田母神航空幕僚長の論文事件を考える

 アメリカ発の金融危機がどこまで深刻で、どのように今後の世界を変えていくかはまだ分らないが、アメリカの力が落ちて、政治的にもかなりの影響が出てくることは間違いないだろう。日本が自ら傷つかずにアメリカからどう距離をとっていくかが今後のわが国の最大の課題と思う。

 つまりわが国はこれから困難な状況を迎えるとともに、好機をも迎える。好機とはいうまでもなく、アメリカの事実上の「保護国」にある立場からの脱却、すなわち「独立」のチャンスの到来である。

 私は『WiLL』12月号「麻生太郎と小沢一郎『背後の空洞』」にそのような今の日本の置かれた位置について語った。また『諸君!』12月号に「雑誌ジャーナリズムよ、衰退の根源を直視せよ」でも、現実は動いていて、波立っていて、その波のひとつひとつを掴まえるには、今までの固定した思考の枠組み(イデオロギー)を取り払わねばならないと書いた。ご一読くださった方は分っておられると思う。

 ところが、今の日本は相変わらずまったくそうなってはいない。アメリカからの「解放」が目前に来ているというのに、新しい現実の動きがまったく分っていない。

 田母神航空幕僚長の論文は普通に立派なことを語っていて何も問題はない。しかるに日本政府はなにかに怯えて、彼の地位を外し、彼は解任はされなかったが、定年退職の形式でやめさせられた。政府としては苦肉の策だろうが、なぜそんなにビクビクするのか。アメリカから一歩ずつでも「独立」した方向へ進もうとする今の日本人の精神的情勢がまったく分っていないのである。

 政府のほうが時代遅れである。沖縄の集団自決事件の裁判第二審の判決例を見ても、今の日本の司法はとち狂っているとしか思えない。行政も司法もなにかを恐れている。

 占領軍の命令に怯えた60年前のマインドコントロールがずっとまだつづいていることは間違いないが、昭和60年前後に一度悪化し、それから教科書・拉致などあって少し好転したが、ここへきて近年またまた一段と悪化しているように思えてならない。

 これは「解放」が近づいている証拠でもある。どうしてよいかわからずノイローゼにかかっている現われである。日本の対米依存心理はそれほど根が深く、病理現象を呈している兆しでもある。(このことは前記『WiLL』『諸君!』の12月号二論文でも分析しておいた。)

 私はいま『GHQ焚書図書』第二巻の原稿整理のまっ唯中にあるが、第8章の冒頭に次のように書いている。

 戦後日本人が忘れさせられた「侵略」の真実

 まず、注目していただきたいのは『亜細亜侵略史』『印度侵略史』『米英東亜侵略史』『英国の南阿侵略』『アジア侵略秘史』といったタイトルです。この五冊はたまたま焚書の並ぶ棚から拾い出してきたもので、この手の本は非常にたくさん出版されていました。『大英帝國侵略史』とか『太平洋侵略史全集』というのもあります。多くの本に「侵略」という言葉がかぶせられています。当時の日本人は欧米諸国を「侵略国家」として認識し、指弾していたのです。日本は侵略されなかったアジアの最後の砦であった――そういう捉え方が当時は当たり前でした。

 ところが、いまの新聞、雑誌、テレビ、あるいは教科書を見てください。日本がアジア各国を侵略したという話しにガラリとすり替わっています。そんな馬鹿な話はありません。アジアの国々を侵略したのは欧米諸国であって、けっして日本ではありません。日本は侵略された側の最後の砦だったのです。それなのにいつの間にか日本は侵略した側に回されてしまった。というより欧米は無罪で、日本だけが侵略国にされてしまった。そんなとんでもないことが起こっているのは敗戦国の現実で、現代の敗戦国は領土だけでなく歴史も奪われる端的な証拠です。そしてその手段の一つが焚書でした。

 もしも「欧米諸国=侵略国」という常識を記した本がGHQによって焚書にされずに、日本人の常識からすっかり消されてしまわなかったら、記憶の一部は必ず強く甦り、常識の復権に役立ったでしょう。ところが、現実には、教科書によって、あるいは新聞やテレビによって、米軍の指示に従った歴史観が国民の頭に刷り込まれて来ました。そのため、私たちの国が侵略したのだと思い込むようになってしまったのです。

 ご覧の通り「焚書」が決定的にマインドコントロールの役割を果したのだった。現在の日本政府も、裁判所も、脳髄の中枢をやられているのである。

 私は根本から日本人の意識を変えていかなければダメだと思っている。無力とはいえ、私の言論も少しは役立つでしょう。しかし、それよりもアメリカが財政破綻の結果、日本列島の防衛を事実上もう不可能とみて、日本から誰の目にもはっきり分るほどに離れていく局面が生じることが、日本人の自立の切っ掛けになるのではないだろうか。

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