このところにわかに騒然としてきた「人権擁護法」の法文を私は一週間ほど前から読んで、人からも示唆を受け、考える処あって反対運動に起ち上ることにした。さし当り私にできることは産経のコラム「正論」に書くことと考え、以下の文章を11日付でようやく公表した。
この文章は8日朝に編集部に送り、11日に掲載されるという、このコラムとしては例のないスピードであった。しかし10日朝、自民党法務委員会の会議には間に合わなかった。
幸い自民党法務委員会は心ある議員の発言相次ぎ、法案審議はいったん延期され、11日金曜日にまた開かれるそうである。予断を許さない。私の反対意見が関係議員の目に触れ、法案の国会上程阻止に少しでも役立ってくれることを祈っている。
この後の反対運動のプログラムも一応は考えている。名案があったらブログに書きこんでほしい。
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「人権擁護法」の国会提出を許すな
――自由社会の常識覆す異常な法案――
《《《定義のない「人権侵害」》》》
国会に上程が予定されている「人権擁護法」が今の法案のままに成立したら、次のような事態が発生するであろう。
核を背景にした北朝鮮の横暴が日増しに増大しながら、政府が経済制裁ひとつできない現状がずっと続いたとする。業を煮やした拉致被害者の家族の一人が政府と北朝鮮を非難する声明を出した。すると今までと違って、北朝鮮系の人たちが手をつないで輪になり、「不当な差別だ」「人権侵害は許せない」と口々に叫んだとする。
直ちに「人権擁護法」第五条に基づく人権委員会は調査を開始する。第四十四条によってその拉致被害者家族の出頭を求め、自宅に立ち入り検査をして文書その他の物件を押収し、彼の今後の政治発言を禁じるであろう。第二十二条によって委嘱された、人権委員会は北朝鮮系の人で占められている場合がある。
韓国政府の反日法は次第に過激になり、従軍慰安婦への補償をめぐる要求が再び日本の新聞やNHKを巻き込む一大キャンペーンとなったとする。代表的な与党政治家の一人がNHK幹部の来訪の折に公平で中立な放送をするようにと求めた。ある新聞がそれを「圧力だ」と書き立てた。
すると今までと違って、在日韓国人が「不当な差別だ」「人権侵害は許せない」と一斉に叫び、マスコミが同調した。人権擁護法の第二条には何が「人権侵害」であるかの定義がなされていない。どのようにも拡張解釈ができる。
《《《全国各地に巨大執行組織》》》
かくて政治家が「公平で公正な放送をするように」といっただけで「圧力」になり、「人権侵害」に相当すると人権委員会に認定される。日本を代表するその政治家は出頭を求められ、令状なしで家を検査される。誇り高い彼は陳述を拒否し、立ち入り検査を拒むかもしれないが、人権擁護法第八十八条により彼は処罰され、政治生命を絶たれるであろう。人権委員会は在日韓国人で占められ、日本国籍の者がいない可能性もある。
南京虐殺に疑問を持つある高名な学者が143枚の関連写真すべてを精密に吟味し検査し、ことごとく贋物(にせもの)であることを学問的に論証した。人権擁護法が成立するや否や、待ってましたとばかりに日中友好協会員や中国人留学生が「不当な差別だ」「人権侵害は許せない」の声明文を告知したとする。人権委員会は直ちに著者と出版社を立ち入り検査し、即日出版差し止めを命じるであろう。
南京虐殺否定論はすでに一部のテレビにも登場し、複数の新聞、雑誌、とりわけミニコミ紙で論じられてきた。人権委員会は巨大規模の事務局、2万人の人権擁護委員を擁する執行組織を持つ。まるで戦前の特高警察のように全国をかぎ回る。
人権擁護法第三条の二項は、南京事件否定論をほんのちょっとでも「助長」し、「誘発」する目的の情報の散布、「文書の頒布、提示」を禁じている。現代のゲシュタポたちは、得たりとばかりに全国隅々に赴き、中国に都合の悪いミニコミ紙を押収し、保守系のシンクタンクを弾圧し、「新しい歴史教科書をつくる会」の解散命令を出すであろう。その場合の人権委員の選考はあいまいで、左翼の各種の運動団体におそらく乗っ取られている。
《《《国籍条項不在の不思議さ》》》
私は冗談を言っているのではない。緊急事態の到来を訴えているのである。2年前にいったん廃案になった人権擁護法がにわかに再浮上した。3月15日に閣議決定、4月の国会で成立する運びと聞いて、法案を一読し、あまりのことに驚きあきれた。自民党政府は自分で自分の首を絞める法案の内容を、左翼人権派の法務官僚に任せて、深く考えることもなく、短時日で成立させようとしている。
同法が2年前に廃案になったのは第四十二条の四項のメディア規制があったためで、今度はこれを凍結して、小泉内閣の了承を得たと聞くが、問題はメディア規制の条項だけではない。ご覧の通り全文が左翼ファシズムのバージョンである。もちろん、機軸を変えれば共産党、社民党弾圧にも使える。自由主義社会の自由の原則、憲法に違反する「人権」絶対主義の狂気の法案である。
外国人が人権委員、人権擁護委員に就くことを許しているのが問題だ。他民族への侮蔑はいけないというが、侮蔑と批判の間の明確な区別は個人の良心の問題で、人権委員が介入すべき問題ではない。要するに自由社会の常識に反していて、異常の一語に尽きる法案である。予定される閣議決定の即時中断を要請する。(にしお かんじ)
産経新聞 2005.3.11