『国民の歴史』の文庫化

 6月のほぼまる一ヶ月をかけて『国民の歴史』の文庫化に取り組んでいる。作業が全部終わるのには7月一杯かかり、8月末日が校了で、10月刊行の予定である。文春文庫で、上下2巻となる。

 あの本が出たのは平成11年10月で、ちょうど10年になる。よく売れたから新潮文庫からも講談社文庫からもオファーがあった。しかし本が出て間もない早い時期にいち早く要望してこられたのは文藝春秋であった。原著の版元の扶桑社との間で交した契約書によって、文庫化などの二次利用は5年間禁じられていた。

 短時日で作成した大著なので、口述筆記の章がいくつかあり、そこは文章が粗い。今度丁寧に赤字を入れ修文し、読みにくい個所は平明にした。内容上の加筆もなされた。文庫本を定本とする。

 写真や図版が100点以上もあるので、文庫の作成も手間がかゝる。あらためて目次をご案内する。赤字部分は新しく今度書き加えられた箇所である。

上巻目次

 まえがき 歴史とは何か
1・・・・一文明圏としての日本列島
2・・・・時代区分について
3・・・・世界最古の縄文土器文明
4・・・・稲作文化を担ったのは弥生人ではない
5・・・・日本語確立への苦闘
6・・・・神話と歴史
7・・・・魏志倭人伝は歴史資料に値しない
8・・・・王権の根拠―日本の天皇と中国の皇帝
9・・・・漢の時代におこっていた明治維新
10・・・奈良の都は長安に似ていなかった
11・・・平安京の落日と中世ヨーロッパ
12・・・中国から離れるタイミングのよさ―遣唐使の廃止
13・・・縄文火焔土器、運慶、葛飾北斎
14・・・「世界史」はモンゴル帝国から始まった

 上巻付論 自画像を描けない日本人
――「本来的自己」の回復のために――

下巻目次

15・・・西欧の野望・地球分割計画
16・・・秀吉はなぜ朝鮮に出兵したのか
17・・・GODを「神」と訳した間違い
18・・・鎖国は本当にあったのか
19・・・優越していた東アジアとアヘン戦争
20・・・トルデシリャス条約、万国公法、国際連盟、ニュルンベルク裁判
21・・・西洋の革命より革命的であった明治維新
22・・・教育立国の背景
23・・・朝鮮はなぜ眠りつづけたのか
24・・・アメリカが先に日本を仮想敵国にした(その一)
25・・・アメリカが先に日本を仮想敵国にした(その二)
26・・・日本の戦争の孤独さ
27・・・終戦の日
28・・・日本が敗れたのは「戦後の戦争」である
29・・・大正教養主義と戦後進歩主義
30・・・冷戦の推移におどらされた自民党政治
31・・・現代日本における学問の危機
32・・・私はいま日韓問題をどう考えているか
33・・・ホロコーストと戦争犯罪
34・・・人は自由に耐えられるか
原著あとがき
参考文献一覧
下巻付論 『国民の歴史』という本の歴史

 上下巻にそれぞれ加えた二つの「付論」は50枚論文で、力をこめている。上巻付論「自画像を描けない日本人」は著者による本書の解説というか、意図や狙いを語った文章である。「日本から見た世界史のなかに置かれた日本史」が本来の自国史のあり方であるのに、なぜ日本人にはそれが不可能であったかを考えている。日本列島の地理上の位置や9世紀前半以後の「鎖国」ぎみの歴史の流れも考慮に入れて書いている。

 律令がわが国では不完全にしか定着しなかった。その頃からわが国は東アジアで勢威を競い合う必要がなくなり、王権は動かない存在となり、小世界へと変容していく。じつに明治維新までそうではないか。日本人が自画像を描けないのには理由がある。「世界史」を表象することができなかったのである。

 私は上巻付論に「『本来的自己』の回復のために」という副題を添えたが、「回復」より「発見」ないし「発掘」のほうがよいかもしれない。今考慮中である。なぜなら自画像を描けないのは戦争に負けたからとか、自虐史観がどうとかいう話ではまったくないからである。

 上巻につけた「まえがき 歴史とは何か」は約9枚の簡潔な文章で、歌うように書かれた箴言調の一種のマニフェストである。

 下巻の「参考文献一覧」は当時夢中で没頭した、約400冊の書名を掲げる。10年前のあのときには時間的にも、スペースの面でも、使用した本の名を一覧表にするという当然の措置がとれなかった。今度やっとまともな体裁となるのである。「定本」ないし「決定版」と名づける次第である。

 今私は書庫をかき回して、「参考文献一覧」の作成に大わらわで、あと一週間はかゝりそうである。

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