今日沖縄は中国の海になった!(その六)

 まずかいつまんで報告だけしておこう。尖閣問題について私の仕事は昨日でほとんど終わった。昨日まで忙殺されていて、私の思想の大半はまだ表に出ていない。コラム「正論」に書いた短文と『WiLL』臨時増刊号に書いた「米中に挟撃される日本」の二篇のみが表に出ている。

 10月30日(土)に青木直人氏との対談本『尖閣戦争』(祥伝社新書)が次の仕事として店頭に出る。緊急出版である。対談は9月25日に行って、加筆を重ねた。一冊の本の刊行がこんなに早い例は少ない。着手が早かったせいである。

 目次は次の通りである。

序章 尖閣事件が教えてくれたこと
一章 日米安保の正体
二章 「米中同盟」下の日本
三章 妄想の東アジア共同体構想
四章 来るべき尖閣戦争に、どう対処するか

 それから月刊誌『正論』12月号にも「日本よ、不安と恐怖におののけ」と題した評論を寄せた。『WiLL』臨時増刊号の拙論にはまだ書いていない別の視点から綴られている。ある程度内容の重なるところもあるが、別の雑誌の求めに、同じ題材で、それぞれ別の内容をもって応えようとする難しさはいつも経験しているが、ついぞ慣れるということはない。

 この「日録」には尖閣事件に関する私の考察はほとんどまだ語られていないと思って頂きたい。雑誌と本という活字メディアを中心に仕事をしているので、どうしてもそうなるのである。ブログ失格かもしれないが、今回はやむを得なかった。

 対談相手となって下さった青木直人氏は中国通のお一人で、北朝鮮と中国の関係についてリアリズムに立脚した洞察鋭い本を出している。また日本政府の対中ODAや中国協力者である日本の財界人や官僚の腐敗について、数々の事実を教えて下さった人だ。私は前から関心を寄せ、敬意を抱いていた論客である。

 その彼が対談も終り近く、四章の半ば過ぎでおやと思う発言をなさった。とつぜん会津藩の悲劇について語りだしたのである。中国がチベットに対してやったような冷酷な仕打ちを薩長は会津藩に加えたというのだ。

 その怒りや恨みは今につづいているという。また会津は賊軍で、薩長こそ正しかったという勝利者の側から書かれた歴史観、歴史教育が明治になって小学校から会津の子弟たちに行われたことの屈辱と怒りは今なお消えていない、とも語った。

 沖縄はかつて中国領であったという歴史の勝手な捏造をにわかに声高に言い出している中国は、アジアを解放したのは毛沢東で、日本に勝ったのはアメリカではなく中国共産党だという歴史観をやはり声高に語っている国である。青木さんはこのテーマを次のように結んだ。

 チベットの農奴制を解放したのは毛沢東と人民解放軍であるという教科書をチベットの子どもたちが使わされ、それを受け入れない限り、中国によって弾圧されるという構図。中国が日本を含めて東アジア全体に拡張してきたときに、軍事だけではなくて、自分たちの歴史観を同時に強制してくるということの恐さに、日本人は、ここで気づくべきではないのでしょうか。

 そうだった。たしかにそういうことだな、と私はあらためて考え直した。ここまで考えが及んでいなかった。悪夢だが、しかし当然起こり得る可能性の範囲内にあることである。

 われわれはまだ事柄を甘く考えている。沖縄が中国領になってもならなくても、沖縄の海域一帯が中国の政治支配下に事実上入った場合には、日本の国内は中国一色になり、政権は親中国的立場をとる政党のみが独占する事態になるだろう。そうなれば、教育内容も教科書もとんでもない方向へ変更を強いられることになるだろう。

 そんなことに私たちは耐えられるだろうか。否、そこまでひどいことには決してなるまい、とまだ私たちは高を括っているが、仙石官房長官のような人物がすでに政治の中枢に坐っているのである。彼は中国人でさえ嫌悪をもってしか語らない文化大革命の礼賛者だというのである。

 それでも今度私たちが少し心静かに事態を見守っていられるのは、民主党政権に日本国民が相当に激しいリアクションを起こしていて、さらにアメリカはじめ世界各国の中国を見る目がにわかに厳しくなっている情勢のゆえである。

 今日の産経では全国の地方議会が民主党政権に反対声明を次々と発しているということである。水島総さんがプロモートした10月16日の中国大使館包囲デモは大成功で、世界のメディアの注目を浴び、政治的意味が大きかった。アメリカが中国に厳しい視線を寄せはじめたことにも影響を及ぼしている。アメリカはここで日本を応援し、日本人の不安を拭って、普天間以来ぐらついていた日米関係を立て直そうという思惑もあるだろう。

 しかし私の論調は必ずしもそこで安堵していない。「日本よ、不安と恐怖におののけ」(『正論』12月号)からポイントを拾うと次の通りである。

 私がいま訴えたいのは日本の自助努力である。アメリカがともあれその気になっている間に、わが国が少しでも独立した軍事的意志を確立するべく時間的に間に合わせなくてはいけない。

 しかしながら、実は日本の自助努力を阻害するようにつねに作用するのはアメリカの軍事的協力の約束そのものであり、尖閣は安保適用対象であるというような単なる「客観的認識」が日本国民に与える気休めめいた安心感にほかならない。

 沖縄海域での米軍と自衛隊との合同演習が近く行われる予定が組まれたと聞く。差し当たりの安心材料ではある。

 ただ、ここが考えどころなのだ。このように――いつもそうなのだが――アメリカの協力を待ってはじめて外からの不安や危険が排除され、日本は自分に対する脅威を自ら排除しない。繰り返されるこのパターンの固定化が恐ろしいのである。

 私はアメリカの政府要人はむしろ日本国民を空しく安心させる「客観的認識」を言わないで欲しいと思う。

 会津戦争の話を青木さんから聞いて以来私の中の悪夢がまたふくらんでいたが、インターネット情報によると、中国共産党の解党が近いらしいという噂も聞こえてくるのである。出所は「大紀元」らしいが、体制崩壊後を早くも予想して、共産党内部が幹部の犯罪の証拠煙滅の準備会議を開いたというようなことが語られている。本当だろうか。

 この噂によると、18日に党大会で次期主席を約束された習近平は共産党を整理するゴルバチョフの役割を果すだろう、アメリカは着々とその方向を支援し、推進する動きをしている、というのであるが、本当だろうか。だったら万々歳である。アジアにも「ベルリンの壁崩壊」の時節が到来することになる。

 私は半信半疑で、早速宮崎正弘さんにそんな噂は聞いていないか、と電話をしたら、「全然」と即座に否定されてしまった。あゝやっぱり駄目か、とがっかりした。

 「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」(10月22日通巻3110号)は私のこのときの電話に対する答だったようだ。ご覧下さい。中国の近い未来に変化はないらしい。私の悪夢はむくむくとまた大きくふくらみ始めているのである。

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