中村敏幸さんの当選作(一)

 アパグループの第五回「真の近現代史観」懸賞というのがあって、坦々塾会員の中村敏幸さんが「優秀賞」を受賞したことは当日録でお知らせしてあります(12月25日)。その内容の要約文もご自身がすでにここに書いています(12月9日)。しかし私の見るところ、要約文では当選作の魅力は十分に伝えられていないので、皆さんに内容全体をじっくり読んでいただきたいと考え、以下に三回に分けて掲示します。

日米百五十年戦争と日本再生への道標    
        坦々塾会員 中村敏幸

はじめに

 現在、我が国を襲っている精神的荒廃と国威低迷の根本原因は、我が国が主権を回復したサンフランシスコ講和条約発効後60年を経た今日でもなお、言論マスコミ界、政官界、教育界、学界、法曹界が深く侵され宿痾と化している東京裁判史観とGHQによる日本弱体化工作にあり、これを打破根絶し、その洗脳から脱却しない限り我が国の真の再生を成し遂げることは出来ない。

 支那事変から大東亜戦争に至る戦いは、日本が戦うことを望まず、平和を希求したにも拘わらず、米英ソ支が巧妙な連携の下に日本に対して行った執拗な挑発と、米英蘭による経済封鎖に続く、事実上のアメリカの対日宣戦布告文書である「ハル・ノート」によって日本を追い詰めた結果起こった戦争であった。しかしその史実に反して、戦後アメリカを中心とする連合国は、戦争を仕掛け、かつ日本各地への無差別爆撃や原爆投下によって100万人近い無辜の民を殺戮した自らの邪悪さを覆い隠すために、東京裁判とGHQ工作によって、逆に日本は残虐非道な侵略国家であり、平和と民主主義はアメリカによってもたらされたとの洗脳工作を行った。
 
 戦前の我が国は、政党政治の未熟さや統帥権干犯問題に見られるように軍部の横暴や二・二六事件のような不幸な出来事はあったものの、五箇条の御誓文によって誓われたように「広ク会議ヲ興シ、万機公論二決スル」れっきとした議会制民主主義国家であり、「上下心ヲ一ツニシテ盛ニ経綸ヲ行フ」君民一体の比類なき国体を有していたのである。

 かつて、先住民(インディアン)を滅ぼし、奴隷制度を有し、1950年代以降の激しい公民権運動を経た後の1971年まで黒人に参政権を与えなかったアメリカが民主主義をもたらしたなどという物言いは悪い冗談でしかない。

 GHQの強要によってもたらされたものは、「国の為に義務を尽くして権利を主張しない」我が国民の高貴さと精神的基盤の破壊であり、「義務を尽くさずして権利のみを主張する」スペインの思想家オルテガが言うところの「大衆の反逆」であった。

 昭和史家は先の大戦を「満州事変」を発端とする「十五年戦争」と捉えるが、そのような近視眼的な見方では、「先の大戦の真相と世界史的意義」を見極めることは出来ない。日米武力戦争は昭和20年8月15日に終結したが、これはボクシングに例えれば前半戦に於いてワンダウンを受けたに過ぎず、筆者はペリー来航以来、「日米百五十年戦争」として今日もなお姿と形を変え継続しているものと捉える。更に、先の大戦の真相は、遠くはアメリカの建国以来の清教徒的理想主義の仮面を被った覇権主義と欧州列強の東洋侵攻を、また近くはコミンテルンの世界共産化計画を抜きにしては究明出来ないと考える。よって、本稿ではこの視座から大東亜戦争に至る歴史の真相を明らかにすると共に、東京裁判とGHQによる日本弱体化工作とそれに続く日米経済戦争も一貫した日米戦争と捉え、最後に、日本再生への道標を示したい。

 近年、欧州大戦についても、ヒットラーは米英ソとの戦争を望んでおらず、戦争を挑発したのはルーズヴェルト、チャーチル、スターリンの三者であったとの説が出始めており、満州事変についても、日本の一方的な侵略と傀儡国家の建設であったという従来の定説が覆されつつあるが、この問題については紙幅の制約により本稿では触れない。

アメリカ建国の歴史と覇権主義 

 キリストは身を捨てて律法(旧約聖書の最初の五書)(1)を狂信したパリサイ人の不正を諌めて「愛の宗教」を説いたが、ローマカトリック教会に対する抗議(プロテスト)として起こったプロテスタントは「旧約に帰れ」と説いた。中でも、1620年以降にアメリカに渡り、建国の父と言われた清教徒は旧約の持つ選民意識、残忍性、世界支配欲(2)を色濃く反映したカルヴァン派の流れを汲み、アメリカに入植した清教徒にとって、アメリカ大陸は約束の地であり、自分たちは選ばれた民であった。そして、彼等清教徒は入植直後から、滅ぼされるべき劣等民族として先住民の掃討を始め、それはその後1890年まで250年余りに亘って進められ、500万~1000万人いたと言われていた先住民は絶滅に近い仕打ちを受けた。

 独立宣言直後に制定されたアメリカの国章にはANNUIT COEPTIS(ラテン語で「神は我々の企てにくみせり」の意)及びNOVUS ORDO SECLORUM(同じくラテン語で「新世界秩序」・英語ではNEW WORLD ORDER)(3)の文字が記されており、また、1935年に発行され現在も使用されている1ドル紙幣の裏面にも同様の文字が記されているが、これは「アメリカが神意によって『新世界秩序』を築く使命を有している」ということを国家として表明しているものである。

 アメリカは1783年に東部13州で独立建国を果たしたが、建国後直ちに西へ西へと領土の拡大を開始した。そして、1845年にジョン・オサリバンによって「マニフェスト・ディスティニー(明白なる使命)」なる標語が提唱されると、アメリカの西進は更に正当化され勢いを増してテキサスを併合し、3年後の1848年には「米墨戦争」によってニューメキシコ、アリゾナ、カリフォルニア等の西部諸地域を強奪して太平洋岸に達した。

 ペリー来航はそれから僅か5年後のことであり、太平洋の制覇に乗り出したアメリカは、1898年(明治31)には「米西戦争」によってフィリピン、グァムを領有すると共にハワイを併合して太平洋の覇権構築への橋頭堡を築くに至ったのである。

 なお余談ながら、「米墨戦争」に先立ちアラモ砦を陥落させて「リメンバー・アラモ砦」を、また、「米西戦争」では老朽艦メイン号を爆沈させて「リメンバー・メイン号」との合言葉を唱えて戦争の正当化と戦意高揚を謀ったが、対戦相手国に先に一発を打たせるのがアメリカの常套手段であった。そのようなアメリカ戦史を知ってか知らずか、山本五十六並びに海軍統帥部は真珠湾先制攻撃を行ってアメリカの仕掛けた罠に進んで嵌り、「リメンバー・パールハーバー」の合言葉によって、当時のアメリカ国民の反戦気運を一転させ、戦意を一気に高揚させた。更に、彼等は我が国の基本戦略であった「漸減邀撃作戦」を覆し、陸軍をも巻き込んだ南太平洋に於ける消耗戦に陥らせ、我が国将兵の多くが敵の弾に当たるのではなく、補給路を断たれて餓死病死するに至る悲惨極まりない結果を招いたのであり、彼等の罪は万死に値する。昭和史の大家と称せられる輩が、今日でもなお唱える山本五十六名将説や海軍善玉論も打破されなければならない。

アメリカの対日攻勢と排日・日支の離間工作 

 アメリカは早くも、米西戦争の翌年、1899年(明治32)には国務長官ジョン・ヘイによる「門戸開放通牒」によって支那大陸へ触手を伸ばし、日露戦争が終結(明治38)するや、セオドア・ルーズヴェルトは「余は従来日本びいきであったが、講和会議開催以来、日本びいきではなくなった」と述べると共に対日戦争計画である「オレンジ計画」の策定を開始し、1909年にはホーマー・リー(後に孫文の軍事顧問)の「日米必戦論」が刊行されて脚光を浴び、この著作は日本でもその2年後に翻訳刊行された。

 また一方、1907年(明治40)のカリフォルニアにおける反日暴動に端を発した排日は、1924年(大正13)の「絶対的排日移民法」制定によって、それまでの排日が州単位であったのに対し連邦法となり、アメリカは国家として日本人移民を完全に拒否した。しかし、同時期にヨーロッパから渡ってきた移民は毎年50万人前後に達していたのであり、日本人移民の数はその1パーセントにも満たなかったのである。

 支那に於いては、ジョン・ヘイの提案により、義和団事件の賠償金によって、1911年に支那人クリスチャン留学生の予備校である「清華学院」を北京に設立して多くの留学生を渡米させ、彼等は帰国後反日親米勢力として活動したが、これは日露戦争後に起こった支那から日本への留学ブームに対する対抗措置でもあった。また、当時支那へ渡っていたアメリカ人宣教師もその数は2千人以上に達しており、彼等は支那の排日運動の黒幕として暗躍した。1919年に起こり、排日運動の発端となった「五四運動」に於いても、背後に米公使館と宣教師による煽動工作があったと言われている。

 1921年(大正10)になるとアメリカは第一次世界大戦後、一層国力と存在感を増した日本の封じ込めを謀るために「ワシントン会議」を開いた。先ず、「四か国条約」によって太平洋の島々の領土と権益の相互尊重と非軍事基地化を唱って「日英同盟を破棄」させながら、米英はハワイとシンガポールを除外して軍事基地の増強を進めた。次に、「五カ国条約」によって海軍力の増強を封じ、日支の協調接近を最も恐れた米英仏は「九か国条約」によって日本の支那進出抑制と日支の離間を謀ったのである。

 金融の分野では米英仏は日本に対し、1920年に「新四国借款団」の結成を強要し、日本独自の支那への投資に足枷を加えた。(4) 

 また、言論や文芸の分野に於いても、1931年(昭和6)以降のヘンリー・ルースの「タイム」に代表される徹底した蒋介石と宋美齢夫妻の賞賛と対日悪宣伝が展開され、パールバックの「大地」がピューリッツァー賞に続いてノーベル賞を受賞し、支那に対するアメリカ国民の友好感情を大きく高めたことも無視できない。

阿片戦争とイギリスの支那支配・抗日支援

 英仏蘭欧州列強の本格的な東洋侵攻は17世紀初頭の東インド会社設立に端を発し、それ以降、東洋のほぼ全域を植民地化した。中でもイギリスはインド、マレー、ビルマ,ボルネオ北部を支配下においた後先鞭を切って支那に進出し、1840年に起こした阿片戦争と南京条約によって広州、上海、寧波、厦門、福州を開港させて租借地を確保し香港島の割譲を得た。

 阿片商人の多くは上海に拠点を構え、その後の「アロー号事件」と「天津条約」によって公認された阿片の輸入に拍車をかけ、清へ送り込まれた阿片の量はピーク時年間約5千トンにも達し、清一国を阿片漬けにして恥じるところがなかった。彼等は、阿片貿易で得た利益を英本国へ送金する為に「香港上海銀行(HSBC)」を設立し、その後、「浙江財閥」とも結託して支那の金融と経済を牛耳るに至った。(5)1937年(昭和12)に支那事変が起こると、英国は国家として援蒋ルートを通じて軍需物資を支援したが、上海の英国系金融資本も国民党軍へ莫大な資金援助を行って抗日を支援すると共に、アメリカに対し盛んに英米仏による対日禁輸を呼びかけたのである。

註1
(1)モーゼが神の啓示を受けて著したとされる旧約聖書の最初の五書、即ち「創世記」、「出エジプト記」、「レビ記」、「民数記」、「申命記」。モーゼ五書ともいう。
(2)選民意識、残忍性、世界支配欲は選民意識、残忍性、世界支配欲は律法の随所に見られるが、代表的な例としては下記のような記述があり、旧約聖書を深く信仰する(アメリカのキリスト教原理主義者は旧約の無謬性を信仰の中心に据えている)ことは自ずと選民意識、残忍性、世界支配欲を抱くことにつながる。「我汝の子孫を増して天の星の如くなし、汝の子孫に凡てこれらの国を与へん、汝の子孫によりて天下皆福祉を得べし」(創世記26章4節)。「汝は汝の神エホバの汝に付し給はん民を尽く滅ぼし尽くすぺし、彼等を憐れみ見るべからず、また彼らの神に事ふべからず」(申命記7章16節)。「我が今日汝等に命ずる一切の誡命を守り行はば、汝の神エホバ汝をして他の諸々の国人の上に立たしめ給ふべし」(申命記28章1節)。〔日本聖書協会編・文語訳〕
(3)父ブッシュは1991年9月11日の一般教書演説に於いて「国連の下での国際協力による新世界秩序が生まれようとしている」と演説し、更に、翌年1月29日の年頭教書演説で「湾岸戦争は新世界秩序という長く待たれた約束を果たすための機会を提供するもの」と言明したが、これは「新世界秩序」が今日のアメリカに於いても生きた標語であることを示している。
(4)「香港上海銀行」他の英米の銀行と日本の「横浜正金銀行」とによって設立された借款団であり、以後、支那への投資は同借款団を通して行われることになり、支那に対する日本の投資の手足を縛った。
(5)宋嘉樹を中心とした、上海を拠点にして支那経済を支配した浙江・江蘇両省出身者による金融資本団。蒋介石による上海反共クーデターを支援。宋霞齢(孔祥熙夫人)、宋慶齢(孫文夫人)、宋子文(国民党幹部)、宋美齢(蒋介石夫人)は宋家の四兄妹。

『WiLL』現代史討論ついに本になる(三)

 26日発売の『WiLL』3月号巻頭に、私の「安倍政権の世界史的使命」という論文が発表されますので、ご報告しておきます。

 『自ら歴史を貶める日本人』(徳間書店)をめぐって、討論者のおひとりの福地惇さんとテレビ討論を交しました。これは私のGHQ焚書図書開封の時間帯を利用して、チャンネル桜より1月16日と30日に放映されます。第一回目はすでにYou Tube にもなっています。本日はまず1月16日分のテレビ放映像をご紹介いたします。

読者へのご挨拶

 今年の「謹賀新年」に付けられた「コメント5」に次の意見があった。

5.いつも、この日録とかネット番組:「GHQ焚書図書開封」を拝読・拝見いたしております。

ですが、先の総選挙における「阿倍政権」の誕生については、何の言及もありません。ひたすら、ご自分が関わられた著書の宣伝にこれ努めているという感じです。

西尾教授は、「反原発」のお立場の様ですから、この視点でも反駁されて然るべきかと思います。(尚、私めは「原発推進」・「核武装しかるべし」・「靖国分祠検討すべし」という立場です。)

何か、深い深いお考えがあっての「日録でのご発言」かとは推察いたしておりますが、少しく寂しく感じております。

コメント by 佐藤生 — 2013/1/6 日曜日 @ 16:37:01 |編集

 これを読んで私は少し当惑しています。深い考えなどありません。当ブログは私の思想活動のごく一部、しかも小さな一部で、全体の思想活動を一冊の本にたとえると、ちょうど「目次」のような役割を果していると思います。そう思って見て下さい。

 私は尖閣問題、女系天皇問題、原発問題、TPP問題について、また日米問題、総選挙とその結果についても、書物もしくは雑誌その他で大抵どのテーマであろうと洩れなく私の考えを述べています。雑誌は今は「正論」「WiLL」「言志」(チャンネル桜の電子言論マガジン)です。そのうちの幾つかは許される限り当ブログに掲示するようにしています。「脱原発」では書物を二冊出しています。

 「コメント5」の佐藤生さんにおねがいします。書物や雑誌などの活字言論をきちんと見て下さい。そちらの方が私の本筋です。ブログだけ見て私の思想を判定しないで下さい。ブログは「目次」か「表紙」なのです。宣伝めいたものと思われても仕方ありません。読者の方はこれを手掛りにして下さい、と言っているだけです。ブログで全思想を表現している人もいますが、それとはやり方が違うのです。

 『第二次尖閣戦争』について、アマゾンに書評がのっていましたので、紹介しておきます。

第二次尖閣戦争(祥伝社新書301) 第二次尖閣戦争(祥伝社新書301)
(2012/11/02)
西尾 幹二、青木 直人 他

商品詳細を見る

「尖閣」でアジア近現代史の虎の尾を踏んだ中国, 2012/11/12
By 閑居人

 「尖閣諸島」という南海の小島の帰趨は、単なる領土紛争を超えて、「近代日本」という国家の政治的経済的アイデンティテイと表裏一体繋がっている。明治維新以来、弱肉強食の帝国主義の世界を生き抜き、敗戦による「帝国解体」も経験して、尚かつ「皇室」の伝統と民主的な諸文化に立脚する「日本」という民族国家。その近現代史と「国家主権」という一点で切り離すことができない問題だからである。
 それにしても、中国人という人種は一体何者なのか。西尾が言うように「一度も国政選挙をしたことが無い国、近代法治国国家でない国、他国を威嚇し脅迫する(無法国家)」(233p)であることは疑えない。
 この対談の中で西尾は繰り返し「中国人とは何者なのか」と問う。そして最近西尾自身が「GHQ焚書図書開封7」で紹介した戦前のシナ通、長野朗が指摘する「ウィルスのように侵入し、シロアリのように食い荒らし、エゴイスティックであるにもかかわらず、集合意志を持つ民族」といった表現に共鳴する。
本書の中で、西尾は怒りを隠さず過去の歴史から説き起こし、青木は冷静に中国、アメリカ、朝鮮半島等日本を取り巻く状況を分析する。西尾が説くように「尖閣戦争」は、近代以来の歴史問題を背後に潜まさせている。そしてそれは、これからの日本という国家の在りようと不可分の関係を持つ問題なのだ。この重大な問題に、石原慎太郎のトラップに乗った中国は、不覚にも多くの日本人を目覚めさせてしまった。
 官製デモの連発は、振り返って1919年「五・四運動」や1920年代の「五・三十事件」等戦前の反日運動が巧妙に仕組まれた官製デモであり、しかも英米大使館やドイツの教唆、コミンテルンの策動と絡んだ事件であったことを改めて想起させた。1945年以来、GHQや共産中国、岩波・朝日が浸透させた「敗戦史観」は、学会で率直にその是非を論じたり、自由に批判したりすることがタブー視されていた。しかし、その呪縛は確実に解けている。
 本書で、二人の論者が説くことは、「尖閣」という南海諸島の一角にある小島が、アジア近現代史において日本が引き受けざるを得なかった歴史の謎を解くと同時に、今後の日本国民の対応が21世紀アジア地域の平和と安定の鍵を握るという、国際政治の現実である。

日本政府よ、覚醒せよ! と訴える一冊。言うべきことははっきり主張すべきだ。, 2012/12/9
By あらフォーティー “Z”

尖閣問題を起点に、中国の現状、米国の立場、そして
日本がとるべき態度と戦略を示す一冊。

ひとつ驚いたことは、尖閣5島のうち、すでに2島は
米国に貸し出されていて、うち1島は国有だということ。

新聞やTVはこのことを報道したか?
そもそも調べてもいなかったのではないか?

そして何よりも、「問題を起こしたくない」「とりあえず穏便に」という害務省の態度と、
中国に誘い込まれて進出し、人質となって逆に政府の足かせとなった経済界。
これが大きな問題だということがわかった。

中国と米国の思惑をしたたかに利用して、日本の国益をしっかりと
守って欲しい。そういう知恵のある政治家の登場が待たれる。

なぜジュンク堂の特集コーナーには置いていないのか, 2013/1/14
Bymt –

尖閣諸島問題・中国問題を取り上げた本の中では最高のものと思われる。以下、いくつか本書で取り上げられた衝撃の内容を書き出してみる。

・小泉首相の靖国神社参拝をめぐって中国で反日暴動がおこったとき、トヨタ自動車の奥田碩(会長)が胡錦濤と極秘に会談し、次期首相は絶対に参拝させないと約束し、実際に安倍首相は参拝しなかった。
・中国の対日経済制裁で困るのは日本国民ではなく、個別の進出企業である。
・最初から永住することを目的とした中国人が大量に来日しており、その連中が日本の福祉を享受している。
・国内問題で困った習近平が、大量流民を放出し、沖縄が占拠され、それが「人権」の名のもとに正当化され、日本侵略がすすんでいく可能性。尖閣問題はこうした破局に至るかどうかの一里塚である。
・2012年の暴動で日本企業が多大な被害を蒙ったその数日後に、野中広務・河野洋平・田中真紀子・高村正彦らは経団連会長の米倉弘昌とともに北京詣でをして、早々と膝を屈した。日本政府が抗議のために、公式行事を中止するようなことはいっさいなかった。
・日本からの中国向けODAは合計3兆6461億円で、2012年も無償援助と技術協力は42.5億円。さらに国民のまったく知らない、財務省の資源開発ローンが3兆円もある
・アジア開発銀行の出資は日本がトップであるが、総裁の黒田東彦は「中国は覇権国家ではない」と公言するほどの東アジア共同体論に染まった官僚で、日本からのODAが減っても、黒田からの対中出資は減っていない。
・アメリカはかつて尖閣の主権が日本にあると認めていた(ケネディとアイゼンハワー)が、その後態度を曖昧にしている(ニクソンから)。アメリカは日中紛争の火種を残しておきたいのである。久場島と大正島は米軍管理下にあり、少なくともこの2島についてはアメリカは中立の立場は取れないはず。それをマスコミも報道しない。
・中国は世界銀行人事をめぐってアメリカと対立はしていない。米中の経済相互依存関係は深く、米中が対立することは不可能となっている。
・中国とアメリカの石油メジャーは非常に仲がよい。クリントンの日中の共同油田開発論
・中曽根は、中韓の圧力に屈してすでに検定にとおった教科書を4回も改定させて。それ以降続く中曽根内閣の呪い。

まだまだ、引用したい部分がある。ほかのレビューワーが西尾幹二氏の日本は三流国家となっている、という発言を敵視しているが、自分で自分を守れない日本はまさに三流国家になろうとしていると言えるだろう。
ところで、ジュンク堂の尖閣諸島特集コーナーにはこの本は置いていない(少なくとも大阪の3店舗では)。極左の孫崎亨の本は置いてあるのに、である。ジュンク堂の政治的偏向が伺われる。

『WiLL』現代史討論ついに本になる(二)

宮崎正弘の国際ニュース・早読みから(平成24年12月26日号より)

西尾幹二ほか『自ら歴史を貶める日本人』(徳間書店)
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 本書は月刊誌『WILL』に連載された四人の座談会をまとめたもので、西尾幹二、福井淳、柏原竜一、福井雄三という四人の論客が近・現代史を縦横に語り尽くしながらも偽歴史家、偽学者等の出鱈目な所論を俎上に載せて、ふたたび立ち上がれないほどに批判している。

 ノモンハンは日本が勝利していたのに、ソ連の謀略宣伝と敵のプロパガンダに内通した日本側の利敵行為などにより、ソ連が勝ったと長く信じられてきた。

 すでに南京大虐殺も、三光作戦もでっち上げであることは120%証明されたが、まだ左翼のプロパガンダを鵜呑みにして、意図的に中国に都合の悪い事実を伏せる売国的学者、それも東京大学あたりに蟠踞しているから始末が悪い。
 
 本書では主に加藤陽子、北岡伸一、それから「長屋の歴史講釈師」として、まだ命脈をもっている半藤一利の三人を批判するが、ほかにも大勢の左翼作家(司馬遼太郎とか)や学者が批判の対象となって登場している。

 小誌の読者にとって、おそらく内容の紹介は多言を要せずだろう。

 そこで本書のなかでふたつ気になった個所をのべてみると、第一は文明の衝突、あるいは宗教の衝突だったとする日米戦争という解釈において(その論旨には賛成であるが)、蒋介石は宋美齢にいわれて敬虔なキリスト教徒になったため米国の支援を受けたという流れ。 

 この指摘はまことにその通りだが、評者(宮崎)は一貫して蒋介石は偽キリスト教徒だったと考えている。

 蒋介石の生まれ故郷は浙江省寧波郊外にある。かつて寧波のホテルからクルマを雇って二時間ほどで着いた。生家は観光客用に解放されているが、この家には礼拝室がない。

 他方、南京、廬山、杭州などにある宋美齢の別荘を見学したが、かならず立派な礼拝室があり、大きなマリア像が客間に飾られ、いかにも意味深であり、そして不思議なことに夫婦のベッドルームは別々、風呂も別々だった。

 蒋介石は積極的に聖書から引用しての演説をしていない。つまり礼拝室を意図的につくるなど、米国向けの演技の舞台装置である。

 張作霖爆殺人も河本大作犯人説は覆った。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%B5%E4%BD%9C%E9%9C%96%E7%88%86%E6%AE%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E3%82%BD%E9%80%A3%E7%89%B9%E5%8B%99%E6%A9%9F%E9%96%A2%E7%8A%AF%E8%A1%8C%E8%AA%AC

 真犯人は張作霖の子、張学良か、あるいはロシアの謀略機関、もしくは両者の共同謀議であり、これも伊藤博文暗殺の真犯人が安重根でなかったことと同様に謀略の仕掛けは、ソ連式であることに留意しておきたい。

 これらはともかくとして本書は中味がぎっしり詰まって左翼史観への反撃集となったが、装丁も親しみやすく、価格も廉価に抑えられていて、願わくは大ベストセラーとなって世の迷妄を晴らしてほしい。

1月19日のお知らせ

 1月19日(土)NHK教育テレビ0時00分から(金)深夜にかけて、私が1983年4月に出演した『ETV特集、日本を作った日本人~新島襄・自由の構図~』が再放送されます。今年の大河ドラマで新島の妻の物語が放送されることにちなんで、昔のアーカイブから新島に関連する番組を再現するものと思われます。私は48歳でした。

 0:00時から三本流すので私の出演する番組は1:00頃の放送かもしれない、との報せがありました。私が新島襄に取り組んだことはうっすらと覚えていますが、何をどう取り組みどう語ったか、まったく覚えていません。

 あの頃私はNHKによく出ていました。「日本を考える」という正月討論番組にも何度か出ていて、若き日の麻生太郎財務大臣ともあの北岡伸一氏(『日中歴史共同研究』の主査の)ともその昔同席しました。

 それぞれの内容をある程度覚えているのですが、どういうわけか新島襄はまったく覚えていないのです。

 だから再放送は楽しみですが、少し恥しいような怖いような気もあります。とりあえずお知らせします。

 尚この1月19日は私の記念講演の日です。プログラムは次の通りです。

   

    西尾幹二全集刊行記念(第5回)講演会のご案内

 西尾幹二先生のご全集の第5回配本「第4巻 ニーチェ」 の刊行を記念して、下記の要領で
講演会が開催されますので、是非ご聴講下さいますようご案内申し上げます。
 
                        記
 
演 題: ニーチェの言葉「神は死せり」 -日本人としてどう考えるかー 

日 時: 平成25年1月19日(土) 開場:午後2時 開演:午後2時15分
                  (途中20分の休憩をはさみ、午後5時に終演の予定です。)

会 場: グランドヒル市ヶ谷 3階 「瑠璃の間」 (交通のご案内 別添)

入場料: 1,000円 (事前予約は不要です。)

懇親会: 講演終了後、西尾先生を囲んでの有志懇親会がございます。どなたでもご参加
     いただけます。 (事前予約は不要です。)

     午後5時~午後7時 同 「珊瑚の間」 会費 4,000円 

お問い合わせ 国書刊行会 (営業部)電話 03-5970-7421
FAX 03-5970-7427
E-mail: sales@kokusho.co.jp

『WiLL』現代史討論ついに本になる(一)

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 『WiLL』誌上で私が三人の現代史研究家、福地惇、福井雄三、柏原竜一の三氏とくりひろげた「昭和史」論者への批判的討議がまとめられ、本になりました。年末に刊行され、いまやっと店頭に出ました。『自ら歴史を貶める日本人』という題で、徳間書店刊、¥952です。

 「はじめに」と目次をご紹介します。文字通り「徹底批判」ですが、かたわら笑いあり冗談ありで、堂々と楽しみつつ論難しています。手に取ってご覧になって下さい。きっとこれは買わなきゃ損だと思う一冊です。しかも安い値段です。

 1月の私のGHQ焚書図書開封の時間を利用して、この本について私と福地惇氏のフリーなトークが2週にわたって行われます。これも1月中に放映され、You Tubeにも出す予定です。お楽しみ下さい。

はじめに

 どういうわけか「昭和史」というのがはやっています。半藤一利氏の同名ベストセラーを筆頭に、秦郁彦氏や保阪正康氏や北岡伸一氏らは早くからこの分野をプロパーな舞台に活躍していましたし、そこに加藤陽子氏が新たに加わって、それぞれの特色を出して、読書界の表面を賑やかにしています。

 私たち四人はかねてから彼らの仕事ぶりに何となく腑に落ちないものを感じていました。日本は外国と戦争したわけですから、外国の歴史を考えないで自国史を語れません。彼らは、戦争は相手があっての話なんだということが全然わかっていない。

 彼らの思考は日本史だけの狭い座標軸で、小さなコップの中で水が波騒ぐように旋回して空回りしているように見えます。

 スペインやポルトガルの地球規模の拡大はひとまず措くとしても、オランダ、フランス、イギリスの西力東漸(せいりょくとうぜん)、ロシアとイギリスによるユーラシアの南北分割の勢い、アメリカの太平洋への闇雲の伸長は、「昭和史」叙述のいわば前提条件です。歴史を見るのに空間的視野の広がりを持つ必要がある所以ですが、時間的視野の広がりを持つことも必要です。歴史を短く区切ることはできません。何年から何年までが暗黒時代だったと区切るとすれば、そこには政治的意図があります。昭和3(1928)年あたりから歴史が変わったように言うのは東京裁判の要請からくるもので、占領軍がかねて日本史にそれを求めてくるのは、16世紀からの西欧のアジア侵略を視野に入れさせないためであることをしっかり留意しておくべきです。

 私たちがこの本を通じて読者の皆様にぜひとも認識を改めてもらいたいと願っているのは近代日本の戦争の評価ということです。それは公認の歴史教科書に書かれていることとは逆であります。先の大戦争は日本が主導して起こした戦争ではなく、日本は無理やりと言ってもいいような状態で戦争に巻き込まれたことが現実の姿です。

 それから中国大陸のことを考えるなら、非常に早い時期から混乱の極みにあった地帯で、そこへ日本が入りこんでいったがゆえの混迷と政策のまずさは区別されねばなりません。内乱は中国史の常態であるのに、今取り上げたかたがたの「昭和史」は中国をまともな国家のように描いています。いくつもの政府があった大陸を、一つの主権国家のように扱っています。たしかにそのような乱れた中国を日本人がバカにしたのは事実ですけれども、だからといって「侵略」ということにはなりません。日本は中国を何とか普通の国にしようと努力して、扱いかねて、手こずって、火傷をしたのです。戦争をしたがってのは中国人のほうでした。とくに都市部の中国人がそうでした。

 われわれは英米とソ連が手を組むという理屈に合わぬ敵を相手にして戦ってしまったわけですが、ナチスドイツの台頭を阻もうとして二つの異質の勢力が手を結んだあの戦争は、キリスト教ヨーロッパ文明の内部の宗教的な動機を宿した「内戦」だったのではないでしょうか。日本は国家以前のような中国に介入するべきではなかったけれども、西洋の宗教戦争とも本来は無関係でした。

 しかしあの時代には孤立を守っていることなどできなかった。世界に背中を向けていれば、間違いなく日本民族とその列島は列強の餌食になったことでしょう。われわれの先人たちは必死に生きたのです。近代日本人はまさに大変な危機に遭遇させられて、防御対応に並々ならぬ努力を重ねたのでした。

 アメリカ占領軍(GHQ)史観、勝者の裁きの歴史観をわが国の近現代史に当て嵌めて全く恥じることを知らない当代の「昭和史」論者たちは、これら先人の歩みを裁くことに急で、その辛苦に涙することを知りません。私たち四人は彼らの歴史の書き方に疑問と懐疑をずっと抱いていました。平成20年ごろに「現代史研究会」を起ち上げて、言論誌『WiLL』で討議を重ね、平成20(2009)年9月号から平成23(2011)年12月号までに、つごう11回に及ぶ討議を公開して参りました。

 この期間、私たちを支え励ましてくださった『WiLL』の花田紀凱編集長とスタッフの皆様に厚くお礼申し上げます。

 以下ここにその全討議の内容をあらためてまとめて一括し、ご紹介する次第です。

平成24年12月3日

自ら歴史を貶める日本人観 ◎ 目次

第1章 捻じ曲げられた近現代史
第2章 日米戦争は宗教戦争だった
第3章 加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』は青少年有害図書
第4章 半藤一利『昭和史』は紙芝居だ
第5章 北岡伸一『日中歴史共同研究』は国辱ハレンチの報告書
第6章 日中歴史共同研究における中国人学者の嘘とデタラメ

平成25年 謹賀新年

日本が「孤独」に強くなる心得

 中国で暮らしている日本人は、昨年は不快なだけでなく不安な思いに襲われただろう。国内の日本人に動揺はなかったが、大陸全土を挙げてのあれほどの破壊行動を見せつけられては、鷹揚(おうよう)な国民もさすがに沈黙した。心の底に冷たい拒絶感情が宿った。

 第一次世界大戦のあと、1920年代にも、「日貨排斥(はいせき)」と当時は言った同じようなしつこい日本商品ボイコットがあった。中国人の日本への劣等感と抑鬱(よくうつ)感情と世界の中での自分の弱さをまったく見ようとしない独善性が原因だった。それに英米がけしかけた。キリスト教教会が反日暴動に手を貸す裏方の主役だった。1923年頃からそれがコミンテルンに取って代わり、一部において英米も排斥されるようになった。ロシア革命からわずか5-6年でコミンテルンの影響は野火のごとく燃え広がった。

 情勢は入り組んで複雑だったが、もしも英米がソ連と手を組まなかったならば、第二次世界大戦は起こらなかっただろう。そして英米ソの結合には中国の内戦が深く絡んでいる。

 私は昨年9月のあの滅茶苦茶な中国全土を蔽った暴動デモのシーンをテレビで見ながら、1920-30年代の世界動乱もまた、支那人の「日貨排斥」が始まりだったな、と考えていた。当時の支那は国家ではなかったが、今の中国もまだ国家ではない。図体だけがいかに大きくても、発達段階の遅れた、独裁と非文明の前近代集団である。

 いまわれわれの眼の前にあるのは、他国の力で経済的に有頂天になった中国の次第に近づく没落への秒読みと、黄昏(たそがれ)の帝国アメリカのどこまで踏ん張れるかの半ば逃げ腰のポーズと、そのどちらが長持ちするかの勝敗分け目のシーンに外ならない。もちろんわが国の運命を直撃するドラマである。

 それにつけても思うのは、中国の災いは日本にのみ「政治リスク」となって降りかかり、アメリカやヨーロッパ諸国は大陸で稼ぐだけ稼いで機を見てさっさと逃げ出せばよく、日本だけが耐え忍ばねばならない不運と悲劇であることは、第二次世界大戦前とまったく同じだということである。その点をわが国民はどの程度認識しているであろうか。

 私はテレビを見ながら、わが国民に心の中で訴えていた。わからず屋の中国人と半ば逃げ腰の欧米人を見て、皆さん、先の大戦がなぜ起こったか体験的によく分ったでしょう。現代を通じて過去の歴史が分ったでしょう、と。百年以上前から日本民族が東アジアでいかに誠実で孤独であったか、日本人の戦いが不利で切ない状況下でのいかに健気な苦闘であったかが、今度のこの尖閣をめぐる情勢を通じてしっかり心に思い描くことができたでしょう、と。

 アメリカは尖閣の防衛に安保条約第五条が適用されると言っていて、目下一応の抑止にはなっているが、武力行使には議会の承認が必要で、しかも尖閣の施政権はいま日本にあるが、主権がどの国になるかに関しアメリカの立場は中立であると言っている。尖閣の実行支配は日本がしているが、島の帰属について責任ある判断はしないという意味で、中国が侵略して実行支配を開始したら、アメリカはそのあと何もしないと言っているのと同じである。

 しかも武力以外の中国の侵略、流民の大量放出であるとか、沖縄独立を煽動(せんどう)しての行政の間接支配等については、安保条約はまったく適用されない。島の防衛は日本人自らがこれに当るしかなく、いよいよとなったときアメリカは当てにならないことは明らかである。日本がアメリカから独立した軍事意志を確立することがまさに急務である所以だが、それには時間がもうそんなにはないのである。

 欧米が国際法の取り決めなどを先に決めておいて、それが中国に有利、欧米に好都合で、日本に一方的に不利だった戦前のワシントン条約以来の流れがまだつづいていて、何となくそれが残っているのではないかとしきりに感じられることが最近はまま多い。

 私がいつも不思議に思うのは、自由主義の国が共産主義独裁国家の人間に土地や株や債権を売ることを国内法で禁じていないことである。日本人が中国の土地を買って私有化できないのに、なぜ中国人が日本の不動産や水源地を自由に買うことが許されるのだろうか。中国の政府系ファンドがM&Aで日本の会社を買うことが許されるなら、その逆の自由があってしかるべきであろう。全体主義的共産主義国家の人民に、自由主義国家の国民と同等の権利を、自由主義の国家内部において与えることは矛盾であり、はっきり国内法で禁止すべきだと思う。

 考えてみるとどうもこういう見境のなさを許しているのは、戦前も戦後もアメリカである。その方がそのときどきのアメリカに都合がいいからである。アメリカの意図的なルーズさが日本につねに固有の「政治的リスク」でありつづけた記憶がわれわれにはある。

 一度も国政選挙をしたことのない国、三権分立を知らない国、法治国家とはいえない国、政党間対立を経験したことのない国、人民元がいかに強くても外国通貨と交換できない国、知的所有権などいくら言い聞かせても分らない国、WTOに入れてあげたけれども違反を繰り返す国、何かというと過激な表現で他国を脅迫し威嚇する国、精神的に閉鎖している国、要するに北朝鮮をただ図体大きく膨張させただけの国……。

 このような国が国際非難を浴びずに平然と存立しているのはアメリカその他がまともな国家として扱い、尊重し、対話するからである。戦前にも同じようなことがあった。国際基準が混乱し傍迷惑(はためいわく)であることおびただしい。日本は長いものに巻かれろでじっと我慢するばかりである。しかも一番大きな被害を受けるのはつねに日本であってアメリカその他ではない。

 ただこの不当と不運を強く訴えれば、アメリカ国内にはそれに耳を傾ける勢力が必ずいる。その政治勢力は日本の政財界、経済界、いわゆる親米保守派が気脈を通じているアメリカの主流派ではない。アメリカの主流派は昔も今も、日本を飼い馴らし、骨抜きにし、利用しようとしている勢力にすぎない。日本の親米保守派は日本国民の本当の利益を考えていない。

『鶯の声』1月号より

『女系天皇問題と脱原発』書評

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宮崎正弘の国際ニュース早読み(メルマガ)より

西尾幹二&竹田恒泰『女系天皇問題と脱原発』(飛鳥新社)
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 これは論壇への爆弾、コントロバーシャルな問題提議の書である。
 いきなり竹田氏がこう切り出した。
 「(女系天皇をすすめている左翼系や反体制文化人が多いが)もしかすると彼らは最終的に皇室の廃絶まで考えているのではないかと思うんです。と言いますのは、彼らの言う、いわゆる女系なる天皇が成立したら、それはもはや天皇ではないと言えるわけですから。女系天皇の誕生で、万世一系の皇統はこれで終焉を迎えたのであって、もはや国民と同じ血筋だ、という話になって、皇室をなくすための先鞭をつける」。 
 対して西尾さんは、『正論』や『WILL』での議論を踏まえて、
「天皇家に基本的人権を持ち込むのは、戦後民主主義的な一連の破壊主義の思想と切り離せないものがある」とずばり本質を抉る。
 ふたりの議論は白熱し、永田町と官界と皇室関係者のあいだで、如何なる「暗闘」があったかを紹介しているが、その凄まじき陰謀的な動きを知ると、ここまで日本の中枢が腐っているかが具体的に人名もでてくるので、手に取るようにわかり愕然となる。
 この二人は或る問題では論敵だったが、こと女系天皇と原発では奇妙に意見の一致を見る。
「不安と希望の間を行ったり来たりしながら深まる考察」と銘打たれた本書は、いずれにしても論壇に仕掛けられた紙の爆弾である。

平成24年坦々塾忘年会報告・お知らせ

中村敏幸さんの報告です。

 
 12月15日、午後6時より「ホテルグランドヒル市ヶ谷・真珠の間」に於いて、「坦々塾忘年会」が開催され、40名の会員の方が参加されました。

 会は、当日が衆院選投票日の前日ということもあり、西尾先生の「時局展望」に関する御講話から始まりました。

 その中で先生は、中国が福建省に大規模な空軍基地を建設して戦闘機と部隊を移動させたが、今後尖閣をにらんで広範囲な海域で攻撃訓練を展開し、或いは核兵器をちらつかせるかもしれない。そして、習近平がどのような人物かまだよく分かっていないが、胡錦濤ほど抑制が効かず、中国に通じている知人は「冒険主義」に出る可能性があると言っている。わが国は相変わらず核兵器の保持について一切語らないが、石原慎太郎氏は選挙戦で「核武装のせめてシミュレーションでもすぐに始めよう、実行は先の話でもいい」と主張したが、この問題は選挙戦の争点に全くならなかった。彼は国防意識は最も優れている。しかし、とてもその器ではない長男伸晃氏の自民党総裁就任を望む等私心は拭い去れない人物である。それに対し、安倍晋三氏は精神的に弱いところがあり、その点が心配でおるが、一番私心の無い人であると評され、橋下徹氏に対しても「柔軟で実行力に優れた人物である」と評されました。そして、いずれにせよ、この選挙を経て新しい政権による国家運営が始まると結ばれました。

 続いて西尾先生と司会者から、今年文筆出版活動に於いて活躍された会員の紹介が行われました。紹介された方々は以下の通りです。

1.中村敏幸氏:アパグループの第五回「真の近現代史観」懸賞論文に於いて、応募
論文「日米百五十年戦争と我が国再生への道標」が「優秀賞」を受賞
2.渡辺 望氏:著作「国家論・石原慎太郎と江藤淳」を出版、総和社
3.河内隆彌氏:パトリック・ブキャナン著「超大国の自殺」の翻訳を出版、幻冬舎
4.馬渕睦夫氏:著作「感動的な日本の力」を出版、総和社
        著作「国難の正体」を12月末に出版予定、総和社
5,溝口郁夫氏:編著「南京『百人斬り競争』の虚構証明」を出版、朱鳥社
        編著「秘録・ビルマ独立と日本人参謀」を出版、国書刊行会
6.西尾幹二、福地惇、福井雄三、柏原竜一氏の対談「自ら日本を貶める日本人」
        12月中出版予定、徳間書店
7.松木國俊氏:著作「本当は『日韓併合』が韓国を救った」を昨年出版、ワック社
8.伊藤悠可氏:「正論8月号」に論文「田中先生、それを詭弁と言うのです」を投稿
        *女系天皇容認論者の首魁、皇学館大学元学長田中卓氏を論駁
9.佐藤春生氏:総和社の編集者として渡辺、馬渕両氏の著作の編集出版に携わる

 続いて新会員4名の方の紹介があり、また、会員のお一人である林千勝氏が、今回の衆院選に、日本維新の会の公認で千葉7区から立候補されたことも紹介されました。(結果は圧倒的な組織力を誇る自民党の斉藤健氏に当選を譲ることになりましたが、孤軍奮闘、民主、みんな、未来、共産、社民の各候補を押さえて第2位の29,665票を獲得されました)

 続いて島崎隆氏の乾杯の音頭で懇親会に移りましたが、会は大いに盛り上がって談論風発、お開きになった後も、西尾先生を中心に二次会、三次会へと続き、漸く11時過ぎに再度のお開きとなりました。

 西尾先生は、昨年10月から始まった「西尾幹二全集」も予定どおり第五回配本を終えられ、それに伴って合計4回の記念講演を催され、また、各種月刊誌への投稿と単行本の出版をされ会員一同驚嘆するばかりの御健筆を揮っておられますが、多くの会員の皆様も各分野で活躍され、今年は実り多い一年であったのではないでしょうか。

 今回の衆院選では「憲法改正」を選挙公約に掲げる政党が大きく躍進しましたが、これはかつては全く想像も出来なかったことであり、「憲法改正or自主憲法制定」も愈々現実味を帯びてまいりました。来年は、我々会員も更に気合を入れなおし、西尾先生を中心にして、我が国が一日も早く本来の姿を取り戻すべく眦を決して戦う年であると思います。(文責中村敏幸)
 

       西尾幹二全集刊行記念(第5回)講演会のご案内

 西尾幹二先生のご全集の第5回配本「第4巻 ニーチェ」 の刊行を記念して、下記の要領で
講演会が開催されますので、是非ご聴講下さいますようご案内申し上げます。
 
                        記
 
演 題: ニーチェの言葉「神は死せり」 -日本人としてどう考えるかー 

日 時: 平成25年1月19日(土) 開場:午後2時 開演:午後2時15分
            (途中20分の休憩をはさみ、午後5時に終演の予定です。)

会 場: グランドヒル市ヶ谷 3階 「瑠璃の間」 (交通のご案内 別添)

入場料: 1,000円 (事前予約は不要です。)

懇親会: 講演終了後、西尾先生を囲んでの有志懇親会がございます。どなたでもご参加
     いただけます。 (事前予約は不要です。)

     午後5時~午後7時 同 「珊瑚の間」 会費 4,000円 

お問い合わせ 国書刊行会 (営業部)電話 03-5970-7421
FAX 03-5970-7427
E-mail: sales@kokusho.co.jp

「アメリカ観の新しい展開」(六)

 「アメリカ型正義で歴史が非人間的に」(西尾)
「戦争ではなく『警察行動』」(福井)

福井  『天皇と原爆』五十三ページですが、「私は先にアメリカは膨張国家だと言いました。しかしその膨張の仕方はロシアともイギリスとも中国とも異なります。アメリカは先ほど言った通り本当は膨張する必要がないのに、建国の理念、宗教的に自らを『正義』の民とするイデオロギーのために膨張せざるを得なくなっているのではないかとの疑念に襲われることがあります。いちばん厄介な膨張国家です」と書かれています。これは、先ほど紹介したトゥーヴェソンの『救済する国家』の内容と一致しています。アメリカが世界を救済するという宗教的信条が、アメリカの対外政策の背景に一貫してあるということです。

西尾 正義を売りものにする。

福井 そうです。リンカーンは南北戦争時、そう考えていた。逆に、だからこそ残虐になれる。大変立派なことをしていると信じているので、手段を選ばない。

西尾 南北戦争のリンカーンの正義の理念が、その後の世界の戦争の形態を残酷にしました。第一次世界大戦が終わったときに、「戦争犯罪」「戦争責任」という概念が初めて出てきて、ドイツ皇帝だったヴィルヘルム二世の訴追が言われ、彼はオランダに亡命せざるを得なかった。

 それでもアメリカは、何百人ものドイツ人を戦争責任者として摘発して裁判をすると言い出した。イギリスもフランスも大喜びで同調しましたが、ドイツは拒否します。それでもしつこく米英仏が言うので疑似裁判をしたけれども、結局、ドイツは証拠なしということですべて拒否します。これは筋の通った態度でした。  当時のドイツは、戦争はお互いの正義のぶつかり合いで、力の勝った者が領土を取ったり、賠償金を取ったりすることで解決しているのであって、道義的な正義の観念を持ち出すのは間違いだと言って拒否しました。まことに立派だった。

 ところが、それが、その後も繰り返される。アメリカは第二次大戦に参戦する前の一九四一年八月には、早くもそういう計画を立てている。大西洋憲章です。今度の戦争では二度目の戦争犯罪国ドイツを徹底的に法の名の下に、普遍的な人類の名において裁くと約束する。それが終戦後のニュルンベルク裁判として実現するわけですが、日本は関係ないのに側杖を食って東京裁判をやられた。そして正義と悪の対立関係を持ち込まれて裁かれ、それが日本悪玉史観として今もなお日本を縛っている。敗北者を法の名の下に裁くという発想は、リンカーンから始まっているんですよ。リンカーンの時代には、敗軍の将、敗れた南軍の南部連合国大統領デーヴィスに足かせをつけて、残酷な見せしめまでした。

福井 戦争ではなくて、「警察行動」だったんですね。お巡りさんと犯罪者。  

西尾 その発想はどこから来たのか、ということです。

福井 「自分たちが正しい」という宗教的信念に基づいているということを、『救済する国家』は半世紀近くも前に言っているわけです。決して西尾先生の極論ではありません。

西尾 その「犯罪者」に対する処罰は、どんどん、残酷になっています。大統領デーヴィスが足かせをつけられ、ヒトラーに対しては、そこにいるのが分かっている壕を爆撃せずに自決するのを待った。まだそれは、相手を認めているということでしょう。

 ところが、イラク戦争では、隠れていたフセインを穴の中から引きずり出す模様をテレビで流し、罵声を浴びせながら絞首刑にした。それもテレビで公開された。相手のトップに対する処遇は、だんだん非人間的になってくるんです。カダフィ大佐にいたっては、見つかった現場で射殺された。少年が撃ったということになっているけれども、歴史がアメリカ型の正義の名の下で非常に非人間的になってきていると感じますね。

『正論』12月号より 了

(プロフィール)  西尾幹二氏 昭和10(1935)年、東京生まれ。東京大学文学部独文学科卒業。文学博士。ニーチェ、ショーペンハウアーを研究。第10回正論大賞受賞。著書に『歴史を裁く愚かさ』(PHP研究所)、『国民の歴史』(扶桑社)、『日本をここまで壊したのは誰か』(草思社)、『GHQ焚書図書開封1~7』(徳間書店)。『西尾幹二全集』を国書刊行会より刊行中(第5回「ニーチェ」まで配本)。11月初旬に『第二次尖閣戦争』(祥伝社、共著)を発売予定。

 福井義高氏 昭和37年(1962年)京都生まれ。東京大学法学部卒業。カーネギー・メロン大学Ph・D。日本国有鉄道、東日本旅客鉄道株式会社、東北大学大学院経済学研究科助教授を経て、平成20年より青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授。専門は会計制度・情報の経済分析。著書に『鉄道は生き残れるか』『会計測定の再評価』(中央経済社)『中国がうまくいくはずがない30の理由』(徳間書店)、訳書にウィリアム・トリプレット著『悪の連結』(扶桑社)。