番匠幸一郎氏を囲んで (九)

西尾:はい。どうぞ、山口さん。

山口:イラクの対日観は、日露戦争で勝って、基本的に結構なものなんですが、さはさりながら、対米追随じゃないかと思われていないか。私はアジアや中近東のトルコにいたんですけれども、日露戦争の経験から日本に対する尊敬の念はあるんだけれども、しかし今日の日本というのは、アメリカの尻尾にくっついているという状態にあるから、向こうもあからさまには言わないんだけれども、向こうの大臣なんかに会うとですね、そういうニュアンスが出てくる。東南アジア国であるし、トルコも若干そういうところはあるんですが、先ほど世論調査で、我々に反対の16%の中には、アメリカの影響力の中で、日本がアメリカの尻馬に乗っているんじゃないかと、そういうような人もいるかなぁという感じがちょっとするんですが。実際に県知事さんなんかとお話になってですね、ほんとに諸手を挙げて、日露戦争に勝った立派な国だと思っているだけなのか、それともやはり、第二次大戦後の日本というのは、アメリカべったりになっているというようなニュアンスが言葉の端々に出てくるように感じられたかどうなのか、そこらへんをお願いします。

番匠:我々の居りましたサマーワにはアメリカのフットプリントは非常に小さいんですね。先ほどから、申し上げておりますように、イギリスを中心とした多国籍部隊なもんですから、物理的にアメリカの兵隊さんはほとんどいないんです。いるのはオランダが一番多い。それから自衛隊が多くて、イギリス辺りはしょっちゅう通る地域ですから。アメリカはコンボイで前を通過したりということはありますけど、そこで長期間宿営地を置いて勤務しているということがないもんですから、ことサマーワ、ムサンナ県辺りに関して言えば、自衛隊とアメリカ軍の関係が極めて緊密で対米追従だということを、皮膚感覚であまり感じておられなかったのかなと思います。

○○:小泉総理の対米協力でというようなのは、ニュースとしては・・・・

番匠:ま、多分全く意識していないとか、知らないわけではないかもしれませんが、実際に見ていて、我々とアメリカがそんなに近くて、アメリカのために我々がやっているとかそんなことを感じるということは、そんなに無かったんじゃないかなというふうには思います。ただ、まあ、ほんとに我々を諸手を挙げて、歓迎してくれているという部分と、正直申し上げれば、彼らもしたたかな、アラブの人たちですので、自衛隊をしっかり繋ぎとめて、日本をしっかり繋ぎとめて、自分達の地域の発展とか、自分達の利益のために、という気持ちは両方にあるんだろうなという感じがしましたですね。

○○:約一年弱かな、大過なく、大きな事故も無く、大変ご苦労されただろうということにまず感謝申し上げます。ひとつ国民の中にですね、あのサマーワで、何かのドラマが起こらないと、それが迫撃砲なのか、ロケット砲なのか何なのかわかりませんが、自衛隊法や、集団的自衛権その他の問題をクリアーしないと、やっぱりどうしようもないんだと、そういう事態が起こることを、言いにくいが、どっかで待っているという気持ちがまったくないわけではないんですね。

西尾:左翼が?

○○:いやいや、保守派の人間も。

西尾:いやぁ、そこまではないんではないですか。

○○:いや、つまりそういう、今の法体系や対処の仕方では十分な危機管理が不可能なレベルというのがあるはずだと、それは多分ありますよね。抽象論としては。だから、無事に終ったことは大変素晴らしいんだが、だからそれなら今の自衛隊法並びにその他の法整備をとりあえず、先延ばしにしてよろしいのか。例えば戦死者が出た場合に保障をどうするかというふうな問題がね、出てきますよね。公務員プラスどのくらいのアルファがつくのか、或いは昔の軍人恩給的なものをどう復活させるとか、しないのかとか、いろいろの課題が結局無事なるが故に露出しなかったのかなと、そういう感じを抱くところがちょっと複雑なんですよね。つまり複雑というと、自衛隊を少なくとも、常識的な国軍にしようと、そういう国作りをしなくてはいけないだろうと思っている人間から見ますとね、無事だからよかったが、このまま何もしないでよいのかなという感じもないわけではない。

西尾:国軍の一歩手前までは行ったんだけどね。

○○:そういう、例えば、番匠さんはどういう風に、受け止められますか?ここにいるのはみんな自衛隊というものをサポートしている保守派の人間だということを前提にして。

番匠:鶏が先か卵が先かというような感じが私はしておりまして、じゃぁ我々にとって、グローバルスタンダードにピシッと整備されて、法的な環境がきちっと整えられて、隊員の処遇もきちんとできた上で、それからでないと、やはり行ってはいけないのかというと、そういうことは未来永劫あり得ないのではないかと思うんですね。

○○:そうそう、なるほどね。

番匠:正直申し上げれば、今回我々が与えていただいた法律、特措法の中に書かれてある武器使用基準というものにふさわしい任務しか、我々は戴いていないわけです。先ほど申し上げた治安任務ということはないわけです。だから、治安任務ということになると、やはりもう一つ上がってきますね。だから人道復興支援、後方支援といった任務にあう、ぎりぎりのミッションであり、ぎりぎりの武器使用基準であり、ぎりぎりの解釈というものを我々は受けて現地に行っているということです。そういう意味では常に、あるべき論よりちょっと先のところを行きながらということは、感じておりました。

 じゃあ隊員たちはどうかというと、先ほどの戦死者ということですけれど、基本的に隊員たちは全員覚悟していたと思います。私も日本を出るときにですね、お別れをして行ったつもりでおります。幸い、全隊員が今まで無事に一人も怪我もすることなく帰ってきていますけど、それはたまたま運がよかっただけなのかもしれません。迫撃砲というのは、何回も落ちましたけれども、これはわざとはずしているというふうに私は思っていません。そんなに器用なことができるわけがない。ですから、一歩違えば、それはなんらかの損害があったのかもしれませんけれども、でも、現場の隊員たちはですね、それは当たり前だと思っていました。最初から。

 迫撃砲を撃たれたときの訓練をしてきましたし、そういうもんだと思っています。迫撃砲の訓練をやっている時に、迫撃砲が落ちた弾痕に入れと言っていました。迫撃砲が落ちてきた弾痕の中に突っ込めと、そうすると、二度とそこに落ちて来ないから、というぐらいのことをやりながら、やっておりました。あと、確率論ですが、相当確立は低いんです。命中する。そんなことを考えながらやっておりましたので、あまり最悪の事態が起こったときにどうだということは、あれなんですけれど、ただ、そうですね、答えにはなっていないかもしれませんけれども、隊員たちはお金のことがどうかとか、処遇のことがどうかとか、そういうことよりも、やはりこういう仕事を与えてもらったことの意義というか、やりがいというか、そういうことの為にベストを尽くしているような気がしますですね。

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