日本をここまで壊したのは誰か
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政治と経済一体の考察を促す刺激的論文集
『正論』8月号より 関岡英之
本書の表紙を書店の店頭で目にした人は度肝を抜かれるにちがいない。『日本をここまで壊したのは誰か』という表題のもとに、河野洋平、小沢一郎、鳩山由紀夫等といった政治評論では常連の所謂「売国政治家」とともに、日本経団連の歴代会長を含む財界首脳陣の名が俎上にあげられているからだ。まず、こうした書籍を刊行した版元、そしてそれを書評でとりあげようという本誌編集部の英断を賞賛したい。なぜなら、我が国にはスポンサータブーという名の、もう一つの「閉ざされた言語空間」が厳然として存在するからだ。
著者の西尾幹二氏は、かつて「保守論壇を叱る 経済と政治は一体である」という論文で「日本のエコノミストはもっと自覚的に政治意識を持って語ってもらいたいし、政治評論家は現代では経済を論じなければ現実を論じたことにならない」と喝破した。当該論文は西尾氏の『「狂気の首相」で日本は大丈夫か』(PHP研究所、平成17年刊)に収録されているが、その指摘するところがあまりにも重要であるため、評者が編集したムック『アメリカの日本改造計画』(イーストプレス、平成18年刊)にも再録させてもらった。その後、『別冊正論』が平成19年に「世界標準は日本人を幸福にしない―教育、医療、年金、経済・金融…平成「改革」を再考する」という画期的な特集を組んだ。政治と経済を一体で論じる思潮は、まさに西尾氏が切り開いてきたと言えよう。
そうした観点からすれば、本書の白眉は「トヨタ・バッシングの教訓 国家意識のない経営者は職を去れ」と「アメリカの『中国化』 中国の『アメリカ化』 日本の鏡にはならない両国の正体露呈」という二つの論文であろう。前者の論文からは、米国の官民総出で展開された「トヨタ潰し」を単に企業の説明責任や危機管理の問題と論じてしまう多くの識者がいかに浅薄で、国家間と戦略眼を欠いているかが判然とする。そして後者の論文が指摘する中国の「アメリカ化」こそ、政治と経済を一体で考察することが今の我が国にとってなぜ重要なのか、まさにその核心なのである。
かつて小泉政権下でM&Aの規制緩和が推し進められた。その徒花だった「ホリエモン」や「村上ファンド」は虚しく消え、仕掛けた米国は市場原理の暴走で自爆した。そして今や、開け放たれた窓から我が国の優良企業を狙っているのは中国だ。企業だけではない。我が国の水源である森林が中国のダミー会社に買い集められ、シャッター通りと化した全国の商店街では中国資本による「チャイナタウン化」計画が水面下で画策されている。その一方では中国移民が急増し、いつの間にか韓国・朝鮮系を抜いて在日外国人の最大勢力となり、永住権を獲得し始めている。米国が種を播いたグローバリゼーションの果実を中国が刈り取らんとしている現実こそ、我が国の存立を脅かす未曾有の国難なのだ。
文:ノンフィクション作家 関岡英之