西尾:それで中国の先行きは?
宮崎:先行きは、今申し上げましたように、エネルギー投資が余りにも無謀なので、そこから破綻を来たしそうです。
軍のエネルギー確保の発想はパラノイア的です。
長期契約で、向こう25年間に、2000億ドルをイランに出資するといって、今700億ドルを払ったらしいんですが、今から開発するわけでしょう。開発するのに、資金切れになったらどうするのか、そんなことぜんぜん考えていません。
ですから、中国のやることが、あんまり無謀なので、メジャーがみんなプロジェクトから撤退していくわけです。東シナ海からもユノカルなどが撤退しましたね。コスト度外視ですから。
新疆ウイグルから上海まで持ってきているガスも、パイプラインは完成しましたが、末端の消費者にとって、国際価格の3倍もするんですよね。だれも買わないでしょ。買わないから今度は共産党が押しつける。国有企業にこれをこの値段で、買いなさいと。
西尾:日本のように、中東から輸入するというラインだけでは足りないんですか?
宮崎:中東からも石油、ガスを輸入しておりますが、足りないというよりも備蓄設備が少ない。
C:中東から輸入するだけじゃなくて、スーダンからも石油を輸入しているらしいですよ。
西尾:そこで素朴な質問ですが、なんで日本はそんなに、がつがつしないでもやっていられるのでしょうか。
C:いえいえ、過去に於て日本がやろうとした同じようなことを中国もやろうとしているんでしょう。日本は最近政府が石油公団を廃止したりしましたけれど、一時国が金を出して、石油を自分の側に抑えて、それで安定輸入先を確保しておこうということでやっていたんです。その政策があまりうまくいかなかったので、というか一部分しか成功しなかったので、そのうち堀内さんなんかが批判するもんだから、やめてしまったんです。それで今になって、石油がなくなり、天然ガスがなくなろうとしているとき、もっと日本は自分の側に抑えておくべきだったんじゃないかという議論が、今ごろまた再発しているんです。
中国は30年前の日本と似たようなことを、わぁ~っといっぺんに金をかけてやろうとしているんです。で、今宮崎先生が言われたように、全てのプロジェクトがうまく行くとは思えませんけれども、ただ彼等としては本当に必要なのは油とガスだから・・・・・
西尾:日本はどうなの。何度もききますが、日本はのんびりしていませんか?
C:日本も同じです。石油の値段がこんなに上がったのは、中国がそうやってたくさん買おうとしているからなんですよ。ですから、影響は全世界が受けています。
西尾:中国の経済が伸びれば伸びるほど、エネルギーはより必要になるということですね。
C:宮崎先生がいっておられたように、めちゃくちゃやっているから、プロジェクトとかなんかで、おかしくなるんじゃないかというのはとおっしゃる通りではないかと思いますね。
D:アメリカの共和党は、民主党もですが、チェイニーとかラムズフェルドあたりはニクソンの時代から、ワシントンに居た人間です。彼らはマッカーサー元帥が好きなんですよ。マッカーサーが辞めた時に、議会証言の中で、彼らは朝鮮戦争の体験を心情を通して語ったんです。それはつまり、我々アメリカというのは、アジアの戦争に勝てないと言っているんですよ。そこらへんが共和党の、中国に対する考え方の根底にあるんじゃないかと私は思うのです。
戦争しちゃいけない、封じ込めくらいはいいけれど、戦争はとにかくやっちゃいけない。今やっているのは、日本式に金持ちにして、おだやかにソフトランディングにもっていこうというのが、共和党の政策の根幹だと思います。
西尾:金持ちになるプロセスで、日本の場合は平均して金持ちになり、静かになっていった、だからよかったけれど、中国は非常にドラスティックに差ができたりするから、金持ちになったとたんに情報が過剰になって、内乱が起きる可能性は中国の場合は高いですよね。
宮崎:富の独占という意味で、中国共産党という権力だけが富を独占するわけですから、庶民のことなんか共産党はどうでもいいんです。そこで必ず不満が堆積してくるんですね。今の段階は、なんといったって飯が食えるから、まあいいのですが、これで農民が本当に食えなくなったらあちこちで一揆的な暴動を起すでしょうね。暴動が起きても、今の軍隊240万と第二軍の人民武装警察70万とで抑えられる、ただ軍がそのうち、武器を敵に渡すなどの腐敗を始めるでしょうから、そうすると昔のように、群雄割拠じゃないけれど・・・・がたがたしてくるでしょう。
西尾:中国と北朝鮮とは違いますか?そういう意味で。
宮崎:いや、かなり違いますよ。
西尾:違いますね。抑えられない。北朝鮮の軍隊、北朝鮮の民衆は抑えられるけれど、本当に餓死者が出るようになったら中国の場合は抑えられないと。
宮崎:あの半島とは違って中国のように広いところでは、山西省は山西省で何をやるかわからないし、江西省は江西省はで何をやるかわからないという状況も出ないとも限らない。ただ、この間もその議論になったんですが、かつての地方軍閥のごとくにたとえば、旧満州では張作霖が出たり、天津からは袁世凱が、山東に閻軍閥、四川に朱徳、広東に葉剣英が出て「広東覇王」をなのるというような、旧来の軍閥かといえば、それは違うと思うのです。
西尾:ということはつまり、片岡さんがさっきから言っているように、現代の国家、主権国家が武力、軍事力を持ったら、地方軍閥は手が出せないということですね。
宮崎:地方叛乱ですね。もちろんそうですが、我々が昔からイメージしていた中国の地方軍閥というのは、もう消えかけてないと思います。
軍の近代化以来、地方軍閥を警戒してきた。
その結果、いまあるのは、総参謀本部、総政治部、総後勤部、もう一つ。この四つの「縦の系列」があって、それぞれが地方空間を束ねている。
軍の中の四つの「縦の系列」にそれぞれ利権があるんです。どこどこのガスはここ、たとえばどこかに労働者を派遣するのはここ、サウジアラビアのミサイル管理はここ、ホテル経営から何から全部「縦の系列」で利権を取り合っているので、それが喧嘩を始める、(ま、今も喧嘩していますけれど)そのときが大混乱の始まりでしょう。
西尾:それが流血の喧嘩になるかもしれないと?
宮崎:なる可能性はある。しかしいい部隊にはいい武器が行くわけですから。
外国にも出している。軍は輸出で儲けていて、たとえばバングラディッシュあたりは、全部中国製の武器ですよ。90パーセント。ロシアのカラシニコフを真似た機関銃ですが。一発打ったら弾奏が壊れるので、あれみんな“チャラシニコフ”と言っている。(爆笑)
周縁諸国は、プロチャイナの国々でも、そういうものしか持っていない。まだ、それで十分だから。一方、中国は沿岸警備を含めて、海軍の装備が格段によくなったようですね
西尾:北京オリンピックの見通しはどうでしょうか?
宮崎:オリンピックまでは強権発動で持つと思います。その前に不動産と金融の問題がどうなるかですよ。
C:さっき宮崎さんがおっしゃった、株の投機は?メタル関係は?
宮崎:これは終わりました。鉄鉱石は上がっているんですが、ただ需要がもうないんです。いままで隠していたやつを今だして、それから発注っていうことになりますでしょ。
C:アメリカでも日本でも、そういうのは起っていますけれど、上がるとみんなが買いだめして。
B:上海の土地はもう下がるとおもいます。
宮崎:石油と金が上がっています。
C:日本企業の投資の問題ですが、ちょっと感想を述べさせていただきたいのです。過去10年、15年の間に中国向けの投資については、日本の企業は揺れているんですよね。中国はカントリーリスク――リスクと言う言い方はおかしいかもしれませんが――結局中国に投資して、うまくいくかということです。日本の企業も90年代の前半なんかは、相当慎重だったんです。それは現実に、うまくいかないケースもあったし、中国の中で売ろうとすると大臣が買い占めちゃうようなケースもあった。
さっき銀行は不良債権が多いとおっしゃっていましたが、中国人は借りた金を返さない。それで日本のやおはんという会社が投資して、つぶれちゃったんです。結局、中国の中で商売しようとして、やっていけなかったのです。日本の企業はどっちかというと、中国で作らせて、それを買ってアメリカに輸出すると、その商売だったら代金はアメリカから入るわけですから、それで向うで割に伸びているのはそうです。
私は中小企業の仕事をしていましたけれど、日本の中小企業も中国向けの投資がむずかしいなという感じをもっていたんです。ところが、90年代の終りごろから、少し様子がかわってきて、日本の大企業もうまくやるのが出てきたし、しかも中国の中で商売するイトーヨーカ堂とかですね、そういう所も出てきて割にうまく行き始めたもんだから、中国国内をマーケットにした商売の為の、投資というのが非常に増えてきて、つい最近まではものすごいブームになっていたんです。ただ、反日暴動の事件があったのでまたカントリーリスクが出て来たと思います。
東南アジアの方に、アセアン諸国のほうにまた若干ウェイトが移っていくんじゃないかなと思います。それは中国にとっては、非常に大きな影響があると思います。しかし経済問題ですから、これはしょうがない。
宮崎:もうひとつ、今木下先生がお触れにならなかったことで、WTOの問題があるんですね。WTOで来年、金融の自由化とか知的財産権の保護とか、いろいろあるんですけれど、やはり繊維ですよね。繊維のクォーターがなくなって、中国がラオス、カンボジアに負けるんですよ。中国企業がみんなあっちへ行っているでしょ。価格競争に勝てない分野が中国でさえ今でてきた。
B:ストが起きているでしょ。賃金ストが・・・・
宮崎:ストは年中起きている。基本的にはみんな不払いなんですよ。工場長が持ち逃げしたり、約束の半分ももらえない、これ一番多いんですよ。
B:約束した金を払わないというのは、中国人なんですか。
C:中国に投資することに、通産省がかんでいます。通産省が熱心にやったような気がするんです。
西尾:台湾の悲運がここで問題になりますね。許文龍さんが涙を飲んだ事件がありましたね。愛国者だったのに、自分の会社の人間がおそらくひどい目にあって、仕方なく台湾の独立放棄なんて心にもないことを無理して書かされたんでしょうが、日本の企業も罪もないのに、10年の刑とか、そういう人があいついで出たりすると、日本の企業もこれは大変だということになって、逃げ腰になる、そんなことおこりませんかね。
宮崎:今小林陽太郎だの、一応財界が中国の言うとおりに動いているから、今のところ嫌がらせはないと思います。ただ、たとえばトヨタの会社あたりが全然違うことを言いだすと、やりかねないですね。
西尾:困ったもんですね。常識の存在しない始末に負えない国ですから、日本の企業もちゃんと分って、不当なことをされたらどうしたらよいか、今から対応策を考えておいてほしいですね。