日本をここまで壊したのは誰か(六)

日本をここまで壊したのは誰か 日本をここまで壊したのは誰か
(2010/05/22)
西尾幹二

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石井英夫の今月この一冊(WiLL-2010年8月号より)

 ルービー鳩山の唯一の功績は小沢と抱き合い心中したことだけ。そのためⅤ字回復したイラ菅丸だが、荒海の辺野古沖で座礁することは目に見えている。にもかかわらず自民の支持率は下がったまま水没寸前のありさまだ。

 一体、この国はどこへ行こうとしているのか。だれもが疑心と不安でいぶかっている時、この本が出た。収められた評論の多くは、今年の二月から四月にかけて集中的に書かれたものだから、まだほやほやの湯気が立っている。

 ともあれ自民党の不信は目を覆わしめるが、なぜこうもだらしないのか。そこで今なお再起できない自民党政治の総括が巻頭にある。「江沢民とビル・クリントンの対日攻撃になぜ反撃しなかったのか」と題した「自民党の罪と罰」という一章である。せっかくの書き下ろしなのに、ちょっと古ぼけたタイトルは解せないが、「教科書」と「靖国」と「拉致」の三つを重要なキーワードと見てのことだったのだろう。

 著者はまず日本をおかしくした最初の一人として宮澤喜一を挙げている。従軍慰安婦強制連行というありもしない歴史事実を認めてしまい、韓国にしなくてもいい謝罪をしたのは宮澤内閣の河野洋平だった。その宮澤は鈴木内閣の官房長官時代に、やはりありもしない検定教科書の「侵略」誤認問題を引き起こしている。

 しかし教科書と靖国という象徴となる二つの対中韓外交で、全面敗北の足跡を残したのは中曽根康弘であり、中曽根・後藤田コンビは歴史を売り渡した、と手厳しい。たしかに歴史で外交することを許してはいけない。さらに、拉致を誘発したのは福田赳夫のダッカ事件の不決断だったと歴代首相をなで斬りする。

 比較的頼りになりそうな印象を残したのは小渕惠三だけで、安倍、福田、麻生の小泉亜流たちは、失望を絶望に変えた、と筆鋒するどい。

 だらしなさが継続した原因はどこにあるか。それは各首相に国家意識が欠如していたからだという著者の指弾に納得する読者は多いだろう。しかし菅直人新首相もこれまで確固たる国家観や歴史観を披瀝(ひれき)したのを聞いたことがない。沖縄が地政学的に見て国防の要であることを県民にしかと説明できるかどうか。この男もまた「日本をここまで壊した」首相にならぬことを願わずにはいられない。

 もう一つの読みどころは「外国人参政権 世界地図」。『WiLL』誌22年4月号に載ったもので、恐るべき各国の報告だ。

 アメリカ、オーストラリア、カナダのような典型的な移民受け入れ国家ですら、永住外国人に国政選挙はもとより地方参政権すら簡単には認めていない。デンマーク、ノルウェーなど北欧四国も非常に警戒的であり、限定的である。それは取り返しのつかない不幸な悲劇を目の前に見ているからだとオランダとドイツの例を挙げている。

 オランダは地方参政権を認めたことにより彼らはゲットーを形成し、社会システムを破壊した。ドイツもまた国家意志が「沈黙」を強いられているというのだ。

 菅内閣はこの難題にも立ち向かわなければならない。首相よ、何よりもまず国家戦略を語れ。本書の提示する警告は、深い洞察に満ちている。

文:石井英夫

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