GHQの思想的犯罪(三)

GHQ焚書図書開封 GHQ焚書図書開封
(2008/06)
西尾 幹二

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◆ロシアにおける権力の不在

 話を前に戻しますと、現在、権力というものがなくなっている。ところが皆さん、人は権力を求めるものなのです。それは権力がなくなると、途端に自分たちが困るからです。

 1991年にソビエトが崩壊しました。ロシアになり、そこからウズベク共和国やタジク共和国といった多くの共和国が生まれました。新興の共和国に住んでいたロシア人は悲惨な目にあいます。「叩き殺してやる」とか、「出て行け」とか、「いやここにとどまって奴隷になれ」とか。それはもうたちまち無権力状態に放り出されたわけです。つまり、ロシア人が敗戦国民になったんです。これは冷戦という第三次世界大戦の結末、即ちソビエトの崩壊、アメリカの勝利という、つい最近起こった、歴史的事件です。私たちの敗戦経験というのはもう遠い昔なので忘れてしまっているのですが、同じようなことが起こったんですよ。ロシアは敗北したのです。

 しかし、日本やドイツが蒙った敗北ほど酷くはなかったので、程々だったのですが、ロシア語の教育がいっぺんになくなり、ロシア人を否定するような歴史教育にどんどん変わっていきました。それで、ソルジェニーツィンという人が各地を歩き回って、「祖国よ甦れ、どうなっているのか」と嘆いたのでした。これは90年代の話ですが、そういう本が書かれています。ロシアも苦しんでいるんだな、と思っていました。

 そう思っていたら、あっという間にプーチンが出現した。何故プーチンのような独裁者がと皆さんは思うかもしれませんが、ロシア人はもともと体質的に独裁者が好きなんです。しかし、それだけでは説明できないですね。もう一つの理由としては、国内に豊富な石油があって、それが幸運をもたらしたということもあります。

 しかし、プーチンを中心に結集した力というのは、「甦れロシア!」という叫びだったに違いないんです。それによって、不安と絶望と屈辱を強いられたロシア人が、自らの地位と立場、つまり安全保障のためにやはり強力な権力を求めたわけです。

 ここで私、ふと思ったんですけれども、わが国は1945年の崩壊のとき、シベリアに抑留された人や満州から帰国した人が無権力状態におかれました。そして、BC級戦犯は皆、田舎に帰ってきて百姓などをしていたにもかかわらず、再びシンガポールやフィリピンに呼び出されて死刑になりました。このような悲劇を受けた人は、武装解除をされたこの国家の悲劇をもろに受けた多くの人々、全体の国民から言えば少数の人々ですが、国外にいた人たちですね。しかしこの列島の中には無権力状態はなかったんです。国家はかろうじて存続していたのです。

日本保守主義研究会7月講演会記録より

つづく

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