今日のこの日から当「日録」はコメント欄を復活することを宣言する。妨害者の乱入に悩まされてコメント欄を久しく閉鎖して来たが、復活を望む声も少なくなく、もうそろそろ開いて、自由な書き込みを歓迎すべきときではないかという声に従いたい。
なお、コメントは、コメントと書いてある部分をクリックすると、一番下に記入欄が現われます。コメントは承認制となっています。
原発事故とそれをめぐる今の国の状態について、WiLL6月号(4月26日発売号)に20枚ほど寄稿した。私の関心は大きくいって三つあった。第一はアメリカとの関係、今回の対日支援の本当のところは何であるかを考えてみた。第二は原発を操る人の質の問題、広い意味での政治、必ずしも政治家だけではなく、官僚・企業人・学者を蔽っている相互無批判な集団同調の心理を分析した。そして第三は資源エネルギーの未来のテーマ、原発に代わる代替エネルギーは果してあるのかないのかについてである。しかし今回は第三の主題には筆は及ばなかった。主として第一と第二の現状分析に終った。題して「最悪を想定できない『和』の社会の病理」。以上は文化チャンネル桜での私の発言内容と方向においてほゞ同一である。
4月16日(土)に放送された文化チャンネル桜の原発事故をめぐる討論を見て下さった方は予想外に多かったようで、いろいろな反響があった。最初は仕事の関係でいま親しくお付き合いしている編集者の方(50歳台)からのメールである。
桜チャンネルを興味深く拝見いたしました。
西尾先生が常日頃述べられている東大支配の構造が、原発推進そのものであると、とても理解できました。
推進する側の官僚体質と自信が、とても気になりました。それにしても、菊池様は話は長いが、言葉が活きていてユニークな方ですね。
浜岡原発は、恐ろしい。
どうなるんでしょうか。また、お話をお聞かせください。
取り急ぎ、感想まで。
「菊池様」とここにあげられている方は私の右隣にいた元GEの技術者、福島第一原発の施行管理担当者であった菊池洋一氏のことである。日本の原発を現場で最初に手がけた人である。
次のメールはまだ若い外資系企業のビジネスマン(30歳台)の知人からである。
昨日、チャンネル桜の3時間討論をネットで拝見しました。非常に明確で分かりやすいメッセージでした。GEで当時福島原発の施工管理をされていた方のコメントも重みがありました。
先生の現在の原発問題と将来のリスクを混同せず分けて議論する手法、国民が背負わなければならない将来のリスクの損害の大きさと原発推進のメリットの大きさの不均衡、 現在の原発を管理する制度上の問題、あるいはその背後にある根本問題、目の前にあるリスクに対する行動指針、どれもが明快で、原発推進派の優等生論文を言葉遊びで行動が伴わない暗愚と痛烈に批判されるあたりは全面的に共鳴しました。誰に囚われることなく自分でリスクを測り、シナリオを考慮し、行動することが求められる非常時である筈なのに、何か停滞感があるのは何なのだろうと思います。企業であれば即刻崩壊しています。
ここでもやはり菊池さんは注目されている。
WiLLの論文には書き落としたことがいくつかある。あまり人は言わないが、気がついている人は気がついているテロの危険である。今度の事故でテロリストに原発の弱点を公開してしまった形だ。爆弾を使わなくても電源設備をこわせばよいのである。使用済核燃料棒が高い処に貯められている構造も建屋の強度を殺いでいる。
チャンネル桜の水島社長は福島第二原発の現場にも今度足を運んでみたそうで、驚いて言うには、入り口周辺に警備する人の姿もなく、まったくの無防備であった由。私の言う日本社会の病理とはこういうことを指している。事例は無数にある。
この国の国民はこんなあぶない道具を使いこなす力がそもそもないのかもしれない。軍事ということからかけ離れて65年もうかつに過ごした。日本人は原子力潜水艦を建造した経験も運転した経験もないのだ。企業人や学者や官僚が手に余る危険な「火の玉」を扱っているという自覚が余りにも欠けている。原子力安全・保安院の係官は東京で電話連絡を受けているだけである。福島の現場に始めて係官が二人顔をみせたのは、何と事故発生から38日も経ってからのことであった。誰かが言っていたが、なぜ東電の会長と社長は防護服を着て、率先して放射能のある現場に入って、作業員の働くそば近くに行ってみようとしないのか。
さて、私の友人の中にはテレビ討論での私の発言に反発し、否定的だった人もいる。尾形美明さんは元銀行マン、私の友人の一人である。私は彼から次のように手厳しく叱責されている。
今まで、チャンネル桜の討論を見ていました。
西尾先生はじめ、原発反対論者の意見の粗雑さと幼稚さに正直驚きました。
日本には「47の火の玉(運転中の原発のこと)がある。これを直ぐにとは言うわけには行くまいが、どう整理していくかが課題だ」などと言います。原発は制御不能な「火の玉」なのですか?試しに、原発を利用している国々に訊いてみたらいいですね。大笑いされるでしょう。
要するに「原発NO」が当然という意見です。さらに、地熱発電だとか、太陽光発電だとか“代替”エネルギー源についても活発に発言していましたが、それが「代替にならない」ことを全く理解していません。勿論、そういったクリーンエネルギーの開発にも努力すべきですが、原発に代替になるはずがありません。
例えば太陽光発電で、半導体製造工場の稼動が可能だと考えるのでしょうか?
元GE職員だったという人物の饒舌と、その話の内容のなさには呆れました。原発の周辺では「乳児の死亡率が54%も高い」のだそうです。何を根拠にそんなバカなことを言うのでしょうね。
また日本が原発を止めても、フランスやアメリカが止めるはずがありません。中国やロシアだって同様です。いや、中東の産油国でさえも、原発建設を計画しています。化石燃料は有限であり、何時までも依存できないからです。
技術開発には失敗が伴います。その失敗を活かしながら、より安全な技術を求めて行くしか人類が生き延びていく道はありません。(それも、世界人口が100億人を超えても無限に、というわけには行かないかも知れませんね。どこかで人類は、食料やエネルギーなどで“限界”に直面する筈です。いや、意外と水資源かも知れません。)
少なくとも、エネルギーに関しては、「第二のプロメティウスの火」と持て囃された(産経紙、福島敏雄「土曜日に書く」)原子力を活用するしか、人類が高度の文明生活を享受する道はありません。
もし、原発を拒否するのであれば、人口を5分の一くらいに減らす覚悟をすべきです。
原発反対論者は、「3割電力消費を減らせば、原発不要」などと言いますが、それはあくまで“当面”でしかありません。
チャンネル桜の討論を見て、つい、高ぶってしまったようです。失礼しました。
尾形拝
「つくる回ML」4月16日より
ここでは菊池さんがひどくネガティヴに扱われているのは少し困るが、私自身はこのような叱責口調で批判されてもそれには理由があると思われるので別に驚かない。尾形さんには理由があるのである。理由は原子力に替わることのできる何らかの別の有力なエネルギーは存在しないという彼の確信から来ている。彼は次のようにも言っている。
エネルギー問題は安全保障の要でもあり、この安定的な供給がなければ、日本社会は「1日たりともやって行けない」ものです。そしてその主流は、現在のところ、火力発電か原発しかあり得ません。一時、期待された、「核融合」の実用化は無理なようです。
極論ですが、電力需要を減らす一番確実な方法は、人口を減らすことです。これは石井さんの言い方を逆にしたものです。「安くて使い勝手が良く、大量に安定した電力」なければ、世界の死亡率は急上昇する、ということです。
でも、現実は年々、65百万人前後の人口増加が予想されます。(『世界国勢図解』)
これも極論ですが、「原発で死んだ人は、何人いますか?」という考え方も出来ます。チェリノブイリでは直接の被爆で4千人が死んだと言われます。スリーマイル島では、死者はなかったのではないでしょうか。
一方、交通事故では世界中で毎年何十万人も死んでいるのではないでしょうか?でも、「自動車を廃止せよ!」という運動は起きません。ガス中毒も何万人かはいるでしょうね。でも「ガスを使うな!」という運動は起きません。
これは、水島代表が先日、チャンネル桜で述べられていたことですが、こういう考えも出来ると、私は思います。要するに、江戸時代の生活に戻る覚悟がなければ、大量の電力を消費せざるを得ないのだ、ということです。
という具合で尾形さんのもの言いは止まる処を知らない。原発は人類の未来そのもので、他に取って替わるエネルギー源はない、という動かぬ前提から発していて、この前提が存在しつづける限り、彼の立論も終わる処を知らないであろう。
私は今日は第三のこのテーマはペンディングにしておくと言った。よほど勉強しないと確信をもつには至らない。言論界も今後このテーマで沸騰するであろうが、まだ結論は早い。
ひとこと言っておけば、自動車事故や飛行機事故を例にあげているが、これらの事故は限られた死者が出るだけで終わるのであり、原発のように土地を汚し半永久的に人の住めない死の土地を作るのとはわけが違う。原発は国土の歴史への破壊の可能性を孕んでいて、日本のように国土の狭い国には不向きである。
もう一人の友人の粕谷哲夫さん(元商社マン、70歳台)はブログ「株式日記と経済展望」の末尾にあるコメント欄を引用して、それにさらに自らのコメントを付けて送ってきた。内容は未整理だが参考になると思う。
原子力発電の未来を問う!(Unknown)
2011-04-19 18:57:24
1/3【討論!】原子力発電の未来を問う![桜H23/4/16]
http://www.youtube.com/watchv=IRG8G_a7hBk&feature=player_profilepage
パネリスト:
齋藤伸三(前原子力委員会委員長代理・元日本原子力研究所理事長)
竹内哲夫(前原子力委員会委員・元日本原燃社長・元東京電力副社長)
林勉(エネルギー問題に発言する会代表幹事・元原子炉メーカー技術者)
兵頭二十八(軍学者)
菊池洋一(元GE技術者・福島第一原子力発電所施工管理担当)
鈴木邦男(作家・政治活動家)
西尾幹二(評論家・文学博士)
前田有一(映画批評家)
司会:水島総
2/3【討論!】原子力発電の未来を問う![桜H23/4/16]
http://www.youtube.com/watchv=9gk44zLpx4Y&feature=related
菊池さんの話、地上波では絶対放送できない内容でした(東京電力が結構スポンサーをしていますから)。確かに延々と話されて、聞いていると疲れも感じましたが、内容は非常に貴重なものでした。本当に原子力を推進していくのであれば、彼のように配管工事や施工工事の怖さや大事さを知っている技術者に大幅に権限を与え、『最高の原子炉を設計できるのはあなたしかいない』と言って、応援するべきだ。
必見動画 !!! 政府の情報隠しは旧ソ連の「ファシズム」と同じだ(Unknown)
2011-04-19 19:11:37
佐藤栄佐久前福島県知事がズバリ指摘
http://gendai.net/articles/view/syakai/130029
【動画】日本外国特派員協会で行われた佐藤栄佐久・前福島県知事の会見
http://facta.co.jp/blog/archives/20110419001004.html
(粕谷) この動画によると 昨年6月に 福島第一原発の2号機で停電事故が起きていた、幸いにも緊急電源が間にあって大事には至らなかったが、佐藤は東電に対し、 不測の事態にたいする予防、危機管理を強化するよう申し入れたが、東電は、「天敵」佐藤の要望を一蹴したという。今回の津波事故は 人災 と断言していた。
このプレスクラブでの発言は、多くの外国人記者によって世界中に流されるであろう。
佐藤は、自分の国策逮捕的な 政治的な動きは 安倍晋三の首相就任以降激しくなったようなことをほのめかしていた。どうも道州制反対の佐藤知事への圧力か?口を濁した。あそれらの問題は 自著【知事抹殺】を 読んでくれと宣伝していた。
佐藤は原発そのものに反対ではない。原発をやるならきちんとやれという立場である。
また日本の原子力政策は 通産省が完全支配しており、路線が敷かれた後はいわゆる政治の介入の余地はないというような実態にも触れていた。
福島原発の 推進には渡部恒三が大いにかかわっているようだが、 その点の記者の質問についての 渡部にたいする批判的な発言はなかった。
刑事被告人にんされただけに 佐藤の怒りは並大抵なものではない。
原子力発電の未来を問う![(Unknown)
2011-04-19 22:06:02
3/3【討論!】原子力発電の未来を問う![桜H23/4/16]
これだけ怒っている西尾先生の姿は久方ぶりに見た。西尾先生の怒りは、東電に対して、かなり強い。
東電の勝俣会長や、清水社長は、会見で頭を下げ謝罪の言葉は口にしたが、悪びれる様子も無く、そこにはなんらの当事者意識も感じられない、非人間的な姿が見て取れた。心の中ではなんとも思っていないのだろう。自分たちがしでかしたことに責任も持たず、むしろ俺たちは被害者だと居直っているのではないか
テレビでアホ発言したが、あとで謝罪した勝間などまだ良いほうだ。東電幹部たちのあの態度からは、人間の温かみなど露ほども感じられない。
日本人とはこんな冷徹な生き物ではなかろう。このことに西尾先生は怒っておられるのだろう。
http://www.youtube.com/watchv=kmnnevZeVhA&feature=BFa&list=SP4F05DB19CE6DD039&index=3
Unknown(Unknown)
2011-04-20 00:33:45
福島原発事故の現状について 京都大学原子炉実験所小出裕章先生に聞く
【福島原発】2011/4/19/火★1.作業員からも工程表に疑問-2.Meltdownとは 1/2 8分44秒
http://www.youtube.com/watchv=asrdKaAP1Rg
【福島原発】2011/4/19/火★1.作業員からも工程表に疑問-2.Meltdownとは 1/2 9分20秒
http://www.youtube.com/watchv=47dJI69Yuhc
(粕谷) 動画投稿者は URL だけでなく何が報じられているか ぐらい書け!!
この動画にたいする 以下のコメント たいへん参考になる。
日本の原子力行政がいいかにいい加減か よくわかる。
コメント
紙の防護服…。車から5分程しか出なかったらしい枝野は、見たところかなりチャンとした”宇宙服”タイプを着用している様子だったが、その1着分だけでも命がけで作業して下さっている現場の人にまわすべきではないのか…。
本当に助かります。毎日アップしていただけるので、その時点での最新の分析がわかります。これからも期待しています。
主要紙の世論調査によると「原発やむを得ず」と考える人が一定数いることが明らかになった。
何故、事を小さく思わせる楽観的な状況を皆簡単に信じてしまうのでしょう?
事の深刻さを分かっている人はかなりいますが、依然として「原子力は日本の電力の1/3なのだし安いのだから仕方がない。」という洗脳から抜け出せないでいる国民。消費税はあれだけ皆が反対するのに、、、。
悪者を管氏に集中させ、野党はじめ皆が責めていますが、確かに初動云々はあったにしろ、問題の根源はもっと奥深くにあって、「安全神話」を作り既得権益を得てきた原子力安全委員会や推進派学者たちや東電の周りの取り巻の所業には考えが到達しない。
我慢強さは世界一の民族でしょう。でも今回の場合はそれは逆効果を生んでしまうのでは?という気すらしてしまいます。
アップありがとうございます。
小出先生の話は現状把握に役立ちます。
斑目!?・・・聞きたくもない名前が出てきた。
「希望的工程表」は、「民主党のマニフェスト」と同じだ。
「根拠無き楽観」は、この国の信用を失くし、国民を不幸にする。 小出先生ありがとうございます。 UPをありがとうございます。
小出先生、スタッフの皆さま、こうして日々信頼おける情報を提供して下さり、ありがとうございます。読み込んでいます…
* 小出先生と同じで、一日も早く冷却システムを作り上げて欲しいと思っています。
何か、良いアイデアはないものかと考えています。
全然役に立っていませんが・・・。
今回は保守系の人でも二つに割れていて、岡崎久彦さんなどは「事故は次への飛躍への教訓」「工学は失敗を糧に育つ」などと言っているようである。尾形さんと同じ立場である。
さいごに青山繁晴さんの最新の意見を掲げておく。私の知らない知見だった。
(汚染水の放射性物質の濃度を低くする作業については、フランスのアレバ社の技術を取り入れるということなんですが)
東電や日本政府がこういう現状だから、フランスやアメリカの手を借りると安心だという雰囲気が日本にけっこう広がってて、特に高名な評論家やそういう方々が、フランスやアメリカが入ってくれるからという感じでおっしゃってるでしょ。よく現実を見てほしいと思うんですが、アレバはフランスの国策会社で、国が9割方株を持ってる。アレバの技術を使ってる核技術施設はすでに日本にあるんですよ。それは青森県の六ヶ所村の核燃料サイクル施設、あるいは核燃料の再処理工場なんですが、これフランスの技術を入れたためにずるずるいつまでも稼働できなくて、もう20回近く先延ばしになってですよ。で、元々の費用は7600億円でできるはずが、何と2兆2000億になってるんです、すでに。これ日本国民が知らなくて、国際社会ではほんとに有名な話で、このロベルジョンさん(CEO)も含めて、国際社会ではもうフランスは六ヶ所村を食い物にしてると言ってるわけですよ。
じつは使用済核燃料の処理は世界でどこもまだ成功していないのだと聞いている。アメリカとフィンランドは燃料の残りは全部土中深く埋めこむ計画だがまだ計画の段階である。日本とフランスは再利用する方向で、高速増殖炉は日本特有の技術ではあるが、平成14年4月に停止してしまった。成功していない。他方、六ヶ所村の再処理工場は別の方向だが、ここも最終試験段階でトラブルが発生している。かりに成功してもいっぺんに処理できないので中間貯蔵施設に使用済を何千本と保存しなくてはならないが、その施設がまだ出来上っていないとも聞く。しかも、再処理ができても「高レベル放射性廃棄物」はさいごにどうしても残るのである。これを地下300メートルに埋めこむ計画のようだが、どの自治体も受け入れを拒否している。300メートルといっても日本列島は地震大国である。地殻変動で将来何が起こるか分らない。燃料の最終処理はフランスも成功していない。フランスは日本に望みをかけてきたのだと思う。
世界は福島を転機に原子力への考え方を変える可能性があると私は考えている。しかし私はまだまだ知識が足りないので確たることはいえない。諸々のオピニオンを以上すべてここに掲げてみたのは、これからゆっくり考えるための一助になればと思ったからである。