GHQの思想的犯罪(五)

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(2008/06)
西尾 幹二

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◆ドイツの敗戦

 ドイツは大変な思いをしました。言うまでもありませんけど、ヒトラーが壕で自殺した瞬間にドイツという国家がなくなってしまいました。第一次世界大戦のときとは全く違います。このときもヴィルヘルム二世皇帝が失脚してしまうなどの悲劇が起こっていますが、かろうじて国家は残ります。ですから、第一次大戦のときも第二次大戦と同じように戦争犯罪人の摘発を要求され、裁判を請求されるんですけど、その当時のドイツ政府は、国家が残っていたので、戦争犯罪人の摘発を連合軍に対して全部拒絶しました。

 どうしてもしつこく言ってくるロイド・ジョージなどの要求に対して、当時のドイツ政府は国内で裁判を開き、全部無罪か法廷不成立にしてしまって、アッカンベーということをやったのですよ。そうやったということは、ドイツに国家があった証拠なんです。

 しかし第二次大戦の時には、国家がなくなり、そのために占領地域のドイツ国民が一番ひどい目にあいました。特に旧ソ連の占領地域が残酷だったんですよ。異常なほどの婦女暴行などが激しく起こっているんです。他にも、窓から赤ん坊を投げて捨てられたりとか、悲惨な記録がものすごくたくさん残されていて、読むのも嫌になるくらいです。

 しかし、ドイツ人はこうした苦しい苦しい境遇について、戦後、一言も国際的に訴えることができなかったんです。言ってしまったら最後、「ナチスのユダヤ人虐殺の犯罪に比べてお前たちのこうむったことなどは何だ」ということになる。しかもちょうど四カ国管理が始まるまでのドイツでは、かのアウシュビッツの惨劇が世界的に知られるようになり、その衝撃が世界に広がりましたから、ドイツ市民に対してはどんな暴行を行っても報復は許されるというのが占領してきた人々の感情だった。ドイツの立つ瀬は全くなく、あのとき本当に一番残酷な仕打ちを受けたんです。長年、その記憶を怒りとともに表現することすらできなかった。

 それが突如として爆発したのが50年後でした。1995年の5月8日の終戦記念日に、ドイツでは我慢していた怒りが堰を切ったように流れ出た。ナチスの罪であるから、自分たちの受けた苦しみを帳消しにしてはいけない、などという要求はもう我慢できないと。そんなバカなことはないじゃないかと。その怒りが初めてやっと出てきて、それからの十年間は色々な場でドイツも果敢に言えるようになってくるわけです。

 それでも以前は「ドイツはそういうことを言って、ナチスの問題を相対化してはいけない」というような議論は相変わらず、アカデミズムなどでは強かったものです。でも様々な学者が出てきて反論しています。まあ、世代は色々動いているようです。

日本保守主義研究会7月講演会記録より

つづく

お知らせ

日本文化チャンネル桜出演(スカパー!216チャンネル)

タイトル :「闘論!倒論!討論!2008 日本よ、今...」
テーマ :「オバマ政権と米中同盟」
放送予定日:前半 平成20年12月18日(木曜日)19:30~20:30
       後半 平成20年12月19日(金曜日)19:00~20:30
       
パネリスト:(50音順敬称略)
      青木直人(ジャーナリスト)
      加瀬英明(評論家)
      日下公人(評論家・社会貢献支援財団会長)
      西尾幹二(評論家)
      西部 邁(評論家)
      宮崎正弘(作家・評論家)
司会:水島総(日本文化チャンネル桜 代表)

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