お知らせ

日録管理人です。

現在バージョンアップの作業をしていますが、
思いのほか、時間がかかるようなので、
コメントを書き込めるようにしました。

感想のある方はどしどしコメントをお願いいたします。

「ドイツ・EU・中国」そして日本の孤独(八)

EUの陰に隠れて膨張するドイツと難民問題について、エマニュエル・トッドは著書の最初にヨーロッパの地図を載せています。EU解体を狙っている勢力とか、EUから離れたがっている国々とかを色分けしています。イギリスはユーロに入っていません。イギリスもドイツも苦境に立っていますね。ドイツはフォルクスワーゲンの問題や難民の襲来で二重苦三重苦でしょう。すでに難民の宿舎に火をつけた事件がもう250件くらいはあるのでしょうか。これから激しくなりますね。それでいて、今まで難民反対のデモをやっていたのがピタッと無くなった。難民受け入れについてのいろいろな論議もピタッと無くなった。言論統制というか、言ってはいけないこと、人種差別になると・・・。そういうことがドイツを覆っています。日本が救いなのは、私がこういうことを堂々と言えることですね。私が人種差別だなんていう人はいませんからね。私は日本が「被害者」になるとは言っていないのですよ。日本人が「加害者」になるから止めておけ、と言っているのです。必ず加害者になりますよ。ドイツも加害者になるのです。日本の場合は慰安婦問題からも分かるように、加害者になったら海外にどんな喧伝されるか分からないではありませんか。だからこういう国は警戒に警戒を重ねた方がいいのだと言っているのです。私はズルいから被害者になるなんて言わないで、「加害者になるのですよ、よく気を付けてくださいよ。」と、そこまでしか言わないのです。

「腐肉に群がるハイエナ」ということについて、IMFは人民元のSDRを認めて、中国はそのための口約束をして、その間にAIIBの支払いがあり、その前に人民元で決済をする。上手くいかないのではないか、中国は金が無いのになぜあんなことがやれるのか・・・。見ているうちに、ちゃんと人民元でAIIBで動かし始める。それをイギリスもドイツも期待しているのです。イギリスは先の総額7兆円の契約があり、ドイツは今後東へ伸びて行こうとする場合、北京からベルリンまでの鉄道を充実させて輸送路をつくるなどというド派手なプランにドイツ人は大喜びをしています。ドイツと中国が手を結ぶことに必然性があるのはロシアもなのですが、もともと陸軍国なのです。海軍国イギリスがなぜこれに参加したのか理解できませんが、ドイツ・中国・ロシアは海上のラインを抑えることはできません。海軍国ではないし港を持っていません。中国もロシアも実は太平洋に出て行くことはできません。アメリカと日本が頑張れば絶対にできません。海軍国イギリスがなぜ後押しをしたのかが分からないのです。海軍国・陸軍国というのが昔からあってロシア、中国は陸軍国で、日本もアメリカも海軍国です。第二次世界大戦は海軍国の日本がアメリカと組めていればあんなことは無かったでしょう。それはあのときの失敗ですね。

シティは怪しい闇取引、オフショアの代表で一種の闇金融です。しかしヨーロッパの社債などの5割くらいをシティで発行していますが、タックスヘイヴンの総元締めみたいなところがあります。いっぽうで2008年以来アメリカは必死になってタックスヘイヴンや闇金融を押さえようとしています。ところが2008年の金融ショックで、アメリカがタックスヘイヴンを経由してお金がテロリストに流れるということがはっきり分かったので、それを止める。北朝鮮のタックスヘイヴンも止める。マネーロンダリングを止める。アメリカはスイスの闇金融まで押さえようとしていますね。まだ完全には出来ていませんが。おかげでスイスは国家的危機に陥っています。ところがイギリスはそのタックスヘイヴンを復活させたいわけです。それを中国という闇がタックスヘイヴンを始めたらとんでもないことになりはしませんか。私はそういうことを心配しています。資本主義の大変質が起こるのではないでしょうか。アメリカがそんなバカなことを許すでしょうか。まだ信じられません。本当のことは分からないのですよ。だけれど人によっては、中国をこの制度に入れてやらせると中国も初めてまともな国になるとこういうことを言います。まともにせざるをえなくなり、開放して人民元が下がりはしても、まともな資本主義国家に変質していくステップになるだろうということです。そうされては困るということで、中国共産党内には簡単に入らない方がいいという議論があると聞いています。分かりませんが。議論はそういうところらしいですから皆さんもちょっと調べてみてください。つまり悪いところを考えれば、人民元のタックスヘイヴン化ということ。良いことを考えれば、中国はこれで表街道に引っ張り出されて、オープン化されるのではないか。どちらか分からりません。でも私は前者だと思っています。だからやっちゃいけない。いつも裏切られているではありませんか。

もともと南太平洋のことをイギリスやフランスやドイツはどう考えているのでしょうか。南沙諸島のあの島々のことをイギリスは喜んでいたのですよ。いまでこそアメリカは怒っているということを知っていますが、一時イギリスはあそこの軍事基地を喜んで応援しようとしていたのです。それくらいアジアのことをナメているのです。そういうことを騒ぎ立てるのが遅すぎたわけで、フィリピンは国際提訴したので国際政争が続くことでしょう。日本は南太平洋の人工島の要塞化を恐れているけれど、何れにしてもイギリスもフランスもドイツもあまり気にかけていません。どうでもいいことなのです。それで中国経済が盛り上ればそれでいいと思っています。

中国に恩恵を与えてやれば、お金持ちになれば民主国家になるだろう、というのが多くのひとの願いだったけれど、ぜんぜん逆の方向へ走ったというので、アメリカが怒りだしています。でもそんなことは分りきったことではないですか。あの中国人が唯我独尊になるのは初めからのことで、いつもそうしてきた民族です。嘘ではなく、思ったとおりにやっているのです。期待して恵みを与えれば感謝して「よき国」に変わるだろうという期待をもってやるのだとしたら、アメリカもおかしいですね。裏切られてやっと、というのは何とも知恵の無い話であって、アメリカは本当にやっと今気が付いたのです。アメリカはやっと気が付いているけれど、しかしイギリス・ドイツは気付いていないということです。そしてSDR、金融面での人工島が造られてしまうのではないか。私はそう思うのですが、心配のし過ぎですか。ただ、AIIBについては銀行で、政治的に日本の復興銀行とかと同じようなものでしょうから。でも日本も中国に対抗して13兆円出すとか復興銀行の条件を緩和するでしょう。

私もよく分からず、皆さんと同じように新聞やインターネットを見たりしている一介の素人です。こんな深刻な難しいテーマには入ってゆくべきではないし、入れない立場ですが経済のことは本当に分らないのです。それと政治の未来も分かりませんね。アメリカがリーマンショックで衝撃を受けて、金融を粛正しなければ自分たちが危ない。なぜならそのバブルになった金がテロリストに流れてゆく。それは今後もそうで、それを抑えなければいけない。2008年以降、アメリカの金融がそのような危機感から問題の引締めに入っているわけですね。それでもアメリカには何処かにまだタックスヘイヴン的なものが残っていると聞きました。全部は100%の排除は出来ていない。ですからイギリスのあり方には、多分ドイツもですが、アメリカの一部の指導者は渋い顔をしているだろうと思うのです。特に共和党なんかの。でもそれもよく分かりません。人民元のSDR承認については一時アメリカ議会の承認が必要だとも聞きましたが、共和党がいるので反対はするでしょうけれど、どうもそういう条件は無いらしいですね。IMFの理事会の判断らしいですね。オバマはOKを出しています。オバマっていう人も本当にノータリンですよね。今はもう完全にプーチンに手玉に取られているではないですか。任期はあと1年ですか。誰が大統領になるかで日本の運命が動いたりするというのは厭ですね。この先どういった動向に向かうかは、この年末まで世界のニュースを見守っていてください。

文章化:阿由葉秀峰

「ドイツ・EU・中国」そして日本の孤独(七)

 講演後の対談から(対談者の発言は省きます。)
 
 日本の孤独ということについて、2012年に中国で反日暴動がありましたが、世界は日本に同情をしませんでした。それで中国の味方をする。アメリカもそうでした。全く理解できないのは第二次世界大戦の前にも同じようなことがあって、日本商品はボイコットされた。「日貨排斥」といいます。「か弱いシナ人を邪悪な日本人が虐めている。キリスト教の精神からも許せない。」それが戦前のアメリカの人の大方の心理でした。今だってそうです。そしてアメリカもイギリスもドイツも中国で稼ぐだけ稼いでさっさと立ち去って、日本にだけ政治負担が残る。今回もそんな感じでしょう。これからもそうなるのではないのでしょうか。だから中国に介入しないのが一番賢い。中国から稼ごうと思わないで、他から稼いで出来るだけ中国に介入しない。少なくとも韓国にはそうですね。そのことは気づきましたね。ならば中国にも同じです。一切貿易もしなくていいんじゃないでしょうか。中国と貿易をしないと成り立たないのですか。三橋貴明さんは中国との貿易は必要ないと書いているけれど、どうなんでしょう。

 日本はドイツ帝国と中国で対立するだろうと私は言いましたが、中国とドイツが以上のような関係なので、ドイツは経済的だけではなく技術的にも軍事的にも中国を応援をするでしょう。ドイツの技術を惜しげもなく与えているようですから。日本の技術なんか要らないと中国は豪語しています。

 問題はなによりも軍事技術です。今武器輸出国の1位がアメリカで2位がロシア、3位が中国で4位がドイツという順序です。日本はやりませんから。しかし諸外国は武器輸出をした国のほうが信頼できる国と評価します。新興国や小さな国は輸入品として最新の武器が欲しいのです。いま潜水艦の問題で最終的な結論は聞いていませんが、オーストラリアが日本の潜水艦を欲しいと言っていますが、政府がはっきりしないので日本の三菱重工業も煮え切らない。アメリカの信号システムが入っているからオーストラリアは日本製が欲しいといいます。ヨーロッパ・ドイツのシステムではアメリカのものに整合できないので、システムを整合させたいとオーストラリアは思っているそうです。通信システムとかでしょうか。それにもかかわらず日本のメーカーが積極的ではないということです。日本は不思議な国です。ドイツ・中国一致と日本との対立は軍事的な面ですね。ドイツは表に出てきません。ちょうど蒋介石を応援したゼークトのように、ドイツは後ろで中国を支えることでしょう。でも皆さんは日本が戦争をするわけないと思うことでしょう。

 ドイツが日本憎しになるのは仕方のないことで、フォルクスワーゲンの走行中の検査機械は日本製だったそうですね。これでドイツはまたやられた、と思っているでしょう。でもヨーロッパはそんなバカではありません。中国が為替を変動相場制にしないとか、あの滅茶苦茶な株式マーケットのやり方を知っていながらSDRを推進する理由は、よく分りません。一方で反対している人も沢山いるわけですから、今でも分かりません。またこういう考えもあるかもしれません。SDRを引き受けるのなら、習近平が半年後に履行するなどという口約束ではだめで、これだけのことを実行せよ。そういうことになると中国経済はガタガタになると宮崎正弘さんは言っていますね。人民元が変動相場制を受け容れたら、もの凄い急落をするでしょう。4分の1くらいになるでしょう。それを待ち構えているのは禿鷹ファンドです。上がっても落ちても儲けるのです。だからじっと見ているのではないですか。人民元が轍にはまったら大変だから、中国の国内でも簡単に受けない方がいい、という声もあるようで。だからよく分からないのです。変動相場制になったら人民元が急落することだけは確かなようです。そうなると日本のGDPがまた2位に戻ってしまう。ドル高計算ですからそうなるのではないでしょうか。

 これから10年くらい中国経済はダメでしょうけれど、20年後はわかりませんね。皆さんも何かで読んでご存知でしょうけれど、中国は今の政治体制では続かないでしょう。つまり7つくらいに軍閥(今は軍管区というが)ごとに国が割れてしまうのではないでしょうか。そう言う人もいます。軍管区が7つありますね。あるいは連邦スタイルになるとか、チベットとウイグルが独立するとか、台湾もそれを望んでいるでしょうし。そうなればまともな国になるかもしれません。だいたい中国はヨーロッパみたいに各地で文化も言葉も違う地帯ですから一つになっているのがおかしいのです。ヨーロッパがバラバラなように、もともとバラバラな国なのです。中国はたくさんの地方、地域、国々があって、字を読まなければ意思伝達ができない。毛沢東が大演説をしても地方から来た議員たちは何を言っているか分からなかったそうで、そのうちにペーパーが回ってきて読んでわかるということです。ですから漢字だけが唯一の伝達手段で、発音も文法も違うのです。それは黄文雄さんも言っていますね。しかし最近は北京語が普及してきているということです。一概には言えませんが、それでも文化はバラバラです。ちょうどアイルランドやポーランドが英語を使わなければ理解できないとかそういう様なことで、インドはもっとすごいので唯一の公用語が英語にならざるを得ない。日本は珍しいのです。タクシーの運転手も日本語が通じます。最近はスポーツ選手に日本国籍の黒人が入ってきて驚きましたね。

 日本はすでに移民国家です。だから「移民国家宣言」をしたらいいのですよ。日本は移民を受け入れていないということはなく、すでに100万人くらいは受け入れているでしょう。でも宣言なんかしたら「入れてくれるんだ!」ということになって・・・。言わない方がいいのかもしれません。政治難民、迫害されている難民の受け入れについても、ある程度入れているのでしょうけれど、今はかなり少数でしょう。外国人を入れるということは「外国に依存」することになります。大相撲がはっきりした例ですね。私は制限をしたほうがいいと思います。どこそこ国からは何人とか。

 日本が他国の移民政策の失敗に学べずに政策を進めていることについて、まだ実施していないと思うけれど、安倍さんは怪しいですね。「特区」というかたちで神戸のほうで外国人の女中さんを受け入れるというのが始まるでしょう。何人受け入れるか知りませんが、やめた方がいいと思います。というのも東南アジアの若い女性を家事労働者として迎え入れて、代わりに主婦がライフスタイルを変えて外で働けるために、ということらしいけれど、そんなことをしたら子供たちは日本語を話せなくなりますよ。もう一つ大事なことは、他の国は外国人を搾取することに慣れていて、使用人は使用人として区別して暮らせるけれど、日本人はそれが出来ないから「○○ちゃん、一緒にご飯を食べましょうよ。」となるに決まっています。そんなけじめの無いことをやっていたらいつか逆転します。中国人を非常に大事にした老夫婦が殺害されているではありませんか。そんな目立つ事件がすでにいくつもありましたよね。ですから慣れていないのです。パリは道路の清掃はチェニジア人などの黒人で、不動産屋はベトナム人、花屋さんはイタリア人で、なんていうことになっているらしいのですが、そしてアパートの受付はスペイン人で持ち主はフランス人だとか。そいうことを平然と何百年とやっていますから、パリは人種差別都市なのです。だから「外国人お断り」という張り紙をしたら人種差別撤廃法に引っかかったのです。日本は迂闊でそんな背景が無いから、すぐに「人種差別をしている国」というレッテルを貼られます。差別が固定化して当たり前になっている社会とはいろんなことが違うのです。今度のフランスの事件は驚くべきことでしたが、今後も続くことでしょう。ベルギーにもパリにもそういう人が住む町がありますね。アラビア特区のような所が。東京にも大久保とか北池袋とかがありますよね。そういう地域は自然と出来るのです。排他的で警察も容易に立ち入れないということです。今日はあまり移民の話をするつもりはなかったのですが。もうこれだけ世界で広がればどうでしょう。それでも日本には無理でしょうか。これだけ世界の教訓を見ていたら学ぶのではないでしょうか。

 介護領域の雇用に外国人を使うことがいけないのは、そういうことではなく、それよりも介護要員の給料を上げるべきということなのです。つまり移民を入れればその職種の賃金はさらに下がるということを意味するのです。だから怪しからんのです。それは雇い主の側だけが利益を上げることになります。だからこそ賃金を上げることが絶対に必要なのです。スーパーマーケットだって外国人を雇ってはいけないということにすれば、アルバイト店員の給料も上げることになるのです。一時そういうことがあったではありませんか、人が来てくれないから、ということでどんどん上がったと。それは労働者にとって幸せなことではありませんか。外国人を入れると経済的減速がおこり自由競争ではなくなり、どの職種でも日本の労働者が不当な扱いを受けることになってゆくのです。

 では高等人材だったら良いだろうということですが、これもまたとんでもないことで、今6年制一貫校、麻布とか開成とかにドドッと中国人が入っているようですよ。それで彼らが東大に入って官僚機構に入っていくのですよ。恐ろしいことです。一方でそれはたいしたことは無い、例えば大昔に大化の改新のころに帰化人とかあったじゃないかとか。それは意味が全然違います。中国人やイスラム系民族大移動の時代という現代現象と古代の話は違うのです。それから石原慎太郎は昔から何かというと外国人を入れろと言い、日本人は宗教的にも懐が深いので、どんな人がどれだけ入ってきたって、いつか抱え込んでしまうから大丈夫なので、ケチなことを言っちゃいけないなどと書いています。これは知らないのですよ、あの人は。日本の文化は確かに包容力があり、いろいろ巻き込む力をもっているのですが、ある特定のものは置き去りにしてゆくのです。仲間に入れないのです。人種的にも民族的にも置き去りにしてゆきます。まずキリスト教がそうです。キリスト教は受け容れていないのです。つまり置き去りにされていくわけです。韓国儒教も受け容れないでしょう。日本の文化体系の中に入っていません。つまりこの国は「原理主義」は受け容れないのです。だから意外と拒絶的なのです。包容力があるなどというのは古代と現代を勘違していて・・・。変なことを言う人です。保守に非ざる考えですね。

(まとめ 阿由葉秀峰)

つづく

「ドイツ・EU・中国」そして日本の孤独(六)

 ここにきてドイツは、移民が入ってきて更にとんでもないことになるのではないでしょうか。良いことは絶対に起こりません。それでも私はドイツを根源的に信じているところがあって、それは何かというと、ナチスがあったためにメルケルさんがあんなセンチメンタルなことを言い出して大変なことになっているわけですけれど、ドイツはEUの陰に隠れて、ナチスのために「ドイツ・ドイツ!」と言えないのです。やってはダメだから。ドイツ主義を隠して、「EU・EU!」と言っているうちに自分が大きくなって、EUの陰に隠れて自民族の拡大を図ったのではないか。あるいは図ろうとしているのではないかと。「膨張するドイツ」とはそういうことで、「仮面としてのEU・正体はドイツ」そういうことがあるのではないでしょうか。同時にユーロが無くなることをドイツは、ドイツの企業家は最大限に恐れています。

 フランスの知識人エマニュエル・トッドはユーロを無くしたいと思っていて、ギリシャもそうなのですが、フランスはドイツ産業にすっかりやられているわけです。フランスもイタリアもドイツほどの力を出せないのです。そのためユーロから外れてそれぞれ元の通貨に戻ると一時は経済が下がりますが、しかし「平価切下げ」を行うことができるわけです。切り下げると今度は独自に展開を遂げますから、マルクに支配されないでフランスは競争力をとり戻すことができるかもしれません。フランスには独自の産業の力があるのに、マルクに思うままにされていたらダメだから、フランの復活ということです。それは国民戦線党首のル・ペンが言っています。フランを復活させようと。そうすれば平価切り下げをして。ギリシャもそうです。ドラクマに戻れば最初は大変でしょうけれど、ギリシャは黙っていても観光収入があるから、それを柱にします。国際通貨としては安いドラクマです。しかし安いから人は行く。ユーロは高いから行かなくなってしまうのです。他にもそういうことは沢山あります。私はイタリアに昔よく行きましたが、安かったからよかったのに、ローマの空港に行ったって今は高いですよね。ユーロになったら昔だったら考えられないくらい小さなパンが千円もするとか。平価切り下げをすれば競争力を持つわけですね。それがEUの失敗であり、矛盾であると私は思います。だからEUはいつか無くなるだろうと言っているわけです。

 各国の主権の回復、EU議会の権限の制限をやる。そういうことで意見が一致して、イギリスもドイツもそう言っているわけです。しかしドイツはユーロが無くなったら、各国が独立したら、ドイツの一人勝ちができなくなります。今のドイツはこの構造に守られて、ドイツの産業界だけ儲かっています。そうではないですか。日本が円高で苦しんでいるときユーロがどんどん安くなって、競争力を高めた。韓国もウォンがどんどん安くなって貿易の競争力で日本に立ち勝りましたね。あの時期ドイツと韓国は輸出立国で稼ぎに稼ぎまくりました。今日本は円安になったのでようやく競争力を回復するようになったけれど、長い間円高で苦しんだ私たちは、EUを犠牲にしたひとり勝ちのドイツのことを変だと思って見ていました。長い間ドイツは儲けるだけ儲けたのですから、いってみればドイツの力がEUにヒビを入れたと言っても良いでしょう。それは先ほど言ったように、地方が衰え東京ばかりに富が集中するというのと同じように、ヨーロッパは北にだけ偏って富が集中するから、これは解体するか、帝国ドイツが本当に出現して一国が全ヨーロッパに富を分配する、というふうになるかどちらかであるべきなのですが、難しいですね。

 ドイツが中国と組んでいるのは現実ですが、ドイツと中国の間の「二国間政府サミット」というのがあるらしいのです。それくらいドイツは中国に入れ込んでいるし、中国人はドイツ人にペコペコに頭を下げます。川口マーンさんに聞いてびっくりしたのは、ドイツは鉄道の全車輌を中国から入れることにしたというのです。それまではジーメンスだったのですが。イギリスは日本から入れます。日立がもうイギリスに送り込んでいるようですが、最近のイギリスとドイツの関係を考えると、これも将来わかりません。「中国の車輌に命を預けていいの?脱線して土に埋められちゃうよ。あれはニュースにならなかったの?」と聞いたら「ニュースにならなかった。」というのです。中国の悪いことはドイツで報道されないそうです。もちろん専門家の間では知られていますが、皆が見る時間帯のニュースにはならなかったそうです。あんな大きな事故がテレビの画像に出てこなかったのです。それから中国の株を政府が止めたことも報道されなかったというのです。つまりドイツも中国に対してなにか意図的なのです。中国も日本の悪口を言うためにドイツを利用するし、もちろんこの紛争の問題では「日本はドイツのようになれ」とうるさいことを言ってきます。(註・2015年末ごろから2016年にかけてドイツのメディアは様子が変わり、厳しい中国報道を少しづつするようになった。)

 孔子学院をご存知でしょう。これは中国共産党のイデオロギーを教える学校ですが、これがもうカナダとアメリカでは追い払われています。その理由はカナダやアメリカに逃げた中国人が共産党から逃れて来たのに、ここに来てまでこんな教育を受けるのは厭だ、と言ったそうです。ところがヨーロッパではドイツの国立大学の中に入り始めていて、ドイツのある学者は「中国の民主主義は他の国が及ばないほど立派である。」と讃えています。この姿は第一次世界大戦の戦間期のドイツとシナの関係によく似ています。

 ハンス・フォン・ゼークトをご存知でしょうか。蒋介石を応援したドイツの将軍です。ドイツは第一次世界大戦のあと、戦争放棄する形をとりますが、密かに武装を続けていてシナにも潜り込んで蒋介石を応援します。蒋介石は長い間日本を苦しめます。1937年に第二次上海事変があり、日本は大変な苦労をして、将兵4万人くらい失っていますが、そのときゼークトが指導して作らせたトーチカでやられるのです。それは1936年の日独防共協定の後なのです。「頭は左で財布は右」という言葉があるそうですが、蒋介石とドイツが繋がった一つの理由としてタングステンがあり、比重が大きく硬度が高いため軍事上としても貴重な金属です。ドイツが産出量の多いシナからタングステンを手に入れるということがひじょうに大きな動機のひとつと聞いています。それは戦間期の歴史にありますが、日本の歴史教科書には出てきません。日本の歴史教科書は話になりませんね。つまりドイツは歴史的に日本に対して非常に悪質な国なのです。やっぱり私はドイツ文学をやらなきゃよかったと・・・。

 最近のドイツはイスラエルに反発するようになりました。今までそんなことは考えられませんでした。メルケルはイスラエルで「ドイツ語」で演説しました。イスラエルは「イスラエルの地でドイツ語を使うとは何事か」と反発しましたが、これはイスラエルもおかしいですね。だからメルケルは堂々とドイツ語で演説をしました。これは評価できます。つまりユダヤ人も戦後いい気になってやり過ぎたのです。ユダヤ人がそんなことをしてドイツ人を虐めていると必ず報復される、というかまたユダヤ人殺戮が起こります。そんなことは無いと皆さんお思いでしょうけれど100年、200年後には分かりませんよ。日本と韓国だって分かりません。100年、200年後には「征韓論」を言い出すかもしれませんよ。「西郷隆盛に続け」とばかりに。歴史は分からないのです。

 中国のAIIBにイギリスが真っ先に参加すると言いましたね。私は「腐肉に群がるハイエナ」という題で論文を書きました。というのは中国はいま金が無いのですから、他国の金を当てにして自転車操業しながら過剰生産設備投資をやり過ぎていて、鉄鋼でも何でも、労働力も余り過ぎてどこかで使わなければならない。それを他人の金でやろうとしている。AIIBとはそういうことです。何で日本がそんなものに参加する必要があるのでしょう。他国の金で自国の欲望を果たそうとしている、なぜイギリスやドイツはそれが見抜けないのか。見抜いているはずです。アメリカからも私たちよりもっとたくさんの情報が入っているでしょう。見抜いても中国が潰れるまでしゃぶりぬけということか。潰れたって知ったことではない、儲けるだけ儲けよう。多分そうでしょう。習近平も同じでしょう。自分が少しでも延命するためには国民がどうなったって構わない。未来がどうなったって構わない。どんどん火ダルマのように積み上げて自転車操業すればいい。そういう悪魔同士が握手をしているということです。それがEUと中国との結びつきです。私たちはそれを呆然と見送っているばかりですが、アメリカは多少は気がついていることでしょう。中国が大きくなることはアメリカの利益に反しますから。しかしアメリカとイギリスは兄弟国だったはずです。最近ではイギリスはアメリカの意向に完全に逆らっています。でもよく考えてみると、シティとウォール街は決して別人格ではなく繋がっているのですから、お互い照らし合っていることでしょう。それがどうなのかは言えません。分かりません。分かっている人は日本にはいませんよ。私たちは歴史と時間の推移をじっと見守って正体はどこにあるのか。でも今日はどっちか分からないところにあると最初に申しましたね。サイコロを転がさなければわからない。最後はシティとウォール街が何を考えているのか分からないので何も言えないというのが正直な答えですが、もう一か月くらいでいろいろなことが分かってきますから、見つめ続けることにしましょう。どうもありがとうございました。

(まとめ 阿由葉秀峰)

つづく

「ドイツ・EU・中国」そして日本の孤独(五)

 先に中国の話を少ししましたが、昔から欧米がいつも注目するのはアジアではシナです。日本ではありません。ペリーが来航したころ、蒸気船は存在せず帆船でした。ロンドンから、またはニューヨークからアフリカ南端の喜望峰を廻って上海に行く二つの航路がありました。面白いことにニューヨークからの方が近いのです。1810年代の早い時期アメリカの対支貿易はイギリスを凌駕していたのです。スエズ運河が出来たのは明治維新の頃、1869年でした。その頃蒸気船が出来、イギリスが圧倒して、アメリカはパナマ運河の開発を考えるようになります。パナマ運河を開発しなければイギリスとのシナ貿易に敗れるからです。英米はたえず張り合っていました。貿易のターゲットは常にシナ大陸なのです。シナ大陸が富をもたらしてくれるのが幻想か実体かは分かりませんが、シナ大陸との貿易競争で英米は争っていたのです。

 大東亜戦争にも関係があり、おそらく日本もそのせいでやられたのだと思います。英米が対立しあってシナとの貿易、利権を奪い合うという事態が19世紀以降戦前の大きな特徴です。その頃シナの人口は4億くらいだったと思いますが、広大な土地とおそらく巨大な資源が眠るに違いないと思い込む世界の妄念があり、今でもそう思い込むふうがあり、人々は「シナ幻想」に踊っています。ペリーが来航してきたときはまだ太平洋航路が無かったので、喜望峰を廻って上海、沖縄を経由して日本に来ました。そこでペリーは何としても太平洋航路を作らなければいけないと海軍省に手紙を出します。シナへの中継地として日本が必要であると。そして小笠原諸島を狙います。このようにシナが本命で、日本は二次的なのです。ターゲットではありません。ターゲットはシナなのです。中継地としての日本が重要だったのです。ナメた話ですよね。でもその力学がずっと働いていて、「シナ幻想」が世界を覆っているからこそ、今でもシナに「大甘」なのです。白人は習近平のような男が居座っているのが異常だと思わないのです。

 もうひとつ別の味方をしてみます。現代はアメリカが日本と一緒になって中国にアヘン戦争を仕掛けていると思っています。アヘン戦争というのは、19世紀に銀の欠乏で茶の支払いに苦しんでいたイギリスがインドでアヘンを作らせ、清にアヘンを持ち込んだことに由来します。21世紀のアヘンは中国人にとって近代生活の富なのです。想像もつかないスピードで中国人は浮かれ出したではありませんか。アヘンに溺れたのとよく似ています。これはあっという間ですよ。おぼえているでしょう。2000年初めころ、中国は全然大したことはありませんでした。鄧小平が「南巡講話」を出したのは1992年ですから、それから10年くらいはまだ貧しい穏和しい国でしたが突然浮かれ出した。日本とアメリカの投資でどんどん膨れ上がったからです。それを「自分の力」と錯覚してどんどん借財を作って、自転車操業を繰り返すことによって力を経済的にも高めることだけに注ぎ架空の力でここまで来ているのではないでしょうか。浮かれ出した今の大陸の動きは、アヘン戦争でアヘンに溺れたシナ人を彷彿とさせます。アヘンを買い続けたシナは次には支払うべき銀が足りなくなり、どんどん国外へ銀が流出し、経済破綻します。今の中国がそれです。ドルがどんどん流出して止めようがないではありませんか。

 1990年代、アメリカは日本の経済で敗れたころ、1992年に日米構造協議で日本の社長や経営者の財布の中身にまで干渉してきました。小売店を潰して全部大型店舗にしろとかいわれて、法を変えて全部大型店舗になってしまいましたね。勝手に経営の仕方や経済構造にまで散々に突っ込んだのが日米構造協議です。それは日本を潰せということで、一斉にいろいろやるわけですが、それはアメリカの焦りでした。アメリカはメキシコなどいろいろな国で工場展開をしましたが、なかなかうまくいきませんでした。そこで中国大陸の豊富な労働力と広い土地に出会い、鄧小平は税の優遇措置として積極的に外資を導入しようとした。つまり中国の政策の魔力にアメリカは囚われてしまったのです。そして中国はまるで尻に火が点いたように走り出すのです。ちょうどれから10年から15年、その急激な変化というのは驚くべき速さです。驚くべき速さですが、これは昔のシナと非常によく似ているのです。

 19世紀の初めごろ、イギリスも貿易赤字で苦しんでいて、清から絹・茶・陶磁器・木綿などを買っていましたが、それに見合うイギリスからの輸出品は毛織物とか時計とか玩具の類で、そんなものではとても清から物産を輸入できない。そこで当時の国際通貨が銀だったので、それを利用しようと。ただしロンドンから銀を運んだのではありません。植民地インドから清へ銀が支払われました。しかしインドにもそんなに銀があるわけではないので、イギリスはインドに綿織物を運んでそれを売って得た銀をつかって清からお茶を買い入れました。大量にお茶を買いたいけれど銀が足りない。そこでイギリス人が考えたのはインド産のアヘンです。インドでアヘンを作らせてそれを銀に変えた。清にアヘンがもたらされると、アヘンを吸引する風習は忽ち心を捕えて、しかもイギリスは銀の決済をしなくてもアヘンを持って来ればお茶が買えるということで、これが悪名高い三角貿易で、問題が起こるのはそれからあとです。

 清はアヘンを吸う人が増えてしまい、アヘンが欲しいのですがお茶では支払いきれなくなります。ちょうど今の中国が近代市民生活に憧れて「爆買い」するように、アヘンをどんどん買います。そのため清にあった銀の保有量がどん減ってしまいます。銀が急速に外に流れだしたのです。そのことで戦争にもなり、清が倒される要因です。つまり簡単に言えば、中国から急速に資本が流れ出しているのです。困り果てているのです。今は清から銀が流出している時期にあたっています。これまではアヘンではなくて紙幣を国内でどんどん刷っていたわけですけれど、今度は国外へ放出しなければ維持できなくなってきている。アメリカや日本は今中国にアヘンを売っているわけではありません。しかし閉鎖的で貧しかった中国13億の民に近代生活の富の味を教えた。かくて中国は毒を食らわば皿までと、今や金持ちになることに無我夢中になっているといことで、その無理がここで祟ってきて、今度は急速に富が外に流出するという事態になっているということで「アヘン戦争・一幕」ということで、歴史は繰り返されるなぁ、と思っております。ペリー来航のときもアメリカが狙っていたのはシナ大陸であって日本ではなかった。アヘン戦争においても全く同じことが行われたと思います。つまり歴史は不思議なことに同じことを繰り返すものだと私は思います。

 もうひとつ別のことをお話しします。イスラム教とキリスト教の宗教戦争が続いているということです。日本はどちらの宗教にも関係ないのですから口出しをしてはいけません。下手なことを言うのはバカな話です。イスラムはオスマン帝国が18世紀の末まで大帝国を築いていて、大体19世紀の前半くらいまでヨーロッパはオスマン帝国に力においてだけでなく文化においても頭が上がらなかったのです。

 多くの人がそれを忘れているのは、日本での歴史教育が西洋の優位ということで全て理解されていて、明治の多くの思想家というと福沢諭吉も岡倉天心も中江兆民も内村鑑三も頭が欧米なのです。つまり明治維新以降、日本の歴史の中にイスラムは入ってこなかった。現実はその直前までイスラムが世界を支配していたのです。イスラムはアフリカの西からインドネシアの端までずうっとイスラム帝国が続いていて、それが逆転されたのが18世紀から19世紀ですから、その恨み骨髄に徹しているのが今のイスラム教なので、絶対にキリスト教徒を許していないのです。キリスト教徒が敵なのです。だから今起こっているのはそういう流れの下にある戦争です。

 イスラム諸国のイスラム教徒は決してテロリストではないとテレビで言いますね。それはその通りでしょう。ですがどこからお金が出ているのでしょうか。イスラム系の大商人から膨大なお金が裏から流れているに決まっています。それはやはりイスラム諸国です。つまり積年の恨み、イギリス・フランス・ロシア・ベルギー。皆宿年の大敵なのです。だから私たちは黙って見ていたらいいのです。下手に手を出しても何の意味もない。安倍さんは少し喋り過ぎではないでしょうか。私は口先でも言わない方がいいと思っています。

 もうひとつ付け加えると、イスラムは長年主役であったのが18世紀の終わりに逆転してしまって西洋に地位を奪われたのと同じように、シナは長年覇者と信じていたのに19世紀になって日本に逆転されてしまいました。イスラムと西洋のこの関係は中国と日本の関係とパラレルです。つまり今日の中国のあれほどの政治的な恩情は昨日今日の話ではないのですね。このことを西洋人に理解させるにはイスラム教とキリスト教を使って、日本と中国という運命を説明することが必要であると私は思います。そうすれば、ずっとずっと分かりやすくなると思いますが、日本の外務官僚にはそういう発想が全くない。

 またキリスト教の歴史をみていると酷いもので、例えば「ジハード」という言葉がありますね。あれをまるでイスラム教徒の大聖戦、一方的な攻撃戦のように言いますが、剣を振りかざして虐殺したのはキリスト教徒で、それを全部イスラム教徒に擦り付けたのですよ。ちょうど南京虐殺を日本人がやったように中国人が擦り付けるのと同じように。世界は、世界中でそういうことがやられているのです。ところが日本はそういうことをされても「ヘヘヘッ」と笑っているだけで、どうなるのかと心配に思います。

 中国は自己中心の国で思い込みが激しく閉ざされた地域です。もともとシナは鎖国文化圏なのですね。外と交わらず、自分が全ての中心だと思っている。明朝の時代、マテオ・リッチというイエズス会宣教師が、地球は丸いことを示す大きな地図「坤輿万国全図(こんよばんこくぜんず)」を初めてシナにもたらしました。それは日本にも伝わり、江戸の日本が地球は丸いということを知ったのは、リッチのこの一枚の大きな地図から始まるのですが、マテオ・リッチはシナの知識人に逆らわないようにするため、地図の真ん中にシナ大陸を置いて、つまりヨーロッパ中心ではない地図を見せたのです。そうしたら日本列島が真ん中に来るわけです。太平洋が右側で中国大陸が左半分にあるのです。それを見たシナの知識人の多くは、地球の4分の3が自分たちのものと思っていたからこんな地図は間違いだ、と言って聞き入れませんでした。しかし日本人は誰もそんなことを言う人はいませんでした。そういう意味で日本人は謙虚で外から届けられる知識については非常に慎ましく対応して自分を無にする心があると思います。これは他のアジア諸国、中国や韓半島とはまるきり違うところでしょう。

 韓国人は中国人以上に自分が絶対です。自分のイデオロギーから抜け出ることが出来ないのですから。朴槿恵大統領は本気で言っているのですよ。ああいう歴史観を子供のときから習っていて「正しい歴史観」を日本人は信じなければいけない、「正しい歴史観」に日本人を変えなければいけないと本気で信じています。「正しい歴史観」というのは、あくまで「韓国は偉い」という歴史観です。それに全部従えと言っているだけですから、きりがない話で、相手にしてもしょうがないのです。最近の韓国国民は、朴槿恵大統領は外交で一番成功を収めている政治家だと信じているそうです。アンケートをとるとそうなるのだそうです。

 ところで日本はなぜ仏教なのでしょうか。神道と仏教ですね。儒教ではないですよ。神仏儒といいますが、儒教は日本の宗教心に入っていないと思います。祖先崇拝という点では関係あります。儒教は道徳として日本に影響を与えましたが、ご承知のように儒教は皇帝制度と科挙のシステムに切り離せないほど繋がっています。韓国は儒教なのです。朱子学のイデオロギーであのようになってしまいます。日本は儒教を本格的には受け容れませんでした。天皇をずっと頂いていますし、王様が二人居続けられた国なので、それは世界に理解されなかったけれど、それはバランスをとる上で良かったのです。つまり遠いところにある無限の神・仏様と、生き神様である天皇と、超越神と現身の神、この二神を頂くことで心のバランスがとれたということです。儒教ではなく外来信仰として仏教を受け入れた背景です。この仏教は本格的に日本に入っていて日本の宗教心理の根底を形作りました。神道は超越神を持ちませんが仏教はそれを与えてくれて、二神を頂くことをもって日本人はバランスをとってきたのです。

 日本人はなぜ仏教には抵抗が無かったのか、ということを考えたことがおありでしょうか。神道に抵抗が無いのは分かりますが、日本人は仏教をほかの外来宗教と違って受け入れました。それ以外の宗教は全く受け入れていません。韓国儒教もユダヤ教もキリスト教もヒンズー教も日本人は受け入れません。しかし仏教は受け入れました。しかも日本仏教は久しく発展し独自の展開を遂げました。なぜか深いところにフィットしたのです。なぜかというと、それぞれの宗教は皆後ろに政治文化を抱えているのです。例えば儒教は皇帝制度と科挙のシステムを抱えている。ヒンズー教も同様でインドの社会風俗や生活を抱えています。ユダヤ教やキリスト教もそうですね。しかし仏教は面白いことにインドの地で徹底的な展開を遂げました。形而上的な理論展開を遂げたのは8世紀の密教に至るまでインドの地で発展を遂げますが、そこで忽然と消えてしまうのです。つまり本当に消えてしまいます。あるイギリスの植民地主義者がインドに渡ってきて大きな立派なお堂があって、それはブディズムの伽藍だと聞いているが、僧侶一人いないし仏像もないし経典もない。忽然と消えたのです。それでは仏教が消えたのかといえばそうではありません。チベット仏教・ネパール仏教・中国仏教・日本仏教、南にいけばタイなどの南伝仏教。そういう風に外に展開したのです。キリスト教はどうかというと、キリスト教はイスラエルの地ではいっさいいかなる理論展開もしないで、何をしたかというと、ローマとヴィザンチンで初めて展開しました。西ローマ帝国・東ローマ帝国。そうやって仏教と違って他の地域に移っていって、はじめて形而上的・理論的・学問的展開を遂げました。それに比べると仏教は、後ろに何も政治文化がついていないので日本人に受け入れやすかった。しかしキリスト教はそうではなかった。巨大な哲学体系が後ろに控えていて、そしてそれを強制する。日本人はそれを受け入れることには抵抗がありました。

 日本人は、がらんどうの様な何もないものが好きだったのではなでしょうか。そうとしか思えないのです。政治文化を強制されない。あるいは哲学的理念を強いてこない。ひたすらそういう世界に憧れと、西方浄土への憧れ、それは平安末期辺りから強くなりますが、日本人の心をずっと掴まえていて、いまでも何か事があると、遠い国で起こった出来事を日本人は尊敬するのです。素晴らしいものは外国にあると、明治以来長い間西洋を鑑としたのは「西方浄土」だったのですよ。だから西ヨーロッパ文明の現実を見ていなかったのではないか。だからイスラムも見ていなかったのです。現実は見ていなかったけれども西方浄土をひたすら憧れるように、西洋文化をひたすら学んだ。そして夢を育てて自分の所でそれを移植して自分なりの西洋文化を作ってここまで来た。本当にそう思いますよ。

 日本では必ずどこかで西洋絵画展ってやっているでしょう。ついこの間までモネ展をやっていましたね。スイスのホドラー展もやっていましたね。こんなことをやる国はアジアで他にありませんよ。どこかで必ずいろんな西洋絵画展をやっています。コンサートも盛んです。最近ドイツ人は全くモーツァルトやベートーヴェンを聴かないといいます。そんなもの要るのか、という話らしいのです。オーケストラはほとんど外国人だそうで、10人中8人から9人は外国人、必ずしも日本や韓国人というわけではなく、アメリカ人とか他の国々。ドイツ人の音楽家がいない。文学も教育も衰滅です。音楽も衰滅。哲学もダメ。ドイツの限界というかアイデンティティーの喪失ということですね。中国と一緒になって浮かれて金儲けばかり。こういうドイツの国の文学なんてやったのは大失敗だった・・・。

 (まとめ 阿由葉秀峰)

つづく

1月29日付記事へのコメント

現在コメント欄が使えないため、
西尾幹二先生からのコメントを、この場所に記載します。

 米国が日本経済に依存していたし、今も依存しているのが事柄の前提であることを忘れてはなりません。1971年のニクソンショックでドルの無制限垂れ流しが決まったことと、日米経済同盟が世界のGDPの40%を占めたことがヨーロッパを恐怖させ、EU結成へと歯車を回した。

 EUは結成当初はドイツが中心ではなかった。フランスがドイツを巻き込んだ。今でこそ「ドイツ帝国」などといわれるが、最近のユーロ安がドイツの輸出を有利にした結果にすぎない。

 ドイツがEUを作ってアメリカの攻撃から逃げたのではなく、もともとドイツは対米依存度が日本より小さく、EU圏内国家への依存度が大きかった。他方日本は近隣アジア諸国に購買力のない時代にアメリカがマーケットを開いて、対米依存によって戦後の繁栄を築いだ。こうした前提の相違を忘れてはなりません。

コメント by 西尾幹二

日録バージョンアップとコメント一時停止のお知らせ

いつも西尾幹二のインターネット日録をご覧いただきありがとうございます。
自分は日録の管理の技術的なお手伝いをしております高木薫と申します。
このたび当日録のプログラムをバージョンアップする事になりました。
作業には数日を要する見込みでして、近日に新しいデザインでお目にかけられると思います。
つきましては作業完了まで皆様からのコメント投稿を一時停止させてください。
また日録全体が工事中と表示されることもあるかと思います。
皆様にはご迷惑をおかけして恐縮ですが、よろしくお願い申し上げます。

「ドイツ・EU・中国」そして日本の孤独(四)

 EUが一つの国家にどうしてもなれなかったのは、EUという軍事態勢が作れなかった、或いはアメリカが作らせなかったからです。アメリカはベルリンの壁が崩壊した後もNATOを手放さなかった。各国がアメリカからの防衛に期待して、アメリカから突き放されるのを恐れてNATOを守ったという一面もある。そのため結局EU、つまりヨーロッパの軍隊は生まれず、湾岸戦争が起こりましたが、あれはドルとユーロの戦いで、アメリカがたとえ戦争をしてでも基軸通貨を守るという強い意志に結局EUが屈服して、それ以降のEUは弱含みとなり、統合体としてのEUはガタガタになります。つまり統一軍事力を持たない地域は国際基軸通貨になることは出来ないということです。そのいい例が日本の円ですね。一方で中国の人民元はこれから怖いということが言えるのです。

 フランスのユダヤ系知識人、エマニュエル・トッドという人の『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』(文春新書)に面白いことがたくさん書いてありまして、それに刺激を受けて、ドイツ在住の川口マーン恵美さんと『膨張するドイツの衝撃』(ビジネス社)という対談本を出しました。皆さんはドイツはガタガタになり、今のEUの行き詰まっている原因は何であるとお考えでしょうか。こんな風に考えたことはありませんか。たとえば鳥取県と島根県を選挙区を一つにしました。もう一つは高知県と徳島県でしたか。ありありと地方の減退が日本を襲っていますね。そして地方が弱くなっては困るからと国は地方交付税を当然のこととして出しています。また、徒に東京に富が集中することはおかしい、ということに東京に住んでいる人も思っていることでしょう。

 同じことがヨーロッパ全体で起こっているのです。南欧ではもうお金になる仕事がないのです。だからイタリア人・スペイン人・ポルトガル人・ギリシャ人の、何か能力のある人・会計士・弁護士・音楽家とかは、みんなドイツや北欧に行ってしまうのです。そしてその人たちの富はドイツや北欧の金庫に入るのです。南欧には失業者と老人が残り、あるいは公務員だけが豊かになる。同じことは日本にも起こっていると思いませんか。地方に行くと老人と失業者と子供、そして公務員だけは安定している。このねじれがヨーロッパ全体で起こっていると考えてみてください。それがヨーロッパの南北格差、つまりギリシャ問題の根源なのです。だとしたらドイツがやることは一つです。EUを救うためにはドイツが「東京都」になることですね。つまり都が地方にお金を還流するする必要があるでしょうし、ドイツが国家全体の統合者になるのでなければ筋が通りません。だから各国がドイツにそれを求めてここまで来ていますが、国家は別々でそれぞれのエゴイズムもあるのだから、これでは堪らないとドイツ国民は考えます。たとえばギリシャ人の生活費や育児費だとかの経費を混ぜてドイツが持たなければいけないのかという。ギリシャ市民の異常に高い年金をなぜドイツ市民が背負わなければいけないかという。これが今のEUの姿なのですね。

 ですから論理的には二つしか道は無いわけです。一つはドイツが徹底的に自己責任でEUを一つの国家にして、ドイツを事実上の首都として地方交付税のようにお金を出す。もう一つは結局エゴイズムがぶつかり合い、国家主権をいう人が出てきてEUはまとまらない。最後にはEUの解体です。さてどちらに行くでしょうか。私は後者だと思っています。しかし時間がかかるだろうと思っています。10年や20年かかるでしょうけれど、EUは解体せざるを得ない運命でしょう。つまり人はエゴイズムを手放さないものなのです。勝者は弱者に対して配慮をしないものです。日本だったら一つの国家なのでそういう現実にもっと地方にお金を回すべきことに道理があるわけですが、そう簡単にいけないのがヨーロッパの現実かと思います。そういうことがまたドイツを有利にして膨張させた所以です。

 ドイツはEUができた当初、低姿勢でフランスの言いなりでした。当時ドイツは実に臆病で、例えばEUの議会で語られる言葉にドイツ語が入っていませんでした。英語かフランス語でした。ドイツにすればそれは屈辱ですが我慢しました。金融的にはドイツ優位で始まりました。だからドイツの、そしてマルクの忍耐です。それがどんどん変わりはじめます。東ヨーロッパからたくさんの安い労働者が入ってきて、彼らに農業までさせはじめるのです。その農産物をフランスやイタリアに輸出するのです。これでは農業国であるフランスやイタリアは堪ったものではありません。それなのにフランス、イタリアを奪うような勢いでドイツが安い労働力を使って南の国々に農産物を売る。そこまでやるのかドイツは、ということでこの間フランス国境で警察の阻止を無視してフランスの農民が道路を封鎖しました。フランス政府はそれを知らん顔しています。何か下手なことを言うと大騒ぎになるからでしょう。そういう騒ぎがあるくらい、ぶつかり合いが激しくなっている現実があります。

 あれほど低姿勢だったドイツが知らないうちに東に伸び始めました。東の労働者が入ってくるだけでなく、ウクライナにまで手を伸ばしまた。それがウクライナ紛争の大きな原因の一つでもあります。つまりウクライナはEUに入りたがっている。ドイツは握手しようとする。つまりドイツの産業がポーランド、チェコへどんどん伸びて、東へ延びるというのはヒトラーのときからのやり方で、ドイツの膨張が懸念されている、というのがそこにあるわけです。そしてもう一つ、ナチス・ヒトラーがやった犯罪のおかげで戦後ドイツが苦しめられ、ドイツの悲劇に喘いで自分たちが悪い国民であると思われていることに酷い劣等感を持っています。若い人たちはケロッとしていて「俺達がやったことじゃない。知らねーよ、そんなことは。」という態度だそうで、それでいいと思いますが、ところがドイツ政府が一言でもそんなことを言えば大変なことになります。それでメルケル首相は格好をつけて「移民は受け入れます」とやったわけですね。ヒトラー後遺症ですよ。悪くいわれつづけてきたドイツは道徳的に立派な国だとみせたいのです。

 この移民とか難民の問題を一言でいうと、これは「存在するものではなく発生するもの」なのです。先進国が隙を見せれば動き出すのです。日本の場合もそうでした。1989年にベトナムからの偽装難民が日本に押し寄せましたが、その時の日本の法務省は偉かったと思います。法務省は福建省まで行って止めたのです。私の記憶では、中国の役人もなかなか立派で、彼らは士大夫(したいふ)、学識と権力を備えた高級官僚でした。中国人がベトナム人を装って日本に押し寄せた1989年のベトナム難民の話はご年配の方は憶えていると思います。中国の高官は「こともあろうに賎民に身をやつして自分の国民が外国に物乞いに行った」。屈辱におののいて、そう言って福建省の大元を抑えてくれたので、難民が来なくなりました。それがなかったら日本は「可哀想な人たちですねぇ。ご飯も給付も生活費も出しますよ。どうぞお出でください」とだらだらやって、難民はどんどんやって来たはずです。

 つまり難民は作られるのです。あるいは「存在するのではなく発生するもの」なのです。国家が隙を見せたらアウトなのですが、ドイツは隙を見せてしまったのです。一体どれくらいの難民が入っているかご存知ですか。ドイツの人口は8,000万人ですが、既に1,600万人です。5人に1人、20%ということです。皆さんはドイツの統計で7から8%と聞いているかと思いますが、それは現在外国人ということです。帰化した外国人を入れると2割です。じつは日本だってそうです。帰化した外国人はたくさんいますから。在日韓国朝鮮人を中国人が超えています。中国人の移民は既に100万人近いのです。これは既に忌々しきラインを超えています。

 難民問題は大きな問題で、確実なこととは言えないのですが、自衛隊はこう考えていると聞いたことがあります。元将官だった人からです。朝鮮有事の時に、北朝鮮の人口2,500万人の10分の1は国外へ飛び出すだろう。250万人ですね。そのうち9割は大陸伝いに逃げるだろう。船もそんなに無いでしょうから、船で逃げるのは1割くらいだろう、つまり25万人。それをどうしたら良いか。山陰地方の5つの県に難民を5万人ずつ割り振り、旧小学校など利用して難民収容所をつくる。一県で500人規模の収容所を100カ所ほど作らなければならず、そしてそれを防衛するために自衛隊員が一万人必要だとか、はっきりしたことは分かりませんがそんな計算が出ているという話です。こんなことがあったら大変です。でも十分にあり得ることです。かりにそれが起こってもどこの国も同情しませんし、しくじったら嗤われるだけです。そして海上で殺してしまったら大変な非難を浴びますから漂っている者、寄ってきた者を救わないわけにはいかない。沈めて知らん顔は出来ないわけで、朝鮮有事のとき、そういう問題が必ず我が国を襲うことと思います。ヨーロッパでは、ハンガリーがどんどん「ドイツへ行け」と尻を叩いているように、同じように韓国は「日本へ行け」と北朝鮮難民を送り込むかもしれません。何が起こるか分かりません。そういう悲喜劇がたくさん起こり得るということは、日本の有史以来経験していないことです。ヨーロッパには一種の民族大移動の時代が始まっていますが、東アジアにも訪れるかもしれないということです。

 ドイツのケースで、メルケル首相が「ええ格好」をしましたが、世界にヒューマニズムを言ったため何が起こったかというと、ドイツ民族のアイデンティティーの喪失です。今度シリアの難民が100~200万人入ってくると、ドイツの外国人の割合は2割から3割になります。そうするとドイツ的とかドイツ民族的とかドイツ主義とかドイツ愛国心はもちろんドイツ的特性とかそのようなものすら無くなってしまうでしょう。同じことは我が国にも訪れます。総じてヨーロッパの没落にも直結するのではないでしょうか。

 難民の問題だけではなく現在のヨーロッパはドイツ以外に製造力を持っている国がありません。イギリスに至ってはスコットランドが離れたら国連常任理事国の地位すら無くなってしまうでしょう。ブリテンはなくなり、イングランドになる。つまりイギリスは苦境に陥っているのです。シティの金融でやっていますから、生産物、製造業がほとんどありません。これはオフショアや闇金融が基本です。そしてその闇金融が中国人民元と結ぼうとしています。だいたいイギリスと中国が得意なのはスパイと贋金ですよ。それで世界を征服してきたイギリスは、中国と気が合うのだと思います。相変わらずシティは金融を握っていますから、それに目をつけている習近平はしたたかです。先に述べた「条件の整わない人民元」をシティが迎え入れたらどうなるか、目が放せません。

 そしてイギリスは今、ドイツとたいへん仲良くなっています。それはどうしてかというとEUのあり方に対する不満があって、主権国家ということを回復したい。EUにあってドイツは主権が奪われているのです。例えばドイツのアウトバーンはEU間では全て無料なのですが、ドイツはヨーロッパの真ん中辺にあり、どこに行くのにもドイツのを通って、その補修費はドイツが持たなければいけません。それは堪らない。ということで有料にすると国内の約束違反になって、今度はドイツ国民が賛成しないのです。だから道路は有料にするけれどもドイツ国民の自動車税を下げることで補うことにしようとしていますが、EUの委員会から許されないという声があがります。つまり国家としての主権が発揮できないのです。取り決め事を自分の国で勝手にやろうとすると、EUに引っかかってしまう。国のレヴェルや進歩の程度が異なるから、いろいろな齟齬を来すのです。ですから領収書や電化製品の電圧などを統一することなどは合理的で、EUがマーケットの統一をやっているだけだったらよかったのです。しかし、いろいろな条約を作ってしまうと忽ち不便になってしまいます。だからドイツはなんとか主権を回復したいと思っています。

 イギリスも同様にEUに縛られるのが嫌なので、ユーロに入っておりません。ドイツの主権の主張に対して応援してくれるのはいつもイギリスなのです。イギリスはドイツにとってありがたい存在なのです。そのような力学がヨーロッパに働いていて、「大変だなぁ、EU統合なんかしなければよかったのに」と思うのです。ヨーロッパの没落があり得ることについてお話ししています。200年くらい先かもしれませんが、本格的なことです。荒れ果てた土地になり産業が無くなりヨーロッパ人が出稼ぎに行くという逆現象です。信じられないことですが、あり得ることです。「没落」というのはそういうことです。

(まとめ 阿由葉秀峰)

つづく

「ドイツ・EU・中国」そして日本の孤独(三)

 よくドイツとフランスが仲良くやったように日本と中国韓国が仲良くやるべきだ、などといいますが、そんな筋違いな話はありません。日本が頭が上がらなかった国はアメリカでした。そしてドイツはフランスでした。日本にとっての中国は、ドイツにとってのロシアです。そして日本にとっての韓国は、ドイツにとってのポーランドです。そういう文化的・力学的関係です。それを考えれば、日米の和解がここまで進んでいるということは、ドイツとフランスの和解と同じようなことが、EU共同体と日米安保条約、ヨーロッパ大陸と太平洋の和解ということで世界が成り立っていると理解することができるのではないでしょうか。

 アメリカも努力をしたけれど、日本もすごい努力をしました。原子爆弾の投下について日本は一言も言わなかった、じっと耐え忍んだではありませんか。こんなことはふつう考えられません。アメリカはまだ疑っているはずです。何かあったら復讐されるのではないかと今でも思っているはずです。それが現代の核問題に微妙に影を投じています。しかし日本はそういう感情は持っていないでしょう。世界には不思議なことがたくさんあります。世界の七不思議のひとつは、ある外国人、私のドイツ人の友人が日本に来たとき、「日本がアメリカから原爆を落とされたことや、大空襲を受けたことを一言も言わないことが不可解だ。」と言って帰国してゆく。つまりそれくらい不思議なことなのです。アメリカもそのことに気が付いていますから、非常に敏感になっていまして、最近8月6日の広島の記念日にはアメリカの大使が必ず出席するようになっています。それもこの3年の話です。向こうも気を遣っているわけです。

 同じように忍耐というものがあって、たとえば戦後日本はドイツと違って貿易をする相手はアメリカしかいませんでした。ドイツは近隣「先進国」と自由な貿易を展開するために、それがために「謝罪」ということを、見苦しいまでに頭を下げなければ貿易ひとつできませんでした。しかし日本は戦争が終わって気が付いてみれば、朝鮮半島ではあらたな戦争があり、中国も革命があり、また東南アジア諸国には購買力がなかった。だから日本は戦後の発展を何で支えたかというと、アメリカがマーケットを寛大に開いてくれたからです。アメリカ市場によって日本の戦後の復興は成し遂げられたのです。その寛大さと自由に対しては、やはり日本は感謝しているでしょうし、「アメリカが嫌いではない。」というのはそれがためでしょう。アメリカ映画とジャズとコカ・コーラとレディ・ファーストなどが入ってきて雰囲気もそれを支えたでしょう。

 それに対してドイツは全く違っていて、アメリカは直接の繋がりはなく、近隣諸国に徹底的に気を遣わなければならないその代表がフランスだったのです。独仏和解というのは双方の努力によって成されたのと同様に、日米和解もまた双方の努力によって成されたと理解しています。私の考えはそれほど間違ってはいないでしょう。つまり「お互い様の痛み分け」を敢然と遣り遂げたということです。

 ところがEUの統合という問題が起こってきますと、どこが一番損をするかというとドイツです。これはマルクの忍耐というものが無ければ、成り立たない。つまり放って置けばマルクの一人勝ちですから、どう抑えていかに損をするかということがなければ成立しませんでした。マルクの忍耐がEUを成立させたのです。しかもEUの機運は共産主義の崩壊が切っ掛けとなっています。これが冷戦終結の諸テーマと全部繋がるのです。マルクの忍耐がどこから来るかというと、勿論ナチスの暴政に対するドイツ人の反省とその気持ちが伝わって、やっとフランスとの和解を勝ち取りました。

 冷戦の終結が大きく影響します。1981年にドロールというフランスの大蔵大臣がヨーロッパ共同体(EC)のアイディアを提唱します。1982年にブレジネフが亡くなり、85年にゴルバチョフが登場して、89年にベルリンの壁が崩壊する。そのような80年代の歴史ドラマがあるのですが、それに引き摺られるようにしてヨーロッパの統合という理念が強く打ち出されるのです。だから冷戦というのが何かというと、「コミュニズムという名のグローバリズム」つまり共産主義という名の普遍思想にとって代わって、もう一つの普遍思想「ヨーロッパ」で纏まろうということです。普遍思想ということをいうと、日本にも伝わった気分があり、言葉としては「国際化」という言葉で、そのあと世界じゅうで国境を互い低くしましょうという「グローバリズム」に名を変えます。

 しかし共産主義の崩壊と同時に何が興ったかというと、実際には世界普遍思想ではなく、各民族と宗教の台頭です。いろんな小さな民族や小さな宗教がどんどん独自性を発揮して対立する。独立を主張して争う。しかし不思議なことに民族と民族の間は厳しく対立するのに反して、大きな宗教の内部の国家の群の柵はどんどん低くなるということが起こりました。これは皆さんの歴史感覚の中でおわかりでしょう。例えば一つの宗教の中にたくさんの国があったけれど民族同士の対立は残る。けれどその間の国家間の垣根は低くなる。イスラムが大きな一つの纏まりになろうとすると、イスラムが抱えていた小さな垣根は低くなってゆく。ヨーロッパも同じで、キリスト教文明圏が一つに纏まろうとすると各国の垣根は低くなる。それを「グローバリズム」という名で呼んで、共産主義が崩壊したあとに起こった大きな出来事のひとつです。

 それが潰れるのは2008年のリーマンショックです。なぜなら金融の破局が伝わる速度は国境を越えて広がるけれど、陥った困難からどう自己救済するかは各国に任されているだけで、だれも助けてくれないのです。そこで結局国家ということになるのです。だからリーマンショック以降の金融大恐慌が起こって初めて日本全体・地球全体が、結局は国家ということに気付いて、今もその流れの中にいると理解してよいのではないでしょうか。それまでは国家を越えることこそが理想のように言われていたわけです。それがEUを作った力だったのですが、私はその背景にもう一つ大きな問題があったと思います。ある防衛心理、これは1970年にニクソンショックといって、アメリカが金とドルとの兌換を放棄、止めてしまって、ご承知のように、ドルをどんどん増刷すればよいというアメリカ独自の我儘が始まります。こんなことではアメリカにやられてしまうと、ヨーロッパはこの無制約な危険を敏感に感じ取りました。このアメリカがどんどん札を刷ればいいというのを「帝国還流」と言いました。今でもそうですが、お金は全部アメリカ帝国に戻ってゆくということです。未だに金融を締めたり緩めたり、アメリカの肚ひとつでもって、新興国が潰れたり上向いたりします。

 「帝国還流」と80年代に起こった日本の台頭がヨーロッパに衝撃を走らせます。日米経済同盟が地球のGDPの40%を占めました。1981年フランスのドロールについて先に述べましたが、その時日本は中曽根内閣で、1980年代は日本の自動車生産台数が世界第一位になった時代で同時にレーガン・サッチャー・中曽根時代といわれた時代です。そのあと89年にベルリンの壁が崩壊してから一転してアメリカは日本を敵視し始めます。

 そして次にユーロの登場となりますが、それについて私は、EUはやりすぎだったと思います。マーケットの統一だけでやめておけばよかった。しかし貨幣の統一までやってしまった。金融と財政の統一をやったら身動きが取れなくなって、とにかく主権が放棄されるというのは各国にとって苦痛ですから、苛立ちが烈しくなり、イギリスはユーロには加わらなかった。今ではユーロだけではなくEUからも抜けたがっていますが、貨幣の統一までやったのは失敗だったと思います。ユーロはそもそもドルに対しての自己防衛で成り立っていました。札を刷って垂れ流すのはアメリカです。輸入が好き勝手にできたアメリカ。あの「帝国還流」から西ヨーロッパが自分を守るためにEUを作り、アメリカが並みの国になれば、私はやがてフランとマルクは復活するだろうとその当時考えました。アメリカの経済学者レスター・サローが、「大欧州が出現して、ソ連を含む8億ものマーケットが生まれる。」ということを簡単に予言したので、私は各国にはエゴイズムがあるので、絶対にそうはならないと考え、「朝日新聞」1992年7月6日夕刊に「『大欧州』の出現に疑問」※を書きました。(※『西尾幹二全集 第11巻「自由の悲劇」』 では「旧共産圏の人々のGefühlsstau(感情のとどこおり)」に改題。206頁~208頁)

(まとめ 阿由葉秀峰)

つづく