拉致問題の新しい見方 (四)

 蓮池さんと地村さんの親子がお互いに体制の相違について率直に話せない複雑な心理背景は、以上からだいたい推理できると思う。ただ、私は帰国した5人の子女をテレビで見ていて、ひょっとすると北朝鮮もまた子供の心を利用しようと年来計画を立てていたのではないかと、私の意識をフト横切るものがあった。
 
 いったいなぜ日本人を拉致する必要があったのか、という最初からの謎に、いまだ誰も分り易い答を出してくれていない。住民票を奪って日本人になりすました偽造旅券の一件があった。あの件の理由はよく分ったが、北朝鮮人スパイの教育係に、拉致した日本人が必要だという今までの説明はどうしても腑に落ちない。
 
 25年前の北朝鮮はまだ国力があった。拉致した日本人の二代目をつくらせ、1.2キロ四方の囲いの中で特殊な生活をさせ、親子の関係を利用して、洗脳された若い日本人スパイ(北朝鮮国籍の)を大量に、組織的に日本に送りこむ壮大な長期計画を展開しようとしていたのではないのか。だとすると、5人どころではない。拉致日本人の二世の子供たちがいま他にも多数育てられているのではないだろうか。
 
 信ずべき情報筋から聞いた話だが、蓮池・地村両氏は二年前の10月15日に、北朝鮮当局から子供たちを連れて帰ってもよいと言われたそうである。両氏はすぐに断って、夫婦だけの「訪日」を希望したそうだ。かりに喜々として当局の提案を受け入れたら、忠誠心を疑われ、彼らの「訪日」は取り消され、そして別の二組が代わりに選ばれただろう、と。
 
 恐しい話である。しかしあの体制の真実をえぐっている。両氏は信じるもの乏しき荒涼たる心の戦場をくぐり抜けて今日ここに立ち戻った人々である。大変なことである。待っていた親の愛があり、故郷の土を踏んだ日の暖い歓迎があり、全国民の支援がウソでないことが歳月と共に分って、ようやくマインドコントロールは融けた。彼らの子供は若い柔かい心を持つだけに融けるのが早いともいえるし、親と違って、故郷に帰ったわけではないからマインドコントロールは容易に融けないともいえる。どちらかは分らない。

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