Will 4月号・「岸田外相・御厨座長代理の器を問う!」を読んで(2)

ゲストエッセイ:吉田圭介

 さて、岸田外相が日韓合意を発表した時、「軍の関与」という致命的な文言が入っていることに即座に反応したメディアは、産経新聞を含め余り無かったように思います。私は思わずニュース画面にスリッパを投げつけてしまいましたが(笑)。

 「10億円の拠出」や「不可逆」の文言ばかりが取り沙汰されている印象でした。

 西尾先生だけは合意発表直後からその文言の危険性を指摘していらっしゃり、我が意を得た思いが致しました。

 あの河野談話ですら「軍の関与」の範囲として(慰安所の)「設置」と「移送」という一応の限定を付けていたのに、岸田氏はそういった配慮も一切なく実にあっさりとその文言を使ったため、慰安婦問題の最大の焦点である(慰安婦の)「募集」についても軍の積極的関与を認める形となってしまったのではないかと考えます。河野談話より悪化していますね。

 河野談話をめぐる交渉の時も、韓国側は「軍の関与」という文言を入れろ、と執拗に要求したと聞きます。彼らのほうが日本の外交官よりも余程この文言の重大性を理解していると言わざるを得ません。「軍の関与」はすなわち「国家意志」と見做されるということを、岸田氏は認識しているのでしょうか。

 かつて西尾先生は「歴史認識ではドイツを見習え」という主張への反論の中で、「国家犯罪」と「犯罪国家」との違いを定義されました。戦争や内乱といった混乱状態の中で国家が犯罪行為を犯す「国家犯罪」はどこの国でも行い得る。しかし、始めから犯罪を国家意志として実行する「犯罪国家」は極めて特殊であり、ナチス・ドイツやポル・ポト政権といった稀なケースだけである、と。

 韓国にとっては、慰安婦問題がどこの国でも行い得る「国家犯罪」では困るのでしょう。なぜならその基準で測れば自国も被告に立たされ得ることになり、日本と立場が相対化してしまうからです。日本に対して絶対的上位に立つためには、日本が「犯罪国家」でなければならない、そのために必要な文言が「軍の関与」である、という韓国側の狙いを日本側がきちんと理解していれば、あれほど安易にこんな重大な文言の使用を許すはずがないと思うのですが・・・。

 優秀極まりないはずの外務官僚たちがどうして度々重大なミスを犯してしまうのか?

 彼らの思考形成や心理形成の背景にまで深く思いを巡らし、何とかその原因と改善の道を探ろうとする先生のご論考に、胸が苦しくなる思いが致しました。

 先日、先生が御欠席になった坦々塾研修会で、中村さんが宮内庁内部の破壊分子、特に外務省からの出向組の危険性をお話になったのですが、それに対して別の会員の方から「外務省には友人も居るがそこまで確信的に伝統破壊の意図を持っている者が存在するとは思えない。みんな伝統や祭祀は大事だと思ってはいるが人員も予算も不足気味なだけなのだ」という反論が出る、面白いディスカッションがありました。

 祖国に尽くす意志に満ちた外務官僚も沢山いらっしゃると思いますし、その中には西尾先生の発言を注意深く見ている人も必ずあると信じて居ります。

 最終章第七章を読むと、切迫する危機の余りの多さに焦燥感を覚えます。昨年の夏、軽井沢からお帰りになった先生をお迎えして別の会合までご一緒した折、山手線の中で「どうしてみんなこんなに呑気な顔で居られるんだろう!」と先生が大きな声で嘆かれたのを覚えていますが、私も街を歩きながら同じ思いに囚われて居ります。自由民主主義の勝利によって歴史は終焉した、などと能天気に喜んでいた時代は去り、再び全体主義的国家が(少なくとも部分的に)ヘゲモニーを握る世界が到来するのではないかとさえ思います。

 韓国の自滅は、反日という不条理極まりない病理(西尾先生の表現をお借りすれば「とぐろを巻く自家中毒」とでも言うべきでしょうか)による自業自得であって何ら同情する必要もありませんが、仮に北主導による統一朝鮮が出現した場合、日本は否応なく、自らの「力」を行使して自己の運命を切り開くことを強いられるでしょう。問題は日本人が物理的・精神的にそれに耐えられるかということになりますね。

 常識を以て現実を分析し、論理的帰結として得られた結果から目をそらさず、感情論や非思想性の穴倉に逃げ込まない。月並みではありますが、そう腹を決めて物事に臨んでいくより他にないと結論致しました次第です。

 西尾先生は既に25年前の『朝まで生テレビ』で、「統一し核武装した朝鮮半島と日本が対峙することが一番の悪夢であり、そうなった場合我が国の憲法論議は軍事が極めて強いウェイトを占めたものになってしまうかもしれない。そうなっては却って危険だから、冷静に議論ができる今のうちにきちんと軍事力を規定した憲法改正をすべきだ」と発言されています。

 向かい側に座った色川大吉氏、まだピースボートの代表だった辻元清美氏、『インサイダー』の高野孟氏らが嘲るような笑い声を上げましたが、どちらに将来を見通す知性が有ったかは言うまでもありませんね(笑)。真にフラットな視点で世界を見、勇気を持って真実を語っているのは誰なのか。「人物の真贋」の洞察の重要性もまた、今回のご論考を拝読して強く感じました。本文中の「人間がすべてなのです」というお言葉を肝に銘じたいと思います。

つづく

“Will 4月号・「岸田外相・御厨座長代理の器を問う!」を読んで(2)” への 2 件のフィードバック

  1. 今回は岸田文雄外務大臣について、資質を問はれてをられ、總て同感ですが、ただ本當に外務大臣が日韓合意の立役者でなからば、話は變はつて來ます。日韓合意以前、韓との關係がいたく惡い狀況が年ごろ續きました。オバマの仲介で安倍總理大臣と朴とが同席して會見した際も、安倍總理大臣が朝鮮語で語りかけて氣を引かうとした時も、朴答へず不快さうな顔をして目を背けるほどでした。

    それが日韓合意の際は兩外相大變仲良くしてをり、安倍總理大臣の懺悔と謝罪とを傳へた電話會談で朴がおいらかに受け入れてゐたことが印象に殘ってゐます。合意後はそれまでが噓であつたかの樣に(新たに娼婦像が造立せらるまで)仲睦まじかつた樣に思ひます。これ程の外交轉換を岸田大臣が實現できるでせうか。

    私は、この日韓合意の仲介者がオバマ政權であらうと思ひますが、さうならばオバマ政權の指導の下、日韓兩首腦つまり安倍大臣と朴とが主導したと考へた方が良い樣に思ひます。実際、オバマ廣島訪問に岸田大臣が努力した話は聞きますが、日韓合意に岸田大臣と尹が努力した話はあまり聞きません。

    >さて、岸田外相が日韓合意を発表した時、「軍の関与」という致命的な文言が入っていることに即座に反応したメディアは、産経新聞を含め余り無かったように思います。私は思わずニュース画面にスリッパを投げつけてしまいましたが(笑)。

    >「軍の関与」はすなわち「国家意志」と見做されるということを、岸田氏は認識しているのでしょうか。

    その文言を入れることが合意實現とその後の友好とのための必須條件だったのでせう。岸田大臣は當然承知で結んだでせうし、安倍總理大臣の了解も得てゐたのでせうから、何ら罪の意識は無いでせう。寧ろ政治的には大成功でせう。何となれば、岸田大臣は古賀誠の信任篤い鳩派であり、日韓合意は支持者に好評ですし、西尾先生等一部の人以外反對は無く、新聞紙も好意的でしたし、韓と仲睦まじい自民黨としては有難いかぎりです。鷹派の安倍總理大臣にとつては、不都合な自身の謝罪部分を肩替りして貰つたので、岸田大臣に借りが出來た形になります。

    岸田外相:ポスト安倍へ、オバマ氏広島訪問で非核外交リード
    https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-05-30/O7XUTG6JTSG401

    岸田大臣は、日韓合意オバマ廣島訪問成功で、自民黨内で高く評價せられ、ポスト安倍の最有力候補石破茂氏に次ぐ存在となってゐます。殘念ながら西尾先生の樣に批判的に捉へる人は少ない樣です。では僭越ながら私の岸田外務大臣に對する評價を述べたいと思ひます。

    抑々、去年は眞珠灣攻擊七十五周年であり、大統領選擧の年であります。オバマは民主黨であり、剩へ共和黨のトランプ次期統領に全米のメデイアが反感を持ち民主黨寄りとなつてゐましたので、安倍總理大臣は眞珠灣を訪れるべきではありませんでした。民主黨はフランクリン=ルーズヴェルトの政黨であり、黨として眞珠灣攻擊での御國の非を主張する立場にあります。そのために謝罪なし廣島訪問を呼び水として總理大臣の眞珠灣訪問を實現したのでせう。

    案の定、原爆投下と眞珠灣攻擊とを同列に扱ふ報道で溢れかへりました。勿論、軍事攻擊と民間人を標的にした原爆投下とは性質が異なる等の前振りはどの社説にもついてゐましたが、抑々兩者は日を同じうして論ずる話ではありません。しかし、オバマが廣島訪問した時から、米國では安倍總理大臣の眞珠灣訪問の返禮を求めるこゑが一部に起りました。

    President Obama Is Visiting Hiroshima. Why Not Pearl Harbor? May 26, 2016
    http://www.nationalreview.com/article/435850/barack-obama-visiting-hiroshima-why-not-pearl-harbor

    >The road to Hiroshima and the massive loss of life in the Pacific was paved by unprovoked Japanese aggression at Pearl Harbor. Americans and their president should remember the lessons of that surprise attack 75 years ago this year.(上の記事の結語)

    上の下品な記事からも明らかな樣に、眞珠灣攻擊七十五周年であるから、米人としてはオバマに眞珠灣を訪れてもらひたいと考へるのが自然です。そこに(七日は外しましたが)安倍總理大臣を連れて來るといふ驚きを用意して答へたのですから、オバマの大衆迎合は大成功したと言へます。

    一方自民黨内と國民には評價せられた岸田大臣の主導したオバマ謝罪なし廣島訪問は、平成二十七年の七十周年すら外してゐます。爾も岸田大臣の地元の廣島は實現しても長崎訪問は實現しませんでした。剩へ、廣島と眞珠灣と交換した形となり米國民主黨に貢獻した形となりました。眞珠灣攻擊をめぐる米國内での論爭を知る者は、民主黨政權時代は眞珠灣原爆に觸るまじきことを識つてゐますが、安倍岸田兩大臣は知らなかつたやうです。

    オバマ謝罪なし廣島訪問は岸田大臣の地元廣島であつたこと、世界遺産登録問題では安倍大臣の地元山口縣萩市が含まれてゐたことが失敗の原因でした。世界遺産登録で西尾先生は岸田大臣を責めて居られましたが、首謀者は加藤康子内閣官房參與であり、彼女を任じたのは安倍總理大臣です。理由は山口縣萩市の存在でせう。

    岸田大臣が外務大臣の資格が無いことは確かです。されど、世間は彼を髙く評價しポスト安倍の有力候補にまで出世しました。誠にうれたきことです。

  2. にぎ様、コメント有難う御座います。日米ともに国内向け(そして選挙区向け!)の政治成果を狙っての広島・真珠湾交互訪問だったというワケですね。政治というのはそういう風に進んでいくものなのだと理解はしているのですが、それによって道義がなおざりにされることは、やはり将来に禍根を残す行為であり罪であると思います。政治成果と歴史的道義を両立させて欲しい!と願わずには居れません。

    少し前までポスト安倍は野田聖子氏と石原伸晃氏と言われていて、お先真っ暗だと頭を抱えていたのですが、両者とも失点続きでその目は無くなりそうな情勢になりホッとしていました...が、それもつかの間、今度は岸田氏が最有力候補...。暗い時代はまだまだ続きそうですねェ。

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