GHQの思想的犯罪(十一)

GHQ焚書図書開封 GHQ焚書図書開封
(2008/06)
西尾 幹二

商品詳細を見る

GHQ焚書図書開封 2 (2) GHQ焚書図書開封 2 (2)
(2008/12)
西尾 幹二

商品詳細を見る

◆焚書の実践

 では具体的にどういうことが始まったかというと、昭和21年1月17日に、アメリカが日本政府にこういうことをするから、よく心得よ、ということで、命令書を提起します。

 非常におかしなことが行われている。日本政府に対し次のリストにある宣伝用の刊行物を多量に保有している倉庫、書店、書籍取り扱い業者、これは古本屋のことですね、出版社、問屋、広告宣伝会社、政府諸官庁など、一切の公共のルートからこれら刊行物を一箇所に収集することを指示する。そして例として最初に10冊だけ挙げてあるわけです。最初は10冊です。

 10点といっても、一冊につき1万部とか5千部という数ですから、大変な数ですよね。それを全部集めて、保管するように。そして、パルプに再生するための処理については追って指示を出す、ということが書いてある。

 ここで大変面白いことは、バラバラに個別に存在している書物、つまり民間人の家庭にあるものですね、それと、図書館にある書物は右の指令の実行措置から除外する、とされていたことです。つまり、個人の持っている本と、図書館の本は手を付けるな、と。あとで段々分かってきますが、これが極めて巧妙な手口だったのです。

 つまり、アメリカ政府が日本政府に言論の自由と出版活動、あるいはそういったものの自由を憲法にうたうように言っていた時期です。その時期に、当の自分たちがこういうことをやるということは、自らの手を縛る変な話ですから、後ろめたさがあるということです。

 そしてこれは一応、実利的でもあります。つまり先ほどちょっと言ったように、流布、流通していなければ、民間人の誰かが持っているものをこっそり他の人が読もうとか、それから図書館に行ってわざわざ見ようとか、その程度はいい。そんなことはたいした影響がない。

 そうではなくて、自由に流通している本屋、またそれが再販されたり、どんどんどんどん出版物が色んなところへ流れたりする、これを押さえてしまう。それから議論させない。それについて論じさせないということ。それが大事だというのです。つまり心理を知っている。隅々まで集めて燃やし、なくしてしまう必要は無い。一定のブラフをかけておいて、流通から外してしまえば読まなくなります。第一、当時の状況を思い出せばそうです。政府がもう読んじゃいけないと指示している本、しかも何かこれはやばいぞといわれた本を人は読まなくなる。

 しかもあのころはどんどん新しいものにみんな国民の目が向かっていた。たとえば映画『青い山脈』では「古い上着よさようなら」と謡っていたわけですから。古い時代、昔のものはもういい、これから日本人は未来を考えるのだということです。甘いですからね、この国は。

 さっき言ったように『リンゴの唄』と『青い山脈』で騙された口です。つまり「希望のある未来へ」ということを言って、ワーッとなっていた時代です。厭戦気分がありますから、そして軍国主義はけしからんということになって、軍人が肩身が狭い思いをし始める時代でしょう。そんな時代ですから、結局よっぽどの人でなければ今までの本を見たりはしない。

 けれども、それがどんどん流布され、また、出版されたり再販されたりして、自由に横行していれば、その活字が目に触れるわけです。それで議論も起るわけです。そうなれば様子は変わったはずです。それを起さないようにしてしまっておけば、その本が個人の家庭にあっても、また図書館でこっそり読んでノートに書き写そうと、たいしたことじゃない。それが議論になって口論になっていくことを抑えるということで、さっきも岩田さんがひとつの具体例を出しておりましたけど(坂口安吾「特攻隊に捧ぐ」の例。『澪標』7月号、「義憤なき哀しみ」参照)、ああいうことですね。ああいうものが議論になるという事を避けさせるという効果があるのです。

 不思議なことは、まだ実態がよく分からないうちから焚書のやり方についてだけは確固たる方針と強い信念をもう決めてあったということです。つまりスタートの時点、昭和21年の3月の段階では、占領軍はまだどんな本があるか知らないわけですよ。知らないけれども、超国家主義と軍国主義に関する本は、例えば10冊ここに例を出して、こういったものをこれから取り締まるからということで、パッと出して、どんな本かはこれからやりますよと言っている。その前に、もうすでに図書館と個人の下にある本には手をつけないと方針を示しています。その代わり、ありとあらゆるルートからはこれを全部排除して、官公庁にある本さえも排除する。ですから私が時々古い本を見ていると、外務省なんてスタンプ押した本が出てくる。要するにその時、外務省から流出していった、廃棄された本ですね。

 帝国図書館がその舞台でした。今の国会図書館は帝国図書館の本をそのまま引き継いでおります。そしてどうやら帝国図書館の本を利用して、それをもとにしてそのリストか実物を見ながら焚書の本選びをやったようです。これは明確にまだはっきりしていません。色んなことが分かっていないので。

 とにかく、さっき言ったように本のリストを作るわけです。内容説明をつけていくから時間が掛かる。帝国図書館長、岡田温という人が、回想記を出していて、その中で、次のようなことを言っています。

 「専門委員として、東京大学の尾高邦雄、金子武蔵の二人を専門委員として任命する。それから本委員会は牧野英一がやると。これは首相官邸で事を行う。」こういうことをちらっと書いていますがこれは全部秘密会議です。これらのことをすべて秘密でやるということもまたGHQの命令です。さて、尾高邦雄、金子武蔵、牧野英一、皆さん分かりますか?私はピンと来ますけどね。

日本保守主義研究会7月講演会記録より

つづく

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です