2月号

jiyuhyousi.jpg 月刊誌『自由』2月号(1月8日発売)に、石原萠記、加瀬英明、藤岡信勝、西尾幹二の「新春座談『自由』50年の歩み――安保闘争から歴史教科書問題まで――」が掲載されました。

 その後半で「新しい歴史教科書をつくる会」の現下の問題点が整理され、明解に語られています。最重要の指摘は、安倍前首相が介入して3億円がフジテレビから一種の「だまし」で八木一派の手に渡ったいきさつを屋山太郎氏が証言している、との藤岡氏の告知です。座談会の最大のポイントです。以下は藤岡氏のその部分の発言内容です。

 フジテレビが三億円出すに至ったのは、屋山氏によれば、次のような経過だそうです。

 年が明けてからだと思うのですけれど、屋山氏が安倍総理に電話して、「扶桑社が教科書をやめるということになった。これは大変困る。何とかしてくれないか」と頼んだ。安倍総理から、「誰に言えばいいのか、誰がポイントなのか」と聞かれたので、「それはフジサンケイグループ会長の日枝さんだ」と答えた。それで、安倍総理が、日枝さんに働きかけた。

 屋山氏が安倍総理に電話して一夜明けた翌日には返事が来て、日枝さんが三億円出すことになった。扶桑社の子会社として育鵬社というのをつくって、すぐに社名が決まったかどうかは分かりませんが、それで出すという話が決まった。そういうことを私は屋山さんから直接聞きました。

 安倍さんは、「つくる会」の教科書を念頭において、扶桑社がもう採算が合わないからという口実で出さないというふうに理解していたはずです。安倍さんは自民党若手の教科書議連の中心メンバーでしたし、安倍内閣時代に「つくる会」の教科書がなくなるという事態を危惧して動かれたのだと思います。

 しかし、八木・屋山グループは、安倍首相の善意を利用して、『新しい歴史教科書』はそもそも「つくる会」の教科書ではなく、扶桑社の教科書だということにして、そもそも「つくる会」を弾き出して、八木さんたちのグループに教科書をやらせるというふうに話をすり替えたのです。安倍さんの意向はそうではなくて、「つくる会」の教科書を出し続けるために影響力を行使したと思います。そのことは安倍さんに近い政治家の方からも確かめている。ところが扶桑社は教科書の書名を変える、執筆者も替えると言う。代表執筆者の私はクビです。編集方針を変える。支援組織をつくる。「つくる会」は解散して、個々のメンバーは仲間に入れてやる。こんなことを「つくる会」がのめるはずがありません。

 次に以下の二つの引用で、つくる会問題の本質の指摘とそれに対する西尾のスタンスが余すところなく語られていると信じます。

 この問題の最大の被害者は、私ではなく、藤岡さんなんですよ。藤岡さんの人格を侮辱するビラがまかれたわけですから。いや、侮辱するレベルではなく、藤岡さんの社会的立場をなくそうとしたのですから。公安調査庁情報というものを遣って、他人の存在を脅かすことは犯罪ではないのですか。証拠は八木さん自身が言論雑誌に書き残しているんです。警察だの公安だのの名を用いて、他人を蹴落とすことが許されるのなら、われわれ小市民は穏やかに生活することが出来なくなります。そしてつくる会が、要するに乗っ取りの対象になった。しばらく私は見ていて、横で見ていただけですけれど、これはおかしいと。絶対におかしいと気が付いた。藤岡さんとつくる会を守らなければいけないと。

 最大の被害者は藤岡さんとつくる会で、私は見ていられなかった。つまりあまりにも明白な不正が行われた。正義に反すること、素朴な意味での正義に反することが行われているということを私は友人たちにも申し上げています。それで再生機構に名前を貸すのをやめた人が何人もいます。正義の問題だ、単純な正義の問題だと何人もの人が気付きました。

 以下は藤岡さんご自身が自分の口からは言いにくいことでしょうから、私が代弁します。藤岡さんは八木秀次氏を名誉棄損で民事提訴しているだけでなく、11月初旬に「偽計による業務妨害罪」で、八木秀次、宮崎正治(元つくる会事務局長)、渡辺浩(産経新聞記者)、「ミッドナイト・蘭」こと中村世志也の四名を東京地方検察庁に刑事告訴しました。東京地検は正式受理した模様です。「藤岡信勝先生の名誉を守る会」も既につくられ、つくる会は理事会だけでなく、約5000人の会員がこの裁判の行方を見守っています。

 私の手許に有志が集まって作成したと聞く東京地検への「嘆願書」が送られて来ています。これは私が関与した文章ではありませんが、よく書けているので、その要点を紹介することで、「問題の核心」をお話ししたいと思います。

 藤岡氏が平成13年まで共産党員であったという公安調査庁情報と称するものを、八木氏は『諸君!』や『SAPIO』で「公安調査庁の知人に確認した」と記述しています。東京地検はその「知人」なる人物の実在の有無を明らかにする義務があると思います。「嘆願書」はまずそのように訴えています。

 次に、その「知人」なる人物の氏名、所属部署、身分を明らかにすべきです。また八木氏の言うように公安調査庁に「知人」がいれば、他人の情報を得ることは可能なのか。普通には可能ではないはずです。ならば、それを可能にした八木氏の特権、氏の同庁との関係は何なのかを説明して欲しいと述べています。

 以上が事実であった場合、現時点では氏名不詳の「知人」には、当然ながら刑事責任が発生するのではないか。何故なら、公安内部の「知人」が公安という国家機密機関の情報、しかも非公開の個人情報を、八木氏という特定の人物に公刊雑誌に複数流布させることを可能にしたからであります。

 以上にあげた諸点は「知人」の実在を前提とします。もし「知人」が実在の人物ではなく、八木氏による創作・ニセ情報であった場合には、八木氏の刑事責任が発生するのは如何せん防止しがたいのではないか、と問うております。

 関係者によると、この「嘆願書」は既に約100人の署名がなされ、東京地検に送られているそうです。署名は今後増えるでしょう。

 よく考えて欲しいのですが、平成13年、すなわち最初の教科書採択の年まで、藤岡氏は保守派の隠れ蓑をまとった「隠れ共産党員」であったと、公安の権威を使って言い立て、藤岡氏をつくる会から失脚させようとしたのですから、卑劣この上もない行為です。八木氏が藤岡氏のいる理事会などで「平成13年まであなたは共産党員ではなかったか」と堂々と声を上げ、公開討論をするのなら、それは少しも卑しいことではありません。

 私が残念なのは、今の世の中が、公安利用などということに敏感でなくなり、仲間を公安に売ることが不正の極みだということさえ分らない人々が、保守言論界の名だたる名士たちの中に少なくないほどに、世の中の道徳観が麻痺していることです。

 私が憤りを覚えているのはひたすらその一点です。それがこの問題に対する私のスタンスの最大の部分です。

 以上のほかに、つくる会のテーマに限っても14ページにわたってさまざまな観点が詳しく討議されていますし、『世界』と対決した『自由』の1960年代以来の長い歴史も追跡されています。まさに戦後史の欠かせないドラマです。

 『自由』は簡単に入手できない地域もあるかもしれません。

 『自由』誌本号の入手及びご購読のお申し込みは、お近くの書店または、自由社(電話:03-5976-6201/FAX:03-5976-6202)までお申し込み下さいますようお願いいたします。

文・西尾幹二

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