目次
まえがき 八木秀次
第一章 子供を襲う悪魔の手
第二章 あなたの娘を“負け犬予備軍”にするジェンダーフリー教科書
第三章 親が知らない「過激な性教育」の現場
第四章 “ソフトな全体主義”の足音が聞こえる
第五章 「性差の否定」に医学的根拠はあるか
第六章 上からの白色テロ――地方・学校の実態
第七章 男と女の幸せとは
あとがき 西尾幹二
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あとがき
普通の日本人は、「ジェンダーフリー」と聞いても「それ何?」と言うだけだし、「過激な性教育」の話をしても「一部の日本人が馬鹿なことを言っているだけじゃないの?」と本気にしない。
いまの大学生が、まずほとんど知らない。本書が届ける、目を剥くほど人をびっくりさせる諸事実は、小学生と中学生にいまもろに浴びせられている病毒だが、大学生の世代はまだそれほどひどい経験をしていないらしい。「僕らは知らないなァ、そこまでの話は聞いていないよ」と、たいてい当惑げに答える。
ということは、つまり、かなり前からあった話ではあるが、教育現場を急激に襲ったのは、ここ数年なのである。「過激な性教育」の元年は平成四年と聞く。
しかし、それは規模といい、巧妙な計画性といい、根が深く、決してただごとではない。特定の政治勢力が背後にあって、しかも、それがいままでのような反体制・反政府ではなく、「男女共同参画社会」というよく分らない美名の下に、政府権力の内部にもぐりこんで、知らぬ間にお上の立場から全国津々浦々に指令を発するという、敵ながらあっぱれ、まことにしたたかな戦術で、日本の国家と国民を破壊する意図を秘め、しかもその意図は遠く70年代の全共闘、連合赤軍、過激派左翼の亡霊がさながら姿を変えて、自民党政府を取り込んで新しい形で立ち現れた、にわかには誰にも信じられない、おどろおどろしい話なのである。
「いまのこの時代に、そんな馬鹿馬鹿しい話が果たしてあるのか。けれども、もしあるとしたらキテレツ面白い話ではないだろうか」と、きっと読者の皆様は半信半疑になるであろう。まあ、その正否は本書を読んでから判断していただきたい。
本書は、内閣総理大臣を長とする男女共同参画推進本部に、また官房長官を議長とする男女共同参画会議に、そして事務局の内閣府の男女共同参画局に、各地方自治体の関係部局に、さらに東京大学文学部などに事実を知らせ、公開状として質問し、即刻の現状の解消を求めている一書である。
「総理大臣以下、あなた方はこの点に関するかぎり、とても滑稽なことをしていますよ。否、道を間違えています」と、はっきり申し上げておく。女だからと舐(な)めて、甘く見て、乗せられて、瞞(だま)されて、国家の未来を危くしている。敵はカラカラと嘲笑(あざわら)って、したたかですよ。
私どもは、政界にも学界にも私どものオーソドックスな意見に耳を傾け、冷静に判断できる人が、いまだ少なくないことを信じている。常識はまだ生きていることを信じている。
「ジェンダーフリー」の名において実働部隊によって行われていることは、あまりにはなはだしい反自然的人間誤解に基づく、思いもかけない文化破壊である。諸外国には例を見ない異常事、少子化で悩むこの国をさらに少子化に追い込み国家をなくしてしまう所業、日本発の新しいファシズムである。
現に、すでにヒトラー流の文化統制が企てられ、進められている。革命後の公安委員会のような、処罰を振りかざしている「監視・影響調査専門委員会」までがすでに作られている念の入れ方である。表現の自由を平気で侵す憲法違反の動きに、総理大臣以下が知らず知らずうかうか乗せられている。
委員に名をつらねた実働部隊の、大半が怪しげで無名な進歩的文化人の思想傾向や身元調査は十分に行われていないのではないか。無責任な官僚はこれがムードだといってわっと乗り、地方自治体の役人は中央からの指令に唯々諾々と従う従順な羊の群れにすぎない。
皆さん、腹を抱えて笑うようなとてもおかしなことが、巨額の税金を使って大規模に、急速に展開されていますよ。黴菌(ばいきん)のような勢力がこれを動かし、あなたの町に、村に伝染病のように広がって、常識を壊し、家庭を破壊し、子供の未来を危くしていますよ。
どうも政府自民党に思想がないということに、最大の問題がある。ただ田舎(いなか)の小金持ちをかき集めて「保守」だと称している、バックボーンのない日本の保守――最近の中央財界人も似たようなもの――には、私はほとほと呆れているが、私は彼らとは違い、国家の屋台骨が白アリに食い荒らされているような現下のこの事態を、黙って看過してしまうというわけにはどうしてもいかない。
というわけで、『新・国民の油断』という警世の一書を編むことになった。
『国民の油断』と題した本は平成八年に、歴史教科書問題を題材にして、私が藤岡信勝氏との共著で一度すでに出している。「新しい歴史教科書をつくる会」のスタートを形づくる記念的な一書である。売れ行きも良く、単行本が八万部、文庫が五万部も出た一種のベストセラーであった。
『新しい歴史教科書』は妨害に遭って、いまの段階では採択に成功したとはいえないが、中学の歴史教科書の記述一般に、警告を発し、暴走に歯止めをかけ、揺り戻す役割を果たすことに成功した。
そうこうするうちに、思いがけないところから、ものすごい新たな浸蝕が始まったわけだ。それが本書のテーマ「ジェンダーフリー」「過激な性教育」である。『新しい公民教科書』を脅かし、その趣旨に反する動きなので、『新しい公民教科書』の代表執筆者の新会長・八木秀次氏が関心を寄せ、打倒に情熱を注いできたのは当然である。
本書は八年前とほぼ同じ精神を生かすが、同一の書名にはできないので、『新・国民の油断』と題することにした。
本書成立に際し、次の数多くの方々のご協力、ご教示をいただいた。
男女共同参画をも担当した元内閣府副大臣の米田健三氏、自民党参議院議員の山谷えり子氏、東京都日野市市会議員の渡邊眞氏、平塚市立大野中学教諭の野牧雅子氏には、基本となる考え方、資料、政界情報、教室情報をお教えいただいた。
また広島県廿日市市の主婦・長谷川真美氏、兵庫県加東郡の公務員・木藤勲氏には、地方に展開される男女共同参画運動の実態を内側から書いたレポートをお寄せいただき、本書に掲載することをお許しいただいた。巻末付録には、主婦粕淵由紀子氏が地方自治体の予算について調べた資料を掲載させていただいた。
その他にも、私が参加している民間審議会「九段下会議」の「ジェンダーフリーと少子化の小委員会」のメンバー諸氏は、数多くの示唆に富む貴重なヒントと事実報告をお寄せくださった。
いずれの方面にも厚く御礼申し上げる。
本書のテーマは、PHP研究所学芸出版部副編集長の白石泰稔氏がかねて解明に情熱を注いでいた問題意識に沿っていて、本書もまた同氏の手で編集され、出版されることになった。編集過程の実務を担当したのは、フリージャーナリストの桜井裕子氏とPHP研究所学芸出版部の細矢節子氏である。末筆ながら、諸氏に深謝申し上げる次第である。
平成十六年十二月八日
西尾幹二